地方自治の講義

ようやく第4クオーターの授業も一通り終了(あとゲストトークがあるけど)。オンライン講義のために,行政学Bは地方自治の講義として再編成されることになり,これまでとはだいぶ違うかたちで行われることになったので備忘のためにメモ(たぶん対面だともっとグダグダになってこんな感じのシステマティックな授業はできないと思われるので…)。神戸大学に異動してからは一応クオーター制を取りつつも行政学A・行政学Bで4単位授業という感じで,行政学Aを行政組織,行政学Bを公共政策という形で進めていたので,まじめに地方自治の講義をしたのは大阪市立大での2014年の講義以来という感じか。とはいえ市大の方では4単位で後半の地方自治は最後まで終わらないというのが通例だったので,14回分地方自治の講義の用意をしたのは初めてと言えるかも。

行政学Aで行政学の話をしたので(わかりにくい…),それとあまり被らないように地方自治の話をするということになり,そのために日本で一般的な行政学に近い地方自治の教科書の構成とはちょっと違う感じになったように思う。他方で行政学Aではオーストラリアの行政学の教科書を使ったので出てこなかった大部屋主義の話とか情報共有型組織の話を地方自治の話としてでできたのはよかったかも。ていうかこれは全体を貫くテーマにもなっていて,組織や公務員制度の話を情報共有型組織/機能特化型組織の対比を意識しながらするだけでなく,中央地方関係や地方政府間関係についても情報共有型/機能特化型の話を念頭に置きながら進める感じ。

シラバスこんな感じ 。基本的に話題が住民から同心円状に広がっていくようなイメージで,まず住民や自治組織→選挙と参加→地方政府の政治部門・組織・公務員→財政・政策→政府民間関係・中央地方関係・地方地方関係→国際比較と。たぶん財政のところで地方政府としての財政(地方税・地方債中心)と中央地方関係の地方財政制度を切り離したことと,都道府県・市町村みたいな話を地方政府間連携のところでやってるのが珍しいところだと思う。まあある種のフィクションではあるものの受益と負担の一致ということを軸に説明しようとするとこの流れが個人的にはしっくりきた。ただよく感じたのは地方自治だけできっちり14回やろうとすると大変だなあ,というところで,多くの教科書が福祉とか教育とか交通とかの政策各論を数回扱うのがよくわかる(僕も住宅・都市計画のあたりを入れようかと思った)。今回の授業はゲストトークがあるので13回にしたけど一回増やすとしたら結構大変だなあ,と。各論じゃないかたちで入れるとしたら政策デリバリーかと思ったけどこれは行政学Aとも被るし,政府民間関係がこれに近いところがある。できれば財政・政策のあたりに情報の話を入れたいけど現状だとあんま準備ないなあ,と。ただ,こうやって無理にでも総論でまとめてみたことで,今やってる地方政府間連携の次に研究するべきテーマが見えてきた気がする。

教科書としては,住民から同心円上に広がる,という今回のコンセプトにあうものとして,自分も参加した松井望・柴田直子地方自治論入門』(ミネルヴァ書房,2012年)がメイン。ただ古くなってたり後の方の構成がやや好みと違うのでズレてくるけど,個人的にはこれが一番しっくりきた。あとは頂き物だけど,最近の教科書では入江容子・京俊介『地方自治入門』(ミネルヴァ書房,2020年)が非常に充実していたと思う。伝統的な行政学の流れでの教科書としては礒崎初仁・金井利之・伊藤正次『ホーンブック地方自治[新版]』(北樹出版,2020年)が確実で事項事典的な感じで使ってた。さらに大森彌・大杉覚『これからの地方自治の教科書』(第一法規,2019年)は,他の教科書ではあまり触れられていない広域連携・地方創生・ITとか新しめの話題が結構厚く書かれていて参考になった感じ。北村亘・青木栄一・平野淳一『地方自治論』(有斐閣,2017年)はたぶん内容的には一番近いんだけど,教科書自体が選挙と中央地方関係が厚めという感じでここは自分自身が比較的得意なところであったために見る機会で言えばそれほど多くなかったけど,受講生にはお勧めで参考として出てくる,みたいな。 

地方自治論入門

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地方自治入門 (学問へのファーストステップ 2)

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ホーンブック 地方自治 新版

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これからの地方自治の教科書

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地方自治論 -- 2つの自律性のはざまで (有斐閣ストゥディア)

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