選挙・政治学教科書

3月末でようやく2年間の管理職業務も一応終わり。最後だし3月に入ったらまとまった時間もできるかと思っていたけどやや甘かった。やっぱり大学での業務があるということになるとどうしても時間がとられることになる。そして今年は統一地方選挙の年なので、4年に1度の取材が多い年…。

それはともかく、このところ本の紹介が滞っているのですが、少し以前にいただいたものをまとめてご紹介します。まず中京大学の松谷満先生に『ポピュリズムの政治社会学』をいただいておりました。橋下徹河村たかし小泉純一郎という「ポピュリスト政治家」として考えられる政治家を誰が支持しているのかという問題を議論するものです。分析としては、支持者の階層的な特徴は見られず、不安や不満といった心理的要因の影響もなく、新自由主義や政治不信も共通要因ではない、というよく聞く「ポピュリズム」論で強調されがちな議論を否定しつつ、支持者側のポピュリズム態度が重要であると議論されています。要するに、「ポピュリスト的な市民がポピュリスト政治家を支持していた」(183)というわけですが。

松谷先生の以前の研究では、社会的ミリューという概念に注目しながら新自由主義や政治不信とポピュリスト支持の関係についてしばしば論じられていたと思います。だいぶ前に樋口直人先生とかがやっていた「知事研究会」というのがあって*1、私もよく勉強させていただいていて、あとがきにもご紹介いただいているように、2010年代前半の筑波大でやった選挙学会でご報告をお願いした経緯もありました。他方、今回のご著書では、共通する要因として、階層や意識ではなく、ポピュリスト態度に示されるような民意を速やかに実行してほしいという「様式」が重要であるという見方が示されるものになっています。対象となった選挙ではいずれも「ポピュリスト政治家」が多くの支持を集めていたために、有権者の意識レベルでの差が出にくそうな難しさはありますが、定まった結論というよりは測定や分析方法も含めて、今後もさまざまな検討が行われていく問題であるように思います。

善教将大・堤英敬・森道哉・山本健太郎の各先生方から『2021年衆院選-コロナ禍での模索と「野党共闘」の限界』をいただきました。ありがとうございます。選挙区に注目しながら有権者の選択を分析するシリーズで、今回はミネルヴァ書房から法律文化社に出版社が移っています。タイトル通り、全体的に野党共闘の話が中心になっていますが、その中で善教さんは大阪10区で人気・知名度が高い辻元清美氏が、なぜ個人人気が高いのに負けたのか、という興味深い分析をしてました。個人の人気や認知度が高くても、有権者が個人投票ではなく政党投票をすると負けてしまう、という話なわけですが、個人の人気の高さや政党投票の重要性などをいろいろ工夫しながら検証しているのが勉強になります。

辻元さんといえば、担当編集者からこちらの本もいただいておりました。政党投票で押し流されてから、参議院で再起を図るまでの過程で、女性の過少代表やヘイトスピーチなどの問題への関心が強調されながら、改めて政治の役割を模索する様子が記されています。個人的には国交副大臣時代の国鉄の労働問題解決で国交省そして財務省と協力していくところが面白かったですね。そういう協力関係の経験がたくさんあると良いのでは…と思うところではありますが。

西山隆行・平野淳一・松尾隆佑の各先生方から『図録 政治学』をいただきました。ありがとうございます。30くらいのトピックについて、重要な要点を中心にA4で2~6ページくらいで簡潔にまとめ、豊富なグラフをつけるという新しいタイプの教科書です。自部も書いてますが、教科書って言い切るよりも間違っているといわれないように微妙にディフェンシブに書きがちなところがあるように思いますが、この教科書はひとつひとつのトピックが短く簡潔ということもあって、説明がとても明確になっていると感じます。なんというか試験が作りやすそうというか…。コロナ禍でオンライン授業をするようになってから、学部では選択式の問題の小テストを作ったりしてるのですが、その時にも参考になりそうな気がします。

著者の先生方から『よくわかる比較政治学』をいただきました。こちらは「やわらかアカデミズム」のシリーズで、比較政治学のトピックを見開きで解説している教科書になります。上の『図録 政治学』よりもひとつひとつのトピックが限定的であり、また、最近の比較政治学の教科書は理論的な説明が多い傾向にあるような気がしますが、こちらは理論的な説明に即した事例がかなり豊富になっています。例えば「民主化」とか「政軍関係」のようなまとまりがあるのですが、まず理論的なトピックを2・3説明したうえで、事例が2・3続くような感じです。政治の現象はやはり個別の事例に即していかないと理解できないことも多いわけで、わかりやすい事例を提供して理解を促す、というのはやはり重要だと感じるところです。本書くらい様々な地域の多様な専門家が数多く(30人以上)参加するのは簡単ではないですが…。

*1:久しぶりに見ようとしたらウェブサイトはなかったです。