同志社大学の木下健先生から,『二院制論』を頂きました。博士論文を書籍として出版したものとのことです。二院制について,政治学のみならず法学の先行研究も詳細に調べられつつ,二院制以外の政治学の様々な分野の研究との関係を議論しながら,うまく実証研究のテーマに繋げられているご著書だと感じました。
感想として思ったのは,「行政監視」をどう捉えるかというのが難しいなあというところでしょうか。きちんと事前に監視していると表面的には何も起こらないという条件のもとで,監視が実効的であるというのはどういうことなのか,というのはつかみにくいところです。敢えて問題が起きたところだけ取り上げると,しばしば指摘される「観察主義の陥穽」におちることもあります。その問題をどう工夫して扱うかというのは実証分析の腕の見せどころということになるわけですが,限られた時間の中で,参議院が立法活動と国政調査(政府参考人招致とかということだと思いますが)にどのように時間配分みたいなことを検討する(6章)のは,議院としての主体的な意思決定の分析としていい方法なのかも,と思いました。私自身も博士論文で地方政府の二元代表制を扱ったわけですが,改めて二院制のように2つの意思決定主体の独立−従属を扱う実証分析は難しいなあと思いつつ,色々な苦心が伝わるところで,打開するための工夫を研究者が共有していければ,と思うところです。

二院制論 ― 行政府監視機能と民主主義 (学術選書シリーズ)
- 作者: 木下健
- 出版社/メーカー: 信山社
- 発売日: 2015/08/11
- メディア: 単行本
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本書については、いうまでもなく非常に重要な研究で、私などがコメントするところはほとんどありませんが、感想としては量的分析の反証をどう考えるかが依然としてポイントになるんだろうと感じました。定性的研究をしている側が、量的分析に対して反証を行いながら新しい議論をしようとしても、「確率的にそういう事例もありうる」という再反論を受けるときにどうするか、というのは難しいような気もします。そこはまさに意味論的な世界で、当該研究者の議論から「紛争の拡大」をしないとどうしようもない議論なのかもしれませんが。

- 作者: ゲイリーガーツ,ジェイムズマホニー,Gary Goertz,James Mahoney,西川賢,今井真士
- 出版社/メーカー: 勁草書房
- 発売日: 2015/08/20
- メディア: 単行本
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- 作者: 大森彌,後藤春彦,大杉覚,図司直也,沼尾波子,武藤博己,地域活性化センター
- 出版社/メーカー: 公職研
- 発売日: 2015/05/01
- メディア: 単行本
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