大阪−大都市は国家を超えるか

宣伝ですが、『大阪−大都市は国家を超えるか』というタイトルで新著を刊行することになりました。ご存知のかたにはすぐにわかることですが、これは、御厨貴先生の『東京−首都は国家を超えるか』を承けて考えたもので、内容を比べられると赤面するしかありませんが、「東京」とは違うけども他の大都市とは共通点を持つ「大阪」−ただし「大都市」に係る問題は常に最も先鋭的に現れる−について論じたものとなっています。
そのコンセプトについて、やや長くなりますが本文から引くと、次のようなことを考えています。

本書では、「大阪」というフィルターを通して、日本における大都市の問題を議論していく。同じような議論は、「名古屋」をはじめその他の地域の大都市でも当てはまるところがある。重要なことは、従来の「国土の均衡ある発展」という理想の実現が難しくなる中で、経済成長のエンジンとなる大都市をどのように扱うべきかを考えることである。それは、本質的に特定の地名に回収されるべき問題ではないのだ。
本書を執筆することになった直接のきっかけは、言うまでもなく橋下徹大阪維新の会が掲げる「大阪都構想」と、それに連なる政治的な変動である。2011年4月の統一地方選挙に続き、11月の大阪府大阪市の「ダブル選挙」で勝利した大阪維新の会は、その後の国政進出を表明して日本政治の台風の目となり、その中心にいる橋下徹について毀誉褒貶の様々な評価がなされている。
しばしば目につく評価は、大きくふたつに割れている。ひとつは、橋下こそが「改革者」であり、停滞した日本政治に対して刺激を与えるとともに、将来には国政でのリーダーシップを期待するようなものである。他方で批判的な論者は、橋下が「ポピュリスト」であり、問題の多い政策を掲げながら有権者を扇動してきたとする。このような議論では、橋下徹という個人について論評し、その人格や思想をもとにして「大阪都構想」のような政策への評価を行う傾向が強い。
もちろん、政治家個人について考えることは重要である。橋下についても、その著書を読めば極めて有能な一面を持つ政治家であることは分かるし、実際にこれまでに政治に参加してこなかった層をも動員して多くの支持を取り付けることに成功していることを見れば、それを可能にした個人の人格や思想に注目して議論するのは不自然ではない。しかし、個人に注目し過ぎることは、反対にそこで提案される政策への評価を歪めることにならないだろうか。
大阪都構想」は、その最たるものである。核となる政策であると位置づけられている以上、その主張者の意図と切り離して考えることは難しい。そして、観察する周囲の人間は、主張者である橋下の人格や思想から意図を想像し、そこから「大阪都構想」がどのようなものかを評価することになる。「大阪都構想」の内容が、必ずしも常に一貫したものとして説明されていないために、観察者側の想像で補うことができない部分には、「具体性に欠ける」という批判がつきまとうことになる。
本書では、主張者の意図を離れて、「大阪」という大都市をめぐる歴史の中で「大阪都構想」がどのように位置づけられるかを明らかにしていく。それは同時に、2011年に行われた一連の選挙で勝利した橋下徹大阪維新の会が、なぜこれほどまでに支持を得ることができたのかについての推論を行う作業にもなっている。そのようなねらいのもとで、大都市という存在が現れた明治期にさかのぼり、日本全体と「大阪」――国家と大都市――を行きつ戻りつしながら論を展開していく。

大阪―大都市は国家を超えるか (中公新書)

大阪―大都市は国家を超えるか (中公新書)

大阪市立大学に着任してから、自分の研究とのつながりを意識して大阪の地方政治に関心を持ち始め、当初は、地方政党と国政の関係、といった趣旨で次のようなエントリを書いておりました。

大阪の政治について、はじめてモノを書いたのは、2010年の秋でした。『エコノミスト』に書いたのですが、編集の段階でだいぶん変わってしまったものの、もともと書いていたこと(「大阪都構想」が大阪の「地方政治」を超えるか)が今回の新書の原型になるかな、と思います。その後、新書執筆のお話を頂いて、構想を考えている中で書いた2011年のエントリ(大阪都構想のふたつの哲学)を結構読んで頂くことができて、内容に少し自信をもつことができました。その意味では、ブログ読者の皆様に育てて頂いた本だと思います。
2012年に入るころから執筆を始めましたが、その間でお話を頂いた、白鳥浩先生編の近刊著『統一地方選挙政治学(仮)』や日本政治学会の報告準備、あるいは雑誌『POSSE』の原稿執筆などを通じて内容を考えなおすことができ、何とか完成にこぎつけることができました。
ちょうど解散−この解散自体は批判すべきだと思いますが−があたり、結果としてタイミングとしてはこれ以上ないときの発売になったかと思います。科学的に妥当な新たな発見、というわけではないですが、現状の「大阪」を理解するストーリーのひとつとしてご笑覧頂ければ幸いです。

POSSE vol.15: 橋下改革をジャッジせよ!

POSSE vol.15: 橋下改革をジャッジせよ!

2013年11月12日追記

拙著が2013年度サントリー学芸賞[政治・経済部門]に選ばれることになりました。北岡伸一先生による選評と私自身の受賞の言葉がアップロードされています。よろしければご覧ください。