自民党大阪府連公開討論会

大阪都構想周辺の研究を10年くらい続けていると,この方にこういう依頼をされると断りにくいなあ,ということも出てきます。今回はそんなかたちのご依頼を受けて,普段やることがないファシリテーターのお仕事をしてきました。しかも,とにかくしゃべりたいことがあるという政治家の皆さんの議論ということで,少なくとも今年一番疲れましたが,ツイッターなどで関係者・党派・面識の有無を問わず多くの労いの言葉をかけていただきとても報われた気分になりました。個々に反応させていただくことは控えますが,ありがとうございます。

討論会では,かなり時間がタイトであって*1,参加された皆さんにはもう少し言いたかったこともあったかもしれないことは申し訳なく思います。実は当初は発言者の発言内容から僕の方で論点を整理してお互いに質問に答える方式で…,という感じを想定していたのですが,早い段階で皆さんが「質問に答える」よりも「考えていることを言いたい」という思いが強いことに気が付いてやり方を変えました。結果,より自由にお話してもらうことになりましたが,不確実な将来の制度に関わることですから,どちらかの「論破」のようなことはそもそも目的とはならず,仮に「平行線」と言われてもそこに乗り越えるべき線があるということを示すことが目的だということで進めたつもりです。で,まあ一応破綻せずに終わってよかったかな,と。

私自身,自分の意見を開陳するような場ではないために,自分としては必ずしも疑問なしとしない点を扱ったり,重要だと考える点を扱えなかったりというところはあります。なので,以下はいくつか改めて明らかになったと考える論点の整理と,それらの論点について私自身の意見や感想を含めたものをメモしておきたいと思います。言うまでもありませんがこれは議事録などを見て作ったものではなく,私の完全な私見ですからその点ご注意ください。

はじめに,広域一元化の問題ですが,討論会の中でも申し上げたように,大きく二つの立場が離れているように見えます。つまり,権限を集中させれば効率的な意思決定が可能になる,という立場と,仮に権限を集中させたとしても関係者の合意は同じように必要だから制度を変える意味がない,という立場です。みんなが明示的な決定ルールに従うというだけなら前者が妥当に見えますし,単なる多数決を超えた一致を決定ルールが黙示的に存在することを強調するなら後者が妥当に見えます。この「平行線」をどう超えるか,というのが自民党に次に求められることのように思います。

ここからは,私が書いたものをご覧いただいたことがある方にはお馴染みという感じの議論ですが,私からは,自民党がその決定ルールをどう扱うか,というややメタな議論こそが真に重要に見えました。つまり,この地方自治制度の外側にある決定の仕方をどう考えるか,ということで政党の決定が重要だろう,と。そう考えているからこそ,都構想という制度のみではこの「平行線」をうまく超えることができないとしてこの制度改革には疑問を呈しつつ,まさに外側をうまく機能させているように見える大阪維新の会という地方政党それ自体は積極的に評価しています*2。最近進めている研究の関連では,ここで政党の決定をどうしても噛まさないのであれば,公平な第三者性を持った機関による紛争処理の仕方を入れるというのもありうるかもしれません。この点については以前に朝日新聞の取材でお話したこともありますが,より詳細には例えばFeiock, Richard C. 2009. "Metropolitan Governance and Institutional Collective Action," Urban Affairs Review, 44(3)とかが参考になるように思います。

次に,広域一元化による効果額,特別区のサービス維持に関する必要額,といった点に共通して財政シミュレーションの問題が議論されていました。反対の方々がシミュレーションの数字は当てにならず,むしろもっと悪い可能性がある,と指摘するのに対して,賛成の方々はそもそも前提が多様でシミュレーションだけで決めることはできない,もっと定性的に見るべきだ,と主張されていたように思います。これもまた「平行線」ではありますが,こちらの「平行線」についてはある程度越える方法もあるように思います。というのは,双方ともに色々な条件でシミュレーションをするのは重要だ,ということは共通していて,それを当局/維新の会が出さないのが問題だ,としているわけです。そうすると,ひとつではないシミュレーションを出すのは有権者にとっても意味のあることなので,何とか粘り強く訴えていくというのがまず重要でしょう。そこでポイントは,どこかに正しい数字がある,とすることではなく,不確実でありどのシナリオに落ちるかわからない,という姿勢を共有することのように思います。そうじゃないと当局(地方官僚)の側でもオチオチ変な数字を出せないとなるでしょうし。

もうひとつ,議論が盛り上がったのは水道・消防,そして最後にちょっと出た廃棄物処理を含めた広域連携という話であったように思います。ツイッター廃棄物処理の連携について述べた西川議員の発言が最も印象的だったとも書きましたが,私にはこのご発言が最も端的に問題のあり方を示していたように感じたからです。ただ議論としては,私の理解が十分でなく整理の仕方が下手だったので,「府域での一元化」と「分散的なサービス供給」の間にある「可能な範囲の広域連携」についてきちんと論じていただくようなことができず,おそらくその結果として「平行線」を示すことができなかったのは申し訳なかったと思います。

個人的には,これらの重要な事務について一元化,といっていきなり全て府が担うというイメージが想像できず*3,4つの特別区に分けたときに大阪市と比べて発言力が小さくなるから(=府のいうことを聞かせやすくなるから)進みやすいのか,ステークホルダーが増えるだけで逆に難しくなるのかもよくわかりません。他方で,(はじめのほうの広域一元化の議論とも重なりますが)この10年のうちに大阪維新の影響下で,廃棄物処理については大阪市・八尾市・松原市,そして守口市の一部事務組合を作って前進させたというのはきちんと評価すべきように思います。これらの材料をどのように統合的に理解すべきなのか,私自身まだよくわからないのですが,大阪市がこれまで国際的な大都市であるにもかかわらず自治体間連携が活発とは言えなかった事実を踏まえて,賛成派/反対派の方々が特別区大阪市の立場でどうやって連携をより進めていくのかはもう少しお聞きしたかったように思います。

残念だったのは,賛成の方が基本的に市外の方々で,反対の方々は特別区に反対されているので,特別区という自治の単位をどう生かすのか,という議論をあまり深められなかったところです。私見では現在の大阪都構想は「特別区を作る」方向に相当程度傾いているように見えますし,市内選出の議員で「大阪市よりも特別区の方が自分の目指す政治ができる」という方がいるとより議論が深まったのかもしれませんが,それには維新の会や公明党の方が必要であったのかもしれません。

パネリストの皆様には,いろいろご不満もおありだったかと思いますがとても真摯に議論に参加していただいたことに改めて感謝します。私にとっても疲れましたがとても勉強になりました。こういう議論が,党派を超えて,大阪の大都市問題・広域連携の問題を解決したいと願う人に参考になるとすればそれほど嬉しいことはありません。…ただ多分もうこの手のお仕事はしないと思いますが。 

 

*1:それでも当初予定より1時間オーバーで,絶対ここまでと言われてたラインも越えてるんですが…

*2:普段言ってることですが一応追記:要するに都構想がどうかと思う理由のひとつは,その大阪維新の会が政党としての凝集性を保ち得る条件であるところの選挙制度を大幅に変えることにつながり,何も残らなくなるだけではないかと懸念するからです。念のため。この辺,別に私は維新支持者ではないのでそれいいじゃないかという見方もあり得ますが,それよりも政党間競争がさらに断片化するのが好ましくない,ということです。

*3:例えばどっちも大変だと思いますが水道より廃棄物処理の方がインフラが相対的に小さいためまだやりやすいように思いますがなぜ水道の一元化が先に出てくるのか,とか