中公新書2021年7月

2021年7月の中公新書,4冊出版のうち3冊がたまたま同い年(1978年)の政治学者によるものになってました。いずれもいただきまして,どうもありがとうございます。

北海学園大学の山本健太郎先生が書かれたのは『政界再編-離合集散の30年から何を学ぶか』です。副題の通りで政治改革と絡みあいながら発生した「政界再編」の30年について丁寧に記述・整理したものです。前著で行った政党間移動についての研究を踏まえて,その後の二度の政権交代を含めて分析し,将来の展望――主に野党の――が示されていきます。一応知っているはずのことが多いわけですが,改めてこういうかたちで読ませてもらいますと,自分自身も順番や流れをずいぶん混乱して記憶しているなあと思います。出てくるメンツが微妙に変わりつつ,こうやって30年経つことになったんだ,というのは,何と言いますか僕なんかでも微妙に感慨があるところです。

個人的に一番興味深く読んだのは「第三極」の扱いです。本書の中では,2005/2009年と2012年でその後の野党が一定の凝集性を維持できたかどうかの違いを説明する要因のひとつに第三極を持ってくるのはなるほどそうだなあ,と思いました。まあ第二党の凝集性が低くなってるから第三極が出てくる,という内生性もあるわけですが,第三極として参入する閾が低すぎることが野党にとって分裂・不利を招くというのは説得的な議論だと思います。

このような感じでの30年にわたる通史というと北岡先生の『自民党』を思い出すわけですが,あれは基本的に派閥間の抗争と離合集散を書いたものですが,この30年となると派閥がほとんど出てこなくて政党間の離合集散が中心になるというのは大きな変化だと思います。他方で,政治改革・安保・消費税というのはあんまり変わらないテーマでもあって,そちらの方の変化がどうなるんだろうか,と思うところはあります。そうこう言ってるうちにわれわれも40代半ばに差し掛かりつつありますが…。 

 千々和泰明先生からは,『戦争はいかに終結したか』を頂きました。本書では,戦争の根本的な原因を解決するということと,戦争を継続することによって生じる現在の犠牲のジレンマという観点から,第一次世界大戦以降の戦争終結について論じるものです。初めの方は全面戦争・総力戦について扱っているのですが,特に勝ちそうな国の方でこのジレンマの存在は特にビビッドになるのだという印象を受けました。負けそうな側から言えば,とにかくファイティングポーズをとって現在の犠牲を大きくさせる(=根本的な解決を防ぐ)ということが重要になりそうですが,そうすると今度は人々の不満が大きくなって体制転換されるリスクが大きくなる,といったような別のジレンマも出てくるのかもしれません。

後半は朝鮮戦争以降の局地的な紛争が扱われていますが,いずれもアメリカがらみの話ということもあって,観衆費用の話を思い出しました。単純に言えばやるからには戦果を挙げないといけないし,そのための犠牲が大きすぎてもいけない,という感じだと思いますが,そこに解決しないといけない根本的な原因の存在というのをうまく組み込めると面白いのかな,と(素人考えですが)。それはともかくここでも扱われているアフガニスタン情勢がまさに米軍の撤退によって急変しているわけで,それが何を示すのかを考える上で本書の議論はとても示唆的だと思います。

千々和先生は同じタイミングで『安全保障と防衛力の戦後史1971-2010』というご著書も出版されていて,こちらは日本における「基盤的防衛力構想」とその変化について触れたものになっています(必ずしも同じ内容じゃないのに同時期の校正っていうのはホントに大変だったと思いますが…)。こちらはアメリカのような根本的解決と現在の犠牲のジレンマを主体的に考える超大国でもない日本が何をどのように守ろうとするのか,ということを考えるところで新書の議論ともつながってくるのかと思いました。こちらのご著書では基本的に同盟政策みたいな議論と距離を取りながら防衛政策の話を論じておられるように思いますが,個人的な感想としては,この構想と日本の(特殊な?)個別的自衛権の考え方みたいなもののリンクがあるような気がして興味深かったです。

佐橋亮先生は『米中対立』を書かれています。本書では,アメリカが中国に対して政治改革・市場化・国際社会への貢献,という三つの期待を持って関与し,「育てて」きたこと,そしてそれが失われていく中で,国内アクターが絡み合いながら関与の見直しが行われていく,ということを叙述しています。「三つの期待」とその喪失についての検証もさることながら,ナマモノの今後の戦略についても含意を出さないといけないというのは本当に難しい話だったかと思います。本当に情報量が多いのですが,あとがきによれば2020年の夏に企画を持ち込んで書かれたというの読んでさらに驚きました。

アメリカの観点からみた中国という感じで,個々の論点が誰のどういう主張と結びついているのかということが丁寧に説明されていて,専門外ではありますが,興味深く読むことができました。各章(5章以外?)の最後に台湾への言及をされていて,以前に単著を書かれているように,もちろんご専門でということもあるとは思いますが,米中関係を考えるときの台湾の戦略的重要性と,その難しい立ち位置を示しているということかと思います。緊張状態にあるというだけではなく,アメリカにとって台湾が「期待をかなえた中国」みたいになっているところも難しさの一因なのかなあ,と思いました。

基本的にはアメリカからの視点で書かれているわけでが,個人的には中国の少子化というのがどのくらい効いているんだろうか,とも思いました。中国がこの勢いでアメリカをサクッと越えていくならわざわざ緊張状態を作る必要もないような気がしますが,敢えていま周辺国にちょっかいを出したりするのは近い将来少子化による困難がある/アメリカのように移民が来るわけではなくて現状で送り出し国である,というところがあるのかな,と。まあ中国のほうは権威主義体制で,何を考えているのか議論するのはなかなか難しいところですが…。

 ついでにもう一冊,『中先代の乱』も面白かったです(同一月に出版されたタイトルを全部揃えたのは自分が『大阪』書いた時以来かもw)。『逃げ上手の若君』とセットで子どもに読ませることを画策していて,今読んでるんですが読み切れるかどうか…自分自身『若君』も面白がって読んでおりますので,こちらもとても興味深く読みました。まあ「あとがき」から予想されるほどには北条時行の活躍は出てこなかったような気がしますが,マンガ読んでいる人たちの想像の空白を埋めるような内容にもなっているんだろうな,と。