番号を創る権力

東京大学の羅芝賢先生から,『番号を創る権力-日本における番号制度の成立と展開』を頂きました。どうもありがとうございます。最近,私自身がマイナンバーのような番号制度に関心を持っていることもあり,本当に面白く読ませていただきました。これは番号制度や電子政府はもちろん,広く社会保障行政改革に興味を持っている人必読といっていいんじゃないですかね。

本書を通じて勉強になることばかりでしたが,特に日本における医療や年金,運転免許の番号の発展を分析した1章の3節には感銘を受けました。それぞれの分野において一定の統合が図られる契機があり,それには事務の膨張や行政の電子化が関わっている,という議論です。私自身,番号制度に関心を持つ中で,これらの番号についても考えることがありましたが,本書で批判されているような,分散的な性格を過度に強調するような発想があったことを否定できません。ただ他方で,それぞれの政策分野が自律的に発展していく傾向にあるのではないかとは感じており,その点については本書の議論とパラレルな部分があるような気がします。

他の章についても,重要な示唆がたくさんありました。2章では革新自治体の台頭と番号制度導入の失敗というのはなるほどと思いました。しばしば労働組合が電子化に抵抗する,という話があるわけですが,電子化の初期の時点と革新自治体の隆盛の時期が重なっていて,しかも議会に対して劣勢に立ちがちで住民へのアピールを考える革新市長が「プライバシー保護」を強調しようとするのは納得できます。さらに,3章は日本において本来もっと研究が進んでいるべき電子政府化の歴史についての重要な貢献になっています。電子政府化というのは重要なテーマでありつつ,なかなか切り口が難しいような印象を持っていましたが,本書のような形で整理されて番号制度とリンクされたのは慧眼だと思います。よく考えれば,管理のために電子ファイルを作る時点でどうやっても付番されるわけですから,電子政府と番号というのは切っても切れないものになるわけですし。

さらに,4章・5章について,本書の主要なメッセージである,「本人確認が極めて権力的・暴力的な営みである」ということにもついても考えさせられました。日本のマイナンバーは,結局のところそのような暴力的な営みを可能な限り回避しようとしている結果として,全く使えないもの,あるいは統合どころか単に制度を追加しただけのものになっているのかもしれません。これは今後の番号制度を考えるうえでも非常に示唆的で,日本のような国家においてはこれから統一的な番号を付与するのが難しいということなのだと思います。結局のところ年金番号のようなものを追加していった方がよいのではないかと。他方で,小選挙区制の導入以降の多くの政党が掲げる普遍主義的な方針が貫徹すれば(ある面でスウェーデンのように)強い本人確認の制度もありうるのかもしれない,と思うところもあります。もちろんそれは本書の結論で指摘されるように,福祉国家を縮退させかねないものでもあるわけですが。また,日本においても外国出身の方が増えている中で,強い本人確認の制度については慎重に検討されるべき事項なのは間違いないでしょう。 

番号を創る権力: 日本における番号制度の成立と展開

番号を創る権力: 日本における番号制度の成立と展開