行政学・地方自治

2月は逃げるということで,始まったと思ったらもうすぐ終わっちゃうわけですが,ちょっと前からいくつか行政学地方自治関係の書籍を頂いていました。まず版元と著者の先生方から『行政改革の国際比較』を頂いています。ありがとうございます。こちらは,帯にもあるようにしばしば参照される行政学のテキストの翻訳です。一般的な行政学のテキストというと,各章で政府の役割とか人事管理とか規制とか財政の問題とかが議論されるわけですが,こちらはそういう各論はあんまりやってなくて,ヨーロッパの国々での「行政改革」から何を学ぶかということが主眼になっています。

内容は,New Public Management(NPM),New Weberian State(NWS),New Public Governance(NPG)という3つのモデルに言及しながら行政改革の分析を進めるようなスタイルが採られています*1。この辺の行政改革理論史は十分に理解できてないのですが,特徴としては,急進的・楽観的なNPMに対しては批判的で,より漸進的に現代化を目指すNWSを提示しているのがPollittらの特徴,という感じでしょうか。本書でも触れられているように,ネットワークを重視するNPGみたいな話をモデルとして強く言うのはOsborneらの2010年の研究だということなので。

NPMを強調するHughesとかの議論では(本書でもちょっと批判されてますが),伝統的な行政管理とは異なる公共経営は多かれ少なかれマネジメントとかネットワークを強調するという点を共有していて従来と違うんだ,という感じですが,本書の場合はそこまで楽観的にマネジメントを捉えずに,それが抱えるジレンマとか困難についても語り,特に楽観的なやつをNPMとして分類しているような気もします。個人的には,相違点よりも共通点の方が重要で,どちらかと言えばHughesの感じの方がすっと入ってくる気もするのですが,しかし本書については,そういうマネジメントの困難も理解しながらそれでも行政改革を論じていくんだ,という姿勢があり,そういう意味では行政改革について懐疑的な感覚を持ちつつ読むというのが良いようにも思います。まあ色々合わせて読むのが良いのかな,という気もしますが。

上記の本の著者の一人,Christopher Pollitt先生とも交流のある山本清先生から,『これからの政策と経営』を頂きました。ありがとうございます。行政学の教科書的な書籍という位置づけだと思いますが,管理よりも政策と経営という概念が前面に出ているのが特徴だと思います。よく考えると,HughesとかのNPM本ではあんまり政策とか政治の話が出てこないのに対して,Pollitt and BouchaertではLijphartが引用されていたり,政治的な意思決定との関係が強調されているのが特徴で,山本先生の教科書でも(個々の政策というより)政策過程・政策サイクルについて半分くらい書かれているのは問題意識を共有されているところなのかな,という感じがします。後半の「経営」についても,日本で公共経営の教科書というと,どちらかというと経営学者(田尾先生とか)が書かれている印象が強い中で,行政学の流れで経営を強調して書かれているのは貴重な本だと思います。

著者の湯浅孝康先生と山谷清秀先生から,『地方自治入門』を頂きました。以前に佐藤竺先生らが中心となって作られた教科書の改訂というかたちだそうですが,これは「地方自治」についてのとても使いやすい教科書という印象を受けました。特徴として,「地方自治」にフォーカスが当てられていて,反対にあまり中央地方関係の記述は出てきません。正確には出てこないわけじゃないのですが,地方の側から見たかたちで記述されているように感じます(財政のところとか)。手前みそではありますが,これって,私も参加した『地方自治論入門』で意識していたことでもありまして,自分の授業ではとても使いやすそうだと思ったところです(といいつつ,『地方自治論入門』も実は改訂作業中ですが)。あと,『テキストブック地方自治』でもそうでしたが,情報の管理や災害・危機管理の章ができていて,地方自治を考えるときにこの辺の章が入るのがだんだん標準的になっているんだなあという感じを受けるところです。

明治大学の牛山久仁彦先生からは,『大都市制度の構想と課題』を頂きました。ありがとうございます。大都市制度改革の経緯やそこで出てきた論点として,議会や委任される政策(ここでは児童福祉),都市内分権などが前半で扱われ,後半では現在数少ない「特殊な」大都市制度であるところの都区制度についての分析が行われています。都区制度と言えばいつも出てくるごみ(環境)・消防のほか,新型コロナウイルス対応で連携が問題視されることが多かった保健所行政について扱われているのは本書の新しいポイントと言えるように思います。将来新しい大都市制度を構想するなら,ここで扱われているような議論が一つの前提になるということでしょう。

大阪公立大学の阿部昌樹先生から,『地域自治のしくみづくり』を頂きました。こちらは必ずしも大都市の都市内分権に限りませんが,地方自治体の枠組みとは違う地域自治をどうやって作るかについて,事例を紹介しながら考えるものです。最近では,PTA,消防団労働組合…と色々中間組織が批判されることがあり,加入率も落ちているということが指摘されるわけですが,そういった中で複数の中間組織をまとめながら地域の自治を築いていくような事例というのは興味深いものだと思います。広い意味で,この紹介の冒頭にあるNew Public Governanceというものではないかというようにも思いますが,そういった協議会を考え,運営していくときの入り口として,あるいは自治体の側が自治組織をどういう風に捉えているのか,ということを理解するヒントとしても活用できるのかもしれません。

同志社大学の山谷清志先生から,『協働型評価とNPO』を頂きました。ありがとうございます。山谷先生が岩手県立大学にいらしたころから岩手に拠点を置く政策シンクタンクを作り,20年間にわたって活動してきた記録でもあります。ご専門の政策評価を中心に行うNPOということだそうですが,大学で研究・教育をしながら長年にわたってNPOの運営に携わるというのは本当にすごいことだと思います。評価のような活動は,どうしても事業を行う自治体の意向に左右されがちになるところがありますが,岩手県だけでなく,盛岡市北上市などの自治体でも事業をされているということで,複数の自治体のニーズに答えつつ,一定の持続可能性を持って自律的なNPOの運営が行われることは,それ自体が自治体の境界に拘束されない自治のしくみのひとつのモデルのように感じます。

最後に,中央大学の礒崎初仁先生から,『地方分権と条例』を頂きました。これまでに書かれてきた論文をまとめた論文集で,分権改革と条例,政策法務と条例,土地利用と条例の3部に分かれています。それぞれの論文のあとに,現在の著者からのコメントがされているのも面白いところです。行政学の研究ではありますが,行政法とかなり交錯するところで,地方分権を経て,自治体の組織,あるいは地域の人々を法律(条例)という道具を使ってどのように動かすかということを考えるものでもあると思います。個人的にも,第3部の土地関係のところは正直よくわからないところが多いのですが,本書では,法律・条例だけではなく調整メカニズムについての記述も豊富であるとともに,説明も縦割りで行われがちな都市計画/農地なども横断的に論じられていて参考になるところが多いと思います。ぜひ勉強したいと思います。

*1:確かだいぶ前にこの前の3版をざっくり読んだ記憶はあって,そのときはNWSってどういうもんだ,ということで読んだのであんまNPGについては覚えてなかったのですが,今回の4版では主にデータのアップデートが中心となっているようで,スタイルは3版と同じということだそうです。