年の瀬

オンライン講義の準備は際限なく続きますが一応仕事納めということで,気持ちとしてはまだ10月くらいなんですがどうも2020年が終わってしまうようです。新型コロナウイルス感染症の蔓延という昨年の今頃は全く予期せぬ出来事によって,ご多分に漏れず2020年は大変な年になってしまいました。来年は多少なりとも感染症以前に戻ることを祈りたいです。しばらく感染症対応が続くという予測も強いようでなかなか厳しいものがありますが。

今年何をしたっけ,というのはもはや記憶のかなたという感じですが,年の初めの方は「政策会議」の論文を書いてました(「政策会議は統合をもたらすか-事務局編制に注目した分析」『季刊行政管理研究』169号(小林悠太さん・池田峻さんと共著)。2月に入稿して3月に出るころには子どもがずっと家にいる状況になり,慣れるまでは何もできないし慣れてからもボチボチ論文読んでるくらいと。このときに後期のオンライン講義の準備をするくらい用意の良い人間だったらよかったのですが,結局間に合わなかった選挙学会の論文準備もあって,5月末頃まではそれなりに一生懸命論文読んでたように思います。この時の成果は最終的に「政治制度と地方政府間関係-集合行為アプローチの観点から」『選挙研究』36巻2号(12月に出る予定でしたが来年1月以降に延期のようです)となりました。
6月に入るとなぜかコロナウイルス感染症関係のリサーチが増えて(たぶん『中央公論』の時評で触れざるを得なかったからだと思いますが),経済教室書いたり武内先生のSMUのウェビナーでしゃべったり,新型コロナ対応民間臨時調査会の仕事に加わったりしてました。コロナ民間臨調はインテンシブヒアリングと執筆してて,7月末から9月頭ころまでは本当にこれにかかりきり。9月は上記の選挙学会の論文を書いてて,それと並行しながらオンライン講義の準備をしつつ,10月頭からは大阪都構想(~11月初旬)と学会仕事と大学の教務関係の仕事が増えていって自分を見失う,という感じでした。授業については,これまでシラバスは書きつつも,「今日の積み残しは次回ねー」とか言いながら授業してたのが祟って,ホントに一から作り直したのですが,新しいことを色々勉強し直す機会になったようには思います。今年やりたかったかと言われればNoですが。ただGoogle classroomを使った新しい取り組みは,個人的には面白くやってるつもりです。

こう数えると今年書いたのは行政管理研究と選挙研究とコロナ民間臨調がメインで,この数年何となくやってた英語論文は海外出張が立ち消えになってタナザラシ…という悲しいことに(共著の方々すみません)。他で刊行することになったのは昨年中に原稿を入れていた『統治のデザイン』と『日本は「右傾化」したのか』(秦正樹さん・西村翼さんと共著),あと『政治学の第一歩[新版』』(稗田健志さん・多湖淳さんと共著)ですね。政治学の第一歩は,単に内容をアップデートしただけではなくて,そのうち一部公開されるはずですが,章に合わせた12回分の動画資料の作成とかもしてます。あー8-9月時間がなかった原因のひとつはこれだった。 そのほかは中央公論の時評をはじめとしてひたすらコラム的なものや書評を書いてた気がします…。

統治のデザインー日本の「憲法改正」を考えるために

統治のデザインー日本の「憲法改正」を考えるために

  • 発売日: 2020/07/01
  • メディア: 単行本
 
日本は「右傾化」したのか

日本は「右傾化」したのか

  • 発売日: 2020/10/15
  • メディア: 単行本
 

 この数年,細々続けてるブログでは頂いた本の紹介が滞っていて,それでもパンデミックの前までは頂いた単著だけは何とか紹介してたのですが,恥ずかしいことに最近はそれもできなくなってきました。このままフェードアウトするかもしれませんがご容赦ください…。とても残念なことに,授業などのためにというわけではない本を読む量が減っているのですが,今年印象に残った本は,谷口先生の東大朝日調査の成果と,待鳥先生の『政治改革再考』ですかね。待鳥先生の本は,自分も含めて多くの研究者で同じような問題意識をもって行われた研究を踏まえた包括的な議論という意味でも広く読んでいただきたいように思います。私自身,日経新聞に次のような書評を書かせていただきました。

 政治制度に注目した比較政治分析を基礎に、民主主義、とりわけ政党政治についての理論を展開する著者が本書で取り組んだのは、1990年代の日本の政治改革である。本書で著者は、この政治改革を単なる熱病でも誰かの陰謀でもなく、80年代後半の日本の状況に対応して変革を模索した試みと位置づけ、その帰結について検討している。

 著者自身の研究も含め、選挙制度改革や中央省庁改革に注目し、首相や官邸に権力が集中することを論じたものは少なくない。しかし本書はそれらの改革に加えて中央銀行・司法制度・地方分権というこれまた大きな改革を視野に入れ、より広範に政治改革を論じるものだ。

 本書の議論の核は、日本の政治行政と社会経済をより近代化・合理化しようとする志向がこれらの改革の原動力になった、というものである。個々の制度の良し悪しの次元ではなく、伝統や先例、個人的な関係に基づく縁故主義、あるいは周囲からの視線などに囚われた非合理的なふるまいが批判の対象であり、自律的な個人がそれぞれの選択のもとに合意を行って政治権力を創出し、社会を運営・管理することが望ましい、という幅広いコンセンサスが政治改革を生み出した、とする理解である。

 そのような理念自体は、現在でも広い支持を得ることができるだろう。しかし、因習的で理屈では説明がつかない政治を理解可能なものにするという目標が達成されたかといえば疑問は大きい。この点について、著者は複数の政治制度が相互に影響し合うマルチレベル・ミックスが新たな問題を引き起こしていることを示唆する。つまり、総論的な目標についてはコンセンサスがあったとしても、それを個別の制度として実現していくと、できた制度の総体での「噛み合わせ」が悪くなるということだ。

 とはいえ、別に誰かが狙って「噛み合わせ」の悪いものを作ったわけではない。制度ごとに関係者が合意できる範囲で改革の理念を実現しようとする「土着化」が生じたのだ。本書はその過程について詳細な検討を行っているのである。

 自民党一強の再来とも言われるが、私たちが見ている現在の政治行政の問題は、過去のそれと同じではない。改革の理念を振り返り、現在の政治が抱える課題を正確に理解するため、本書は広く読まれるべきである。

あと,別に今年の本じゃないですが前からちょいちょい読んでた『ハコヅメ』全部読んだのが楽しかったです。授業でも紹介してますが,たまに人事配置とか研修とかOJTの話とか出てくるのはなるほどと思って読んでます。まあストーリー自体が面白いんで実際のところその辺はなんでもいいんですが。今年は息抜きの機会がほんとに少なかったので,これに限らず結構マンガを読んだ気がします。

 来年がどうなるのかよくわかりませんが,僕に関していえば研究時間が取れなくなるだろうことは間違いなさそうです…。それでも最近始めたサーベイ実験とか新しい手法に挑戦しながら細々と研究できれば,と。その辺は共著が中心ですが,一応目標としては来年中に研究書を仕上げるということがあり(『選挙研究』の論文はその序章的な位置づけ),それだけは何とかやっておきたいところですが。 

現代日本の代表制民主政治: 有権者と政治家

現代日本の代表制民主政治: 有権者と政治家

  • 作者:谷口 将紀
  • 発売日: 2020/03/16
  • メディア: 単行本
 
政治改革再考 :変貌を遂げた国家の軌跡 (新潮選書)

政治改革再考 :変貌を遂げた国家の軌跡 (新潮選書)

  • 作者:聡史, 待鳥
  • 発売日: 2020/05/27
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
   
ハコヅメ~交番女子の逆襲~(15) (モーニング KC)

ハコヅメ~交番女子の逆襲~(15) (モーニング KC)

  • 作者:泰 三子
  • 発売日: 2020/11/20
  • メディア: コミック