政治理論

政治理論は専門外なんですが,外野からでも意欲的とわかる政治理論の研究を3冊頂きました。ありがとうございます。まず,西南学院大学の鵜飼健史先生から『政治責任』を頂きました。ありがとうございます。私自身も,自分が関わった『政治学の第一歩』がアカウンタビリティを軸にした教科書であることがあって,政治責任について関心があり,非常に興味深く読みました。「責任を取る」ということ自体の難しさを改めて考えるとともに,この問題を考えるときに時間の概念が鍵になるというのもそのとおりだと感じます。いまと往時は違うのでしょうが,以前大阪について研究していた時に,市長はそのような時間軸と自らが責任を取るという姿勢を使って人々にアピールするのが上手な政治家であったなあ,と感じていたことを思い出しました。

私たちはみなが政治責任を取らざるを得ない,という本書の結論も,私たちが民主主義を作り出すことを考えればその通りなのだと思います。他方で,私などは(別に大衆社会論者ではありませんが)やはり政治責任を取る,誰かのために負担をする,ということが一般には容易ではないだろうとも思うところです。そういう中で,自分としては,とりあえず誰かに限定的にでも責任を取らせたことにするアカウンタビリティを発揮する制度が重要だろうと思いながら研究をしているなあ,と感じます。実際,為されたことの原因と結果の関係だってわかりにくいですし,わかったところでそれを追求できるかは怪しいのでしょうが,しかしできる限り制度的責任の側から追い込んでいって,本書でいう政治責任に委ねられる範囲を狭めることが大事なのではないかな,と感じるところがありますが。

鵜飼先生には,『歪められたデモクラシー』もいただいておりました。翻訳を進めながら同時期に著作を用意されるというのは本当に大変のように思いますが素晴らしい生産力です。こちらの方もぜひ勉強させていただきたいと思います。

宮崎大学の松尾隆佑先生からは,『3・11の政治理論』を頂きました。ありがとうございます。東日本大震災という未曽有の災害(そういう「未曾有」が感染症,戦争と続いていたたまれない気持ちになりますが)に対して政治理論に何ができるかという問題意識で議論を重ねられることは非常に重要な試みだと感じました。EBPMのような話がもてはやされ,自分自身も仕事柄絡んだりすることもあるわけですが,すでに行われたエビデンス・ベースドの提案だけではなく,理論に裏打ちされた「正しい」政策を提案するということは,それが常に望ましいかどうかということとは別に社会的に求められることのように思います。その点で本書での試みは,近年の政策議論に一石を投じるものであるように感じます。

また,本書は政治理論の研究書ではあるのですが,同時に震災復興という最近の現実に関わる問題を扱うものでもあって,さまざまなかたちで実証研究が紹介されていくのも興味深いと感じました。理論研究は理論研究,実証研究は実証研究と分けられがちではあるのですが,その中で両者を架橋するような試みが行われるのは重要なことでしょう。本書では,復興に関する政策/過程について規範的な評価が行われているわけですが,それを踏まえて実証研究の観点からもその規範の実現可能性などについて議論していくこともできるのかもしれません。

最後に,筑波大学の木山幸輔先生から,『人権の哲学』をいただきました。ありがとうございます。主権国家体制の中で人権というものをどのように考えるかについて詳細に検討されたうえで,人権について自由のみならず平等に依拠して考えるべきであるというご主張は,学生の頃に読んだセンの『不平等の再検討』を思い出させるものがありました。そのうえでの社会経済的権利やデモクラシーへの権利を人権として擁護する議論は,私自身,「どのような権利を人権として捉えるべきか」というようなサーベイに関わったことがあり,興味深く読ませていただきました。また,外国における人権侵害をどのように考えるかという議論は,2月にロシアがウクライナに侵攻してから,悲惨な映像や画像が流れてくるのに胸を痛めるばかりという中で,我々が何を考えれば良いのかを示唆するものでもあるように思いました。

10章の開発の倫理学のところは,『3・11の政治理論』とも通底するところがあるように感じましたが,まさに今全盛になっている実験的手法・EBPMという発想を私たちの社会でどのように位置づけるかを考える者にもなっているように思います。この章では,ポスト開発→ビッグプッシュ→社会実験/リバタリアンパターナリズムという発想が吟味されていくのですが,実はこれは自分自身が学部生から院生,現在にかけて興味を持ってきた(最後は進行中でしょうが)発想でもあって,なんというか共感と微妙な反省がない交ぜになる感じもありました(苦笑)。