最近のいただきもの

大阪成蹊大学の小田勇樹先生に『国家公務員の中途採用』を頂きました。どうもありがとうございます。非常に重要でかつ変化のあるテーマで,私自身も(日本の話としてですが)興味を持っていて,とても面白く読ませていただきました。日英韓の分析となっていますが,中心的にはイギリスを対象にされているように思います。

公務員の人事システムを考えるときに,日本のように閉鎖的なキャリアシステムと,アメリカのような職に人を充てるポジションシステムというのがあるということが言われます。キャリアシステムでは内部登用で,ポジションシステムでは外部労働市場が重要,と言われてまあ教科書的にはそう教えるわけですが,本書の議論では,ポジションシステムであっても最終的には政府内部で習得される技能が重要であって,政策形成の場面ではそのような技能を持つ人々が登用されることになる,ということがイギリスの例から論じられています。これは常識的ではあるかもしれませんが重要な示唆だと思います。日本の場合,どうしてもアメリカという巨大な例外を見てしまうのでポジションシステムの理念型みたいなものに引っ張られますが,アメリカでも実際は内部で職位を向上させていく職員が重要だということはよく聞きます(そして授業でも言います)。そのような理念型が持つ神話を解体して,現状の日本に必要な示唆を出されている本なのではないかと感じました。

日本についての示唆は,いちいちご指摘の通りだなあと思いながら読んでおりました。基本線としては変わっていない中で最大動員のシステムの延長線上で働き方改革をしていると言いますか。結局のところ,システムの話は総定員法の問題と解雇というか雇用終了をどうするかという問題に行きつくように思います。雇用終了が本丸だ,というのはおそらく20年前から全く正しいと思うのですが,周辺領域を変えて本丸に至るのではなく,初めから本丸に突撃した改革が進められてきたのが一つの不幸の原因なんだろうなあと。イギリスなんかもそうなんでしょうが,ポジションシステムで運用してどっかのタイミングで雇用終了する,例外的なところを導入しながら移行していくというのが大事なんでしょうけど,移行のイメージ・移行後のイメージがなかなか共有されないのが難しいところであるように思います。本書で取り上げられているイギリスの例は,ひとつの移行後のイメージなんだろうなあ,と。 

国家公務員の中途採用:日英韓の人的資源管理システム

国家公務員の中途採用:日英韓の人的資源管理システム

 

 東京大学前田健太郎先生には『女性のいない民主主義』を頂きました。どうもありがとうございます。ジェンダーの観点から政治学を展開するという本書の議論は,現在本当に喫緊の課題だと思います。自分もこの数年海外とやり取りすることが少しずつ増えて,日本の同僚に女性がいないことについてコメントされたり逆にコメントを求められることも少なくありません。女性がいないとパネルの申し込みができない国際学会もでてきましたし,単にエンパワメントを言うだけではなくリクルートも含めて積極的に女性に入ってきてもらう努力をしないと真剣にまずいように思います。

本書の議論の中では,「女性のいない」民主主義体制の発展に焦点を当てたとりわけ2章を興味深く読みました。政策形成や政党組織に女性がいない,というような点は意識するところもあるのですが,民主主義体制自体については,歴史的に形成されたものでもあり,本書のようにシステマティックに考えてみたことはなく,とても勉強になりました。なお,本当にたまたまなのですが,ご依頼を受けて最近女性と議会といったような話(砂原庸介・芦谷圭祐「女性の代表と民主政治の活性化」『月刊Dio』351号)を寄稿しておりまして,本書の3章のような話を書いておりました。そのようにご紹介するのもお恥ずかしい限りですが,よろしければご覧ください。 

女性のいない民主主義 (岩波新書)

女性のいない民主主義 (岩波新書)

 

近畿大学辻陽先生からは『日本の地方議会』を頂いておりました。どうもありがとうございます。二元代表の制度の説明から始まって,議員の仕事や選挙,お金といった必ずしも制度で規定されていない実態について現場をよくご存知の辻さんらしく丁寧にまとめられたものかと思います。5章の議会改革のところでは,拙論もご紹介頂きどうもありがとうございます。
数年前はほとんど見向きもされなかった議会の選挙制度改革が,色々なところで議論されるようになってきて,個人的には大変素晴らしいことだと思います。私自身は,他の国のプラクティスを見たうえで,同じような発想で改革をした方がよいように思いますが,そうではないということもあるのかもしれません。ただ,『女性のいない民主主義』4章にも通じる話ですが,日本の,特に地方の選挙では依然として「女性のいない民主主義」であって,今少しずつ議論が出始めた地方議会の選挙制度の話も,そのような視点から考えられるべきだと思います。

那覇潤先生からは,『歴史がおわるまえに』を頂きました。ありがとうございます。前著『知性は死なない』で明らかにされたようにしばらく体調をくずしておられましたが,その前に行われた対談を収録した一冊になっています。呉座さん・河野さんをはじめとして非常にキレのある方々との対談はスリリングで面白いものになっています。自分も以前読ませていただいたものが多かったのですが,懐かしさを感じつつ新たに思うところもある読書体験となりました。最近ご一緒することもあるのですが,やはり大胆な着想と同時に細部を忘れないご議論は素晴らしく,ご用意されているという学術論文を中心とした次著もとても楽しみです。 

歴史がおわるまえに

歴史がおわるまえに