地方自治・日本政治

バタバタしているうちに年度末が終わり,新年度には大学で管理職の末端を担うことになりました。正直不慣れで向いてませんが,最近は執行部会とか理事会みたいなのばっかりやってます(マンション理事会では大規模修繕やってます!)。他方で書かないといけないものもたくさんあるのですが細切れ時間では難しく…頂いたもののご紹介を。とりあえず地方自治・日本政治みたいなカテゴリーで,近いうちに比較政治も。

ニッセイ基礎研の三原岳先生から,は『地域医療は再生するか』を頂きました。ありがとうございます。特に医療供給の制度について検討しながら,地域医療を中心とした改革の可能性について議論されている本です。日本の医療制度の最も難しいところのひとつは政府から自律性を持った民間病院中心の医療供給であるということで,このコントロールが難しいわけです。常々ベッド数が過剰だと言われているにもかかわらず,今回のコロナ禍の中ですぐに医療崩壊だと言われることの背景には,この本で描かれているような 「なんちゃって急性期」のコントロールが難しいということがあるようにも思います。

医療供給体制にはいろいろ問題がある,地域医療は重要だ,ということで改革は主張される一方で,実際やり方を変える民間病院を説得することは難しい,ということで,「総論賛成各論反対」になるわけです。そのときは,長期的なゴールを設定しながら,制度に影響を配慮して順番を考えながら漸進的に進めるという非常に狭い道を通るしかないのだろうという感じがあります。実際そういうことができるリーダーがいるかというとまあ難しい,というのが現状なのでしょうが。ただ,本書で議論されているような道筋(狭いとしても)はあるわけで,将来の改革を見据えてまさにコロナ禍の中でこそ改めて広く読まれるべき本だと思いました。ちなみに,今年度の公共政策学会・共通論題ではそのあたりの話も視野に入れて三原先生にお話いただく予定です! 

地域医療は再生するか~コロナ禍における提供体制改革~
 

 同志社大学の野田遊先生には『自治のどこに問題があるのか』を頂きました。ありがとうございます。野田先生は,日本で教育を受けた行政学者でたぶん最も精力的に英語で論文発表をされてる方だと思いますが,その野田先生が,おひとりで書かれる教科書を出版されるということで楽しみにしておりました。内容は,野田先生のご研究を活かされた,主張のある教科書という印象を受けました。

特徴としては,ご研究ともかかわる6章から10章だと思います。市民ニーズと参加,決定と実施,評価と広報,協働,広域連携,といったテーマで,いずれも野田先生が以前何らかの論文を書かれているところと重なっているように思います。日本で自治体行政の話となると,どうしても選挙の話とか中央地方関係とか,自治体内部の話を長々と書くことが多いと思います。しかし本書では,それよりも市民との接点について多くの紙幅が割かれていて,なんというかより「現代的」という印象を持ちました。僕自身も行政学の授業で地方自治について二単位分話しているのですが,昨年度オンライン授業で内容を一新したときになるべくそのようにしようと思ったところがありまして,今後の授業でもぜひ参考にしていきたいと思います。 

自治のどこに問題があるのか (シリーズ政治の現在)

自治のどこに問題があるのか (シリーズ政治の現在)

  • 作者:野田遊
  • 発売日: 2021/03/03
  • メディア: 単行本
 

 ちょっと前に頂いていたのをご紹介を忘れていたのですが,新潟大学の南島和久先生が『政策評価行政学』を出版されていました。博士論文に加筆されたものということですが,評価に関わる制度について,アメリカの制度を参照しながら南島先生もかかわられている日本の制度について検討されています。個人的には,特に業績評価やそれに関連する人事・組織の問題が興味を引くところです。制度の導入と運用がある程度行われており,他方で中央・地方の政府でEBPMがいろいろ言われるようになる中で,業績測定・評価とその反映の実態についても考えてみたいと思うところです。 

 同じ「ガバナンスと評価」のシリーズの『自治体評価における実用重視評価の可能性』を池田葉月先生から頂きました。ありがとうございます。こちらも博士論文をもとにした書籍ということで,実は上で書いた「業績測定・評価とその反映の実態」について日本の地方自治体を中心に調査して分析したものになってます。博論ですが,実用重視評価を議論していることもあって,いろんな自治体の実践について紙幅が割かれています。内部で完結させるかたちで手探りで評価をしている,という組織は少なくないと思うのですが(大学もそういうとこあるかもしれませんね…),他でどういうことやってるんだろう,ということを知る手がかりになるようにも思います。 

 執筆者の井上正也先生・高安健将先生・白鳥潤一郎先生から『平成の宰相たち』をいただきました。ありがとうございます。タイトルどおりですが,平成時代に首相になった,宇野宗佑以来の首相について,基本的には個人個人*1の政権について叙述するスタイルで,『戦後日本の宰相たち』に続くものとして出版されています。『戦後日本の宰相たち』の編者だった渡邉昭夫先生がはしがきを書かれていて,そこで「この30年は,あらゆる意味で流動的な時代であった」とあるように,まさに「流動的な時代」についてリーダーを中心に見ていく企画,ということになると思います。

平成の宰相たち:指導者一六人の肖像

平成の宰相たち:指導者一六人の肖像

  • 発売日: 2021/04/09
  • メディア: 単行本
 
戦後日本の宰相たち (中公文庫)

戦後日本の宰相たち (中公文庫)

  • 作者:渡辺 昭夫
  • 発売日: 2001/05/01
  • メディア: 文庫
 

船橋洋一先生から『フクシマ戦記』(上)(下)を頂きました。ありがとうございます。副題は「10年後の「カウントダウン・メルトダウン」」ということで,2012年に出版された『カウントダウン・メルトダウン』を下敷きに,その後に明らかになった事実を踏まえて2011年3月11日からの原発対応を再構成したドキュメンタリーです。民間の原発事故調を組織し,その後も長きにわたって原発問題をはじめコロナウイルス対応も含めた危機管理について探求している船橋先生ならではの筆致で,大震災・原発事故から10年で改めて広く読まれるべき本だと思います。なお,船橋先生率いるアジア・パシフィック・イニシアティブでは,10年を経て再検証の報告書も出版されています。 

 最後に,東北大学の青木栄一先生から『文部科学省』をいただきました。ありがとうございます。感想については先日ツイッターに書いた通りですが,ナカノヒトでもあった著者が文部科学省という役所について,組織として想像力が十分ではないために,争点についてどこか他人事で,常にその場しのぎの撤退戦となってしまう様子を描写してると思います。文科省が現状維持の撤退戦をしてる一方で,教育の「政治的中立」を叫ぶだけで,資源獲得のために連合を組まない小中高大をはじめとする学校が,閉じた世界での競争に熱中する,という構図があるために,官邸や財務省など他の主体が文科省による競争の管理を通じた「間接統治」を容易にさせている,という見立ては非常に興味深いものだと感じました。この状態は,競争させられてる関係者にとっては辛いわけですが,じゃあみんなで協力して社会に納得を求めて運動しよう,とやったとき,全く納得が得られなくて逆に取り潰しにあってしまうようなリスクが怖いというのはあるように思います。それをうまくやってくれる政治家・政党を待ち続ける,という話なのかもしれませんが,そんな日が来るというのはあまりに楽観的な気もします。

個人的には,以下のところを面白く読みました。その通りだと思うんですが,ただそうすると文科省が社会的な変化に応じて政治連合を作り直すのはなかなか難しい気がします。本書でも書かれているようにインパクトの大きかった科学技術庁との統合を踏まえたうえで,うまく「アイデンティティそのもの」になる政策を新しく作るんじゃないか,という気はします。まあそんなん無理やん,っていう話で,結局間接統治が続いたり,政治的にものすごく強い風が吹いて解体しろよ,って話になるのかもしれませんが。

特に義務教育費国庫負担制度は文科省アイデンティティそのものだった。この制度のおかげで文科省は世界に誇る義務教育を実現できたが,その成功体験が文科省を閉じた世界に押し込めてきた。文科省は教育関係者からの支持に安住してきたため,政治家,財界,他分野の利益団体,国民からの支持を調達することを苦手としてきた。国で教育に責任をもつ文科省がこういう状態では,ときどき降ってわいてくる外野からの思いつきの教育改革案に振り回されてしまう。これでは教育政策そのものの不安定化を招いてしまう。

文科省は「三位一体の改革」に直面したとき,一瞬ではあれ目覚めたのではないだろうか。しかし,負担金の死守に成功した後の動きは伝わってこない。文科省は地方政治家からの支持の調達に駆け回った経験をその後どう生かしているのだろうか。(130ページ)。

 

文部科学省-揺らぐ日本の教育と学術 (中公新書 2635)
 

 

 

 

 

*1:宇野・海部・宮澤と細川・羽田はまとめて,安倍は2回に分けて書かれてます。白鳥さんが書いてるとこですが,派閥のリーダーも務めた宮澤的にはきっと心外でしょうねw