最近のいただきもの(教科書・論文集)

なかなかきちんとご紹介ができておりませんでしたが、以下の書籍を頂いておりました。こちらは教科書や論文集になります。論文集はバラバラで出版が難しい、というようなことをよく耳にするのですが、今回ご紹介している論文集の多くは一貫したコンセプトのもとで著者の間での役割分担がきちんとなされているように思います。個々の論文だけではなくまとまった本として、それぞれのテーマにおける重要な貢献といえるのではないでしょうか。

まず、津田塾大学の網谷龍介先生から『戦後民主主義の青写真ーヨーロッパにおける統合とデモクラシー』を頂いておりました。ありがとうございます。専門外の政治学者から興味深いのは、やはり全体をまとめた網谷先生の1章で、現在の体制は個人の自由に基礎づけられる「リベラル・デモクラシー」と考えられるとしても*1、個人の自由という発想がその基礎にあるというよりは、キリスト教の保守的な人格主義や労働者の集団としての同権化要求が組み合わされた複合的なものとして構築されていったもの、という理解でしょう。このような発想を共有しつつ、本書の各章では、ヨーロッパ各国史の専門家がそれぞれの国における戦後民主主義の形成について描いていくものとなっています。 

戦後民主主義の青写真: ヨーロッパにおける統合とデモクラシー

戦後民主主義の青写真: ヨーロッパにおける統合とデモクラシー

 

 次に執筆者の皆さん(成蹊大学法学部の先生方)から『教養としての政治学入門』を頂いておりました。ありがとうございます。成蹊大学のオムニバス講義をもとにした初学者向けの教科書で、網羅的というよりは面白いトピックを並べて解説していくというスタイルになっていると思います。しかし美味しいところをこうやって書いちゃうと来年以降の授業が大変じゃないすか(笑)とか思いつつ。みなさんそれぞれの分野で大変ご活躍されている方々だと思いますが、12人の活躍する政治学者をそろえてる大学ってすごいですよね。 

教養としての政治学入門 (ちくま新書)

教養としての政治学入門 (ちくま新書)

 

 千葉大学佐藤健太郎先生・関西大学の若月剛史先生からは、『公正から問う近代日本史』を頂きました。ありがとうございます。経済(史)、政治(史)、社会(史)、思想(史)といった分野で公正というテーマを問うという、非常に重要な問題に取り組まれてた共同研究だと思います。何が公正か、フェアか、というのはいちがいに先験的に言うことは難しくて、文脈に応じて公正さを解釈していく必要があり、歴史的な事実を踏まえてそれを確認するのは非常に重要な仕事であるように思います。自分自身も最近住宅の研究などをしているわけですが、たとえば「公的賃貸住宅の経営における適正な利潤とはどんなものか」、といったようなイメージで、公共的な財・サービスを公正に(フェアに)利用するというのはどういうことか、ということを考えることが増えてきました。少し長期で取り組みたいと考えている課題ですので、本書をぜひ参考にして勉強してみたいところです。 

公正から問う近代日本史

公正から問う近代日本史

 

編者の岩崎正洋先生をはじめ、執筆者のみなさまから『大統領制化の比較政治学』を頂いておりました。どうもありがとうございます。以前、やはり岩崎先生をはじめとする研究チームでポグントケ&ウェブの『民主政治はなぜ「大統領制化」するのか』を翻訳されたわけですが、そのテーマを引き継ぎつつ、日本での「大統領制化」presidentializationについての研究を深化させるプロジェクトを進められているということかと思います。もともと議論の対象となっていたヨーロッパの国々だけではなく、日本を含めロシア・イスラエル・トルコなど周縁の国における「大統領制化」を議論しているのはこの本の貢献ということになるのでしょう。また、個人的には、岩崎先生の書かれた1章で、もともとの「大統領制化」論が、ヨーロッパにおける政党衰退論以降の政党政治におけるリーダーの位置づけをどう考えるか、という議論から始まっていたのに対して、もともと政党の弱い日本では政党研究というより執政制度の分析という文脈で論じられているのではないか、という指摘が興味深いと感じたところでした。

大統領制化の比較政治学

大統領制化の比較政治学

 

編者の品田先生・水島先生・永井先生をはじめ執筆者の先生方から『政治学入門』を頂きました。どうもありがとうございます。政治学教科書という「商品」を考えると「商売敵」になるのですが、個人的にはこの教科書は非常に面白く感じました。正直、どういう風に執筆者を揃えたのかよくわからないのですが(すみません)、本当に第一線でいろいろなお仕事をされているみなさんが、コンセプトを共有して教科書書いてる印象があります。具体的に言えば、序章で説明されている、方法論的個人主義の相対化、理論と実証のバランス、民主主義の強調、というような特徴が確かにどの章でも意識されているなあと感じたというか。だいたい一人一章にするとなんかバラバラになりそうなもんなんですが。一つの理由は、章の尺が結構長いっていうことがあるようにも思います。データやグラフもふんだんに利用されていますし、取り上げられてるトピックについてきちんと説明されている印象もあります。ひょっとしたら好みの問題なのかもしれませんが、教科書というだけでなく、読み物としても面白いものになっていると思いました。 

政治学入門 (学問へのファーストステップ 1)

政治学入門 (学問へのファーストステップ 1)

 

 次はアメリカ政治の教科書です。編者の岡山先生・西山先生と、執筆者の西川先生から『アメリカの政治』を頂きました。どうもありがとうございます。本書では初めに総論として歴史・思想、統治機構、選挙と政策過程、という前提となる知識が扱われ、そのうえで争点として人種とエスニシティ、移民、ジェンダーセクシュアリティー、イデオロギー社会福祉、教育と格差、規制、財政と金融、科学技術、外交安保、といった問題が取り上げられています。アメリカは日本にとって最も関心を持たれる国のひとつなわけで、何が起きてるかについて内在的に理解することへの要請は少なくないわけですが、本書の総論を読んで理解したうえで、個々に問題になってくる争点をその時々に応じて読む、というような利用の仕方もできそうです。 

アメリカの政治

アメリカの政治

 

さいごに京都大学の近藤正基先生から、『教養としてのヨーロッパ政治』 を頂きました。どうもありがとうございます。「教養としての」とあるわけですが、カバーする国はいわゆる西欧諸国にとどまらず、旧社会主義国である中東欧や旧ソ連地域、トルコなども含んでいるうえに、それぞれの国の政治体制、社会経済政策、外交安保政策、移民政策などを基本的にカバーした本になってます。私なんて教養どころか知らないことばっかりですみません…という感じになってしまいそうですが。類書で思い出すのはやはり29国という多くの国を取り上げた『ヨーロッパのデモクラシー』ですが、あちらが主に政党政治、政党間競争について注目しているのに対して、『教養としてのヨーロッパ政治』は政策について半分以上のページを割いていることが特徴といえるように思います。

教養としてのヨーロッパ政治

教養としてのヨーロッパ政治

 
ヨーロッパのデモクラシー

ヨーロッパのデモクラシー

 

*1:我々の教科書を引用していただいてありがとうございます!