夏休みに頂いた本

同志社大学の木下健先生から,『二院制論』を頂きました。博士論文を書籍として出版したものとのことです。二院制について,政治学のみならず法学の先行研究も詳細に調べられつつ,二院制以外の政治学の様々な分野の研究との関係を議論しながら,うまく実証研究のテーマに繋げられているご著書だと感じました。
感想として思ったのは,「行政監視」をどう捉えるかというのが難しいなあというところでしょうか。きちんと事前に監視していると表面的には何も起こらないという条件のもとで,監視が実効的であるというのはどういうことなのか,というのはつかみにくいところです。敢えて問題が起きたところだけ取り上げると,しばしば指摘される「観察主義の陥穽」におちることもあります。その問題をどう工夫して扱うかというのは実証分析の腕の見せどころということになるわけですが,限られた時間の中で,参議院が立法活動と国政調査(政府参考人招致とかということだと思いますが)にどのように時間配分みたいなことを検討する(6章)のは,議院としての主体的な意思決定の分析としていい方法なのかも,と思いました。私自身も博士論文で地方政府の二元代表制を扱ったわけですが,改めて二院制のように2つの意思決定主体の独立−従属を扱う実証分析は難しいなあと思いつつ,色々な苦心が伝わるところで,打開するための工夫を研究者が共有していければ,と思うところです。

津田塾大学の西川賢先生からは,『社会科学のパラダイム論争』を頂きました。英語の方はいちおう購入していたのですがなかなか読む時間がなく、このたび邦訳を頂いて、読ませていただくことができました。QCAや計量分析に通じていなければ、なかなか分かりにくいような表現が多いと思いましたが、翻訳は非常に読みやすく、先生方のきちんとしたご理解と、それを日本語に反映されるお力が現れているものだと思います。
本書については、いうまでもなく非常に重要な研究で、私などがコメントするところはほとんどありませんが、感想としては量的分析の反証をどう考えるかが依然としてポイントになるんだろうと感じました。定性的研究をしている側が、量的分析に対して反証を行いながら新しい議論をしようとしても、「確率的にそういう事例もありうる」という再反論を受けるときにどうするか、というのは難しいような気もします。そこはまさに意味論的な世界で、当該研究者の議論から「紛争の拡大」をしないとどうしようもない議論なのかもしれませんが。
社会科学のパラダイム論争: 2つの文化の物語

社会科学のパラダイム論争: 2つの文化の物語

首都大学東京の大杉覚先生と,日本大学の沼尾波子先生からは,『人口減少時代の地域づくり読本』をいただきました。私もこの頃は,関西の自治体でいくつか審議会などを,わからないながらもお手伝いさせていただくことがあります。良い成果を挙げていただくために,研究されている知見をなんとかお伝えしたいなあと思ってはいるもののなかなか難しい,というようなところですが。本書は,実際に働かれている自治体職員のみなさんを対象に執筆されたものということで,ぜひ参考にさせていただきたいと思います。
人口減少時代の地域づくり読本

人口減少時代の地域づくり読本