お知らせ-『政治学の第一歩[新版]』について

このたび稗田健志さん・多湖淳さんと共著で有斐閣から出版しております『政治学の第一歩』が,刊行から5年を経過して新版として改めて刊行されることになりました。多くの方がお読みくださり,また大学の授業で教科書として利用してくださったおかげです。執筆者一同,心から感謝申し上げます。

新版の刊行に当たりまして,後期から利用可能な時期というのを意識してはいたのですが,新型コロナウイルス感染症の流行という予期せぬ事態があり,大変申し訳ないことに当初の予定より少し遅くなってしまいました。現在の予定としましては,9月2日ころに見本が出来上がり,9日配本,11日発売となっているそうです。教科書採用をしてくださっている先生方には,見本ができてからなるべく早くお送りすることができると思いますが,それでも変更点によっては授業準備が必要になるかと思います。その辺りご参考になるように,主な変更点をこちらで早めに整理しておきました。

まず,方法論的個人主義に立脚し,自らにとって望ましい選択を行おうとする個人と他者の戦略的相互作用を重視して,私たちの自由を規定する政治について一貫した説明を行う,という本書の基本的なコンセプトはもちろん変わっていません。そのうえで,教科書として利用してくださっている先生方をはじめ,関係する研究者,書評サイトやツイッターで頂いたコメントなどを含めて変更したほうがよいだろうという点を洗い出して整理しました。その中には,「英語で表現するとどうなるの?」と言ったようなものもいただいており,索引で英文表記を加えることで英語の教科書や論文を読む手掛かりを作ることに努めました。

比較的大きな変更となったのは次のポイントです。

・3章:コラムで政治体制の測定を扱うことを含め権威主義体制についての議論を再構成したほか,3節でエリート競合モデルの説明を追加しました。
・4章1節:「コンドルセの定理」を中心とした決め方の説明から,意思決定の前提となる政策の対立軸の説明を行うこととし,イデオロギーについての説明から経済的対立軸・文化的対立軸(GAL-TANなど)・戦後日本の対立軸(保守-革新)の説明を行っています(コンドルセパラドックスはコラムへ)。
・5章2節:ポピュリズムの進展を踏まえたカルテル政党・ニッチ政党の説明を拡充しました。
・6章3節:レイプハルトの「二つの民主主義」の説明が中心でしたが,ここに旧版8章3節で扱っていた政策過程の話を移し,従来の制度的拒否権プレイヤー中心の説明から政治的拒否権プレイヤー中心の説明に変えました(「二つの民主主義はコラムへ)。
・8章2節:旧版8章3節の移動に伴い,官僚制の説明を拡充し,利益団体やロビイングの説明を3節に移しました。
・9章3節:日本の地方分権についての説明でしたが,「ソフトな予算制約」を中心に地方分権の帰結についての説明を行うこととしました。
・11章:国際制度についてのコラムを変更したほか,国際制度の文脈でCOVID-19について扱っています。
・12章:章全体として難民というテーマを拡充しました。

4章1節の変更が一番大きなもので,初版と比べると,社会において人々が参照する対立軸を作り出し,合意を形成する主体となっている政党に力点が置かれる構成になったと思います。また,3章の変更を踏まえて,初版では政治体制については自由民主義体制・全体主義体制があって権威主義体制はその間,というニュアンスがあったものが,今回は自由民主義体制-権威主義体制の二分法を基調にしている,という感じで進めるように,かなり細かく修正していると思います。

 ツイッターでも少し触れていましたが,この10年くらいの研究の進展としては,権威主義体制の研究とポピュリズムを含めた政党システムの研究が大きかったように思います。そして両者に移民・難民を含めたグローバルな人の移動の問題が関わってくる,というような感じでしょうか。そういう雰囲気を出せる改版になっていれば,著者一同非常にうれしく思っております。

もちろんウェブサポートについても拡充する予定です。こちらはそのうち有斐閣の方からアナウンスがされると思いますが,本全体についての紹介のほか,旧版からの変更で落ちてしまったコラムやそのような本文の一部をコラムとして再構成してアップロードします。それに加えて,小テストや動画のようなコンテンツを増やすことも企画しております。

本書を引き続き,あるいは新たにご利用いただけると嬉しいです。ご不明な点があれば出版社にお問い合わせいただくか,あるいは著者であればこのブログやツイッターにコメントいただければ幸いです。

政治学の第一歩〔新版〕

政治学の第一歩〔新版〕