行政組織の改革

金沢大学の河合晃一先生から『政治権力と行政組織』を頂きました。どうもありがとうございます。行政組織の変更を行うときに,新しい組織が政府から独立性の高い組織になるかどうかというのはいつも議論されるところです。よく出てくるのは,新しい組織を合議制の委員会として作るか,独任制の省庁として作るか,というような話で,理論的な予想としては前者の方が独立性が高くなると考えられます。さらにはその委員会を内閣に置くか省庁の一つと同格にしとくか,人事院会計検査院(さらには裁判所!)のように格別の独立性を与えるか,ということは大きな論点になります。

本書はこのような行政組織の新設・変更について,政権党が野党と合意するときに必要な「コンセンサス・コスト」が重要なんだ,という説明を行おうとするものです。一般に独立性が高い組織を作ろうとすると,その組織が政権の言うことに従わないかもしれないことでエイジェンシー・コストが生じると考えられます。アメリカの行政組織の研究だと,そのエイジェンシー・コストを低くするために新たな組織を強く縛ったり,独立性を低くさせたりすると立法コストやコミットメント・コストがかかることが論じられています。それに対してこの研究では野党との合意にかかるコストこそが重要なんだ,ということが仮説で,政権はなるべく独立性の低い組織を作りたいけども,コンセンサス・コストが高まれば(仕方ないので)多少なりとも独立性の高い組織を作る,ということが予想されます。それを金融監督庁・金融再生委員会,消費者庁,復興庁で検証しようとしています。

コミットメント・コストの説明って,自分でも授業でしたりするわけですが,「ほんとかな」と思うこともあるわけで,確かに本書で批判的に論じられるように,アメリカ特殊的な発想のような気もします。他方,「コンセンサス・コスト」の方も立法コスト都の違いをどう議論するか,というのはもうちょい議論の余地もあるような気がします。あと,出てくる事例は確かに興味深いのですが,これ全部内閣府の内側の話なので,内閣の外の省庁に関するような事例,具体的に言えば防衛庁の省「昇格」や東日本大震災後の原子力規制委員会の設置なんかも視野に入ってもよかったのかも,と思うところではありました。うまくやれば日銀の同意人事なんかも説明できたりするのかもしれませんし。 

政治権力と行政組織: 中央省庁の日本型制度設計

政治権力と行政組織: 中央省庁の日本型制度設計

 

 河合先生からはもう一冊,他の著者のみなさんとともに『現代日本の公務員人事』を頂いております。本書は稲継裕昭先生の還暦記念で編まれたというもので,各章では最近の公務員制度改革の効果や,人事慣行の変化について論じられています。ちょうど行政学の授業で人事関係のところをアップデートしたいと思っていたのでぜひ参考にさせていただきたいと…。個人的には,(授業で時間的に地方の話をできるのかよくわかりませんが)地方自治体の新たな人事慣行について扱った6章(小野英一先生)と7章(大谷基道先生)は詳しく知らないところだったので,非常に興味深く読みました。 

現代日本の公務員人事――政治・行政改革は人事システムをどう変えたか

現代日本の公務員人事――政治・行政改革は人事システムをどう変えたか

 

 もう一冊,行政組織の改革に絡む研究として,山口大学の西山慶司先生から『公共サービスの外部化と「独立行政法人」制度』を頂きました。どうもありがとうございます。個人的にも最近エイジェンシー化や民営化を含む行政改革に少し関心を持っておりまして,勉強になります。

本書では,エイジェンシー化という問題が出てきた理論的背景,国際比較,そして日本的に受容した「独立行政法人」の制度設計と運用,その変化というかたちで論じられています。雑ぱくな感想ですが,日本の場合にはやはり初めに「減量」ということが強調されたことが非常に大きくて,その後の運用や変化においても何というか「減量」できるものだ,するべきものだ,として扱われているような気がします。省庁の側もある種人身御供的に「独立行政法人」を切り出しているところがあってその傾向が強まっているところもあるのでしょうが。

個人的には,(民営化を含めて)公共サービスの外部化・民間化を考えるときに重要になるのはディマンド・サイドの購買力をどのように設定するかということではないかと思っています。本書にあるように,特に最近のNPMの議論の文脈では「市場化」は限定的なものとして捉えられる傾向にあるように思いますが,しかしやはり重要なのは(疑似的なものでも)市場による評価であり,サービス提供者が「利益」を出すことが重要で,それができないときにサービスが不要であるという判断につながってくるのではないかなと。そのためにはサービスの買い手(政府自身も含めて)が非常に重要であることは間違いなく,また必要なサービスを購入できるだけの購買力をどうやって保障するか,ということが制度設計上重要だろうと考えるところです。ただ,日本の場合には「減量」が中心であり,そもそも利益なんてとんでもない,という発想が強いことが,この制度の運用を難しくしているようにも思います。 

公共サービスの外部化と「独立行政法人」制度 (ガバナンスと評価 6)