日本政治/政治史

前回は比較政治・国際政治研究でしたが,今回は日本政治と歴史関係での最近の研究の紹介。なおこのシリーズもう一回続きます…。それはともかく,村井良太先生からは『佐藤栄作』を頂きました。ありがとうございます。私自身も研究してます住宅政策を含めた「社会開発」から長期政権がスタートしながら,やはり政権後半は「沖縄」に傾斜していくかたちなのだなあ,という読後感を得ました。沖縄への傾斜というのは,(山中貞則の描き方もそうだと思いますが)やはり国民統合を図る保守の政治家の本懐,という感じにも思えます。ノーベル平和賞を受賞したこと,やや国内的には批判があったことは有名なわけですが,私なんかはその時まだ生まれてもいないわけで,なるほどこういう雰囲気だったのかと妙に納得しました。
どうしても沖縄の方に力点が置かれることになるのですが,個人的には,『社会におけるコモンズ』で描いた日本の住宅政策の転換期がずっと佐藤政権だったのだ,ということを改めて感じました。単純に期間だけを見るとまあ当たり前の話ではあるのですが,当該論文を書いたときはそれほど意識してませんでした。ひょっとすると佐藤政権という文脈があったからこその「転換期」であり,しかもそれが現在の方向に行くのは田中政権になってからということにももう少し意味があったのかもしれません。これもまたちょっと仕事関係で読んでる下河辺淳氏のオーラルヒストリーで次のようなくだりがありますが,このあたり,これから歴史(学)的にも分析されていくのだと思います。

佐藤さんというのは,本能的に総理を長期つとめていますから,分析するのは難しい。沖縄復帰についても,佐藤総理論というのはいろいろな意見になり得るのではないか。自民党のその後のトラブルは,佐藤内閣の時に火種があると考える人が多いでしょう(下河辺[1994]240頁) 

 それから村井先生には,清水唯一朗先生・瀧井一博先生とご共著の教科書『日本政治史』もいただきました。明治初期の国家形成から研究されている瀧井先生と大正デモクラシー以降の政党政治を中心に研究されている清水・村井両先生によるもので,近年の質的研究の方法論や政治制度,特に民主体制や政党の研究を意識されているようにも思いました。歴史の教科書というと,時系列にいろいろな出来事が記述されていくようなイメージが強いのですが,この教科書の場合には,もちろん時系列を考慮しながらも,比較的大きなテーマを扱う1つの節のもとで,3つくらいのトピックに分節化する感じで進められていて,個々の重要な出来事が政治学的に説明されている傾向が強いように思いました。

佐藤栄作-戦後日本の政治指導者 (中公新書)

佐藤栄作-戦後日本の政治指導者 (中公新書)

 
戦後国土計画への証言

戦後国土計画への証言

 
日本政治史 -- 現代日本を形作るもの (有斐閣ストゥディア)

日本政治史 -- 現代日本を形作るもの (有斐閣ストゥディア)

 

同志社大学の北川雄也先生から,少し前に出版された本ですが,『障害者福祉の政策学』を頂きました。ありがとうございます。本書は,主に日本の中央省庁レベルに焦点を当てて,障害者政策という分野において政策の効果をどのように把握するか,そしてどのように評価するかという問題について主にその制度面を論じたものです。自分自身,もともと政策評価や行政評価に興味を持っていて,修士論文で取り組んだりあまり誰も読まないような論文を書いたりしておりまして,興味深く拝読しました。

本書の議論では,府省における制度的な評価は行われているものの,障害者政策がその目的を達成していることを示すアカウンタビリティの確保が不十分であるという指摘がなされています。本来は結果によっては担当者を変えたり政策を変えたりすることが想定されるのでしょうが,日本の場合それがなかなか機能しないので,担当者や政策を変えないという結果が前提とした「常に正しい」評価データが出てくることになっているということなのかなあと思いました。その理由の一つはおそらく評価軸が官庁に独占されているからで,その意味で,本書の最後に府省だけでなく障害者当事者団体が行うものを含めた調査活動の話をされているのはなるほどなあと思います。官庁外部も含めて評価軸が形成されてくれば,本来の意味でのアカウンタビリティが発揮されるというときも来るのかもしれません。 

障害者福祉の政策学-評価とマネジメント- (ガバナンスと評価)

障害者福祉の政策学-評価とマネジメント- (ガバナンスと評価)

 

 與那覇潤先生からは,論文集『荒れ野の60年』を頂きました。2006年ころから体調を崩される2014年ころまでに書かれた論文をまとめられたもので,それぞれの論文についての背景の解説を含めた「あとがき」もつけられています。ほぼ同年代ということもあり,いろいろな感慨を持ちながら「あとがき」を読ませていただきました。

時間を見つけてほかの論文も読みたいと思いますが,まずはその「あとがき」で「大学教員として残したなかで,もっとも優れた論文」と書かれて,本全体のタイトルにもなっている「荒れ野の60年」だけ読みました。近代国家となった日本が,「西洋化」と遅れてきた「儒教化」のメリットを享受しながら対外的に拡張していくものの、中心となるアイデンティティを付与する教典のようなものがない中で,統合がなく分断統治が行われ,求心力を失いながら崩壊していく,という絵にはいろいろと納得するところがありました。日清戦争からの植民地主義ついての思想の変遷を鮮やかに論じるというだけではなく,日本の近代そのものについても考えさせられる,こちらもいろいろな感慨を持って読むことができるものだったと思います。 

荒れ野の六十年―東アジア世界の歴史地政学

荒れ野の六十年―東アジア世界の歴史地政学

 

 御厨貴先生からは,『時代の変わり目に立つ』を頂きました。ありがとうございます。主に平成から令和への変わるころに行われた講演や雑誌等への寄稿,対談などをまとめられたもので,なんとこれで通算100冊目の出版となるそうです。なんというか桁が(二つくらい)違うという感じで,それだけ求められるのも,それに応えられているのもすごい話です。僕もいただいたりしてそれなりの冊数持ってるはずなんで,一瞬数えてみようかと思ったんですが,とても多くて研究室・自宅に散らばっているので断念しました。

本書ではやはりご自身が有識者会議で深くかかわられた天皇の退位について触れられているところが多いという印象を受けました。代替わりに非常に近いところで立ち会われて,改めて「時代」が変わるということを感じられているということのようにも思います。その他,個人的には「東京を「広場」と「壁」から考える」が面白かったですね。基本的には城壁を持たない日本の都市の話から始まって,広場もないけどそれをある種代替していた政党本部という「権力の館」,みたいな展開は,まあもちろん仮説検証するような話とは違いますが,いろんなインスピレーションをもたらす「面白い」話だと思いました。

時代の変わり目に立つ――平成快気談

時代の変わり目に立つ――平成快気談

  • 作者:御厨 貴
  • 出版社/メーカー: 吉田書店
  • 発売日: 2020/01/10
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)