もう年末ということになりました。この数年続けている博士論文をもとにした著書の紹介の季節ということで。もともとは2010年に日本政治関連の博論出版が相次いだのを見てそれを紹介しようと思って始めたのですが,当時と比べると最近は現代日本政治関係の博論出版がちょっと減ってるのかな,という感じがします。その中で唯一(?)多いのは地方自治関係だと思いますが,辻陽『戦後日本地方政治史論』,稲垣浩『戦後地方自治と組織編成』,ヒジノ・ケン『日本のローカルデモクラシー』といった本が出ていました。
- 作者: 辻陽
- 出版社/メーカー: 木鐸社
- 発売日: 2015/03
- メディア: 単行本
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戦後地方自治と組織編成―「不確実」な制度と地方の「自己制約」
- 作者: 稲垣浩
- 出版社/メーカー: 吉田書店
- 発売日: 2015/04/01
- メディア: 単行本
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- 作者: ケン・ビクター・レオナードヒジノ,Ken Victor Leonard Hijino,石見豊
- 出版社/メーカー: 芦書房
- 発売日: 2015/10
- メディア: 単行本
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とりわけ興味深く読んだのが,さまざまなアクターが国内の統合を試みていくプロセスです。大正デモクラシー期までは統合の主体となっていた政党が腐敗などに対する批判でその機能を失っていく中で,まずは政党自身が外部から新たな統合のきっかけ(具体的には近衛文麿,のちに阿部信行)を招いて新党を創設することでもう一度統合の主体になろうとしたこと,そして「軍は継続して体制の破壊者であった訳ではない」(334頁)という観点から,当初政党の腐敗を批判していた軍部がいやでも「執政」を行うことになっていくわけで,そうすると自分たち自身が責任をもって執政を行わなくてはいけない中で,その体制それ自体を否定するわけにもいかず,議会に対して国民の統合を求める立場として体制運営を進めるようになるというのも目から鱗というところがありました。特に軍部内閣の初期には政党が政権崩壊の引き金を引くようなこともあり,また太平洋戦争がはじまるともとの政党政治家たちが従来の政党の枠を外しながらも,「挙国一致」を名目にそれを調達できる議会として国内のほかの政治勢力に対して影響力を行使しようとしていくわけです。そういう過程がタイトルの「昭和立憲制の再建」に込められているということだろうと。
上記辻さんや稲垣さんの分析が歴史よりで,1950年代ころからの分析になっているのに対して,政治史のほうがもう戦時中まで分析の対象となってきて,両者の境目は何なんだろうという感じが強くなってきたと言えるかもしれません。さらに日本政治外交史に至っては,すでに田中内閣や大平内閣までが分析対象になっています。まだ読めていないのですが,武田悠先生の『「経済大国」日本の対米協調』や白鳥潤一郎先生の『「経済大国」日本の外交』などは1970年代の外交について分析しているようで,当時の首相の政治指導を議論するとすれば,まさに「政治学」の分析対象とも重なってくるわけです。歴史家のアプローチによる内政についての分析は資料的な制約からまだ難しい,とも言われますが,別に現代政治をやっているから資料を無視していいわけでもなく,これまでに行われてきた研究のより詳細な検討やオーラルヒストリーの活用などが論点になっていくのかもしれません*1。
- 作者: 米山忠寛
- 出版社/メーカー: 千倉書房
- 発売日: 2015/04/15
- メディア: 単行本
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「経済大国」日本の対米協調:安保・経済・原子力をめぐる試行錯誤、1975〜1981年 (MINERVA日本史ライブラリー)
- 作者: 武田 悠
- 出版社/メーカー: ミネルヴァ書房
- 発売日: 2015/06/20
- メディア: 単行本
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「経済大国」日本の外交 - エネルギー資源外交の形成 1967~1974年 (叢書 「21世紀の国際環境と日本」)
- 作者: 白鳥潤一郎
- 出版社/メーカー: 千倉書房
- 発売日: 2015/09/03
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- 作者: 塚田穂高
- 出版社/メーカー: 花伝社
- 発売日: 2015/04/04
- メディア: 単行本
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- 作者: 稲増一憲
- 出版社/メーカー: 東京大学出版会
- 発売日: 2015/03/06
- メディア: 単行本
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まずは「バルト三国」のラトビアとエストニアを比較した中井遼先生の『デモクラシーと民族問題』。こちらで詳細を書いてますが,これは非常に素晴らしい本だったと思います。そしてお隣のロシア連邦について,地方政治を中心に分析した油本真理先生の『現代ロシアの政治変容と地方』も面白く読みました。1990年代には安定した与党が存在しなかったのに2000年代に入るとプーチンが指導する「統一ロシア」という圧倒的な政権党ができるようになった変化のプロセスで何が起きたのか,ということに注目して議論します。本書によれば,重要なのは政治に関与する地方エリートと政党の関係であり,地方エリートが連邦レベルでの安定与党に積極的に参加しようとしたことであると言います。分析では州政府と州都行政府の関係にも焦点が当てられていますが*3,中央集権化で州政府の知事が中央の政権党に取り込まれていく中で,(都市地域である)州都行政府が民主化勢力の拠点になったりする/反対に州都行政府が弱い州では一党優位が浸透する,というのは日本の府県と県庁所在市の関係となんとなく比べてみても興味深いものだと思います。両書とも,日本から見るとやや縁遠い地域だと思いますが,そこでフィールドワークを進めつつ,優れたリサーチデザインを立てて議論するというのは素晴らしいものだと思います。
- 作者: 中井遼
- 出版社/メーカー: 勁草書房
- 発売日: 2015/02/20
- メディア: 単行本
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現代ロシアの政治変容と地方: 「与党の不在」から圧倒的一党優位へ
- 作者: 油本真理
- 出版社/メーカー: 東京大学出版会
- 発売日: 2015/03/20
- メディア: 単行本
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もうひとつ,梅川健先生の『大統領が変えるアメリカの三権分立』も政治についてのメタルールを扱っているものだと思います。具体的には,憲法が変わらずそのため大統領−議会関係が変わらない中で,大統領が政策実現に影響力を行使する手法として,議会が決めた立法の一部について独自解釈のもとで議会の意図に従った執行をしないこともあるという「署名時声明」(法案を正式に法律にする大統領署名を行うときに出す声明)という行動がどのようにとられてきたのかということを分析したものです。これが「制度」と呼ぶべきものかはよく分かりませんが,大統領を有利にするような単独行動の慣行をどのように作ってきたか,ということが分析の中心になるわけですが,カーターのときの大統領の執行に対する議会拒否権に対する牽制からはじまって,大統領の法解釈を法曹に伝える道具となり(レーガン),それがさらに大統領が独自に政策を変更する手段(ブッシュ)となっていく様子を,司法省や大統領の法律顧問など政権内部の法律家の議論を追いながら分析しています。憲法にそのまま書いていないところで,その解釈をめぐって立法府・司法府・執政府での相互作用を通じて落とし所として制度化がされていくのは,まさに憲法政治の事例ということで非常に興味深いものでしょう。
- 作者: 荒木隆人
- 出版社/メーカー: 法律文化社
- 発売日: 2015/04/03
- メディア: 単行本
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大統領が変えるアメリカの三権分立制: 署名時声明をめぐる議会との攻防
- 作者: 梅川健
- 出版社/メーカー: 東京大学出版会
- 発売日: 2015/08/12
- メディア: 単行本
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暴力と適応の政治学: インドネシア民主化と地方政治の安定 (京都大学東南アジア研究所地域研究叢書)
- 作者: 岡本正明
- 出版社/メーカー: 京都大学学術出版会
- 発売日: 2015/07/03
- メディア: 単行本
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天然資源をめぐる政治と暴力: 現代インドネシアの地方政治 (京都大学東南アジア研究所―地域研究叢書)
- 作者: 森下明子
- 出版社/メーカー: 京都大学学術出版会
- 発売日: 2015/04/10
- メディア: 単行本
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この今年の○冊も6回目になりましたが,まあそろそろ潮時かなと思います。6年たつ中で,僕の同世代の人たちの博論が一通り出てきて,今年はかなり年下の人たちの本も多くて,なんかえらそうに紹介するのも気が引けますし(上の人のほうがこういう紹介はやっぱり書きやすい)。最近はいただきものの紹介だけで手いっぱいですが,まあできれば読んでるときにちょこちょこ紹介するものを増やせれば…と思うところです。
*1:博論ではないですがごく最近出版されたものを見ても同じことが言えるように思います。たとえば福永文夫先生編の『「第二の戦後」の形成過程』や服部龍二先生の『中曽根康弘』があります。 第二の「戦後」の形成過程 -- 1970年代日本の政治的・外交的再編 野党とは何か:組織改革と政権交代の比較政治 (MINERVA人文・社会科学叢書)
*2:マイケル・イグナティエフ『火と灰』,風行社,2015年
*4:ただちょっと気になったのは,1992年の国民投票の結果(152頁)ちょっと間違ってるというかやや文章変じゃないですかね?賛成が上回ったのはニューファンドランド・プリンスエドワードアイランド・ニューブルスウィックのように思います。ブリティッシュコロンビアはともかく「ほとんどの州で全く支持されなかった」というのはちょっと強いような