現代官僚制の解剖

宣伝ですが,有斐閣から出版された北村亘編『現代官僚制の解剖ー意識調査から見た省庁再編20年後の行政』に,「なぜデジタル化は進まないか-公務員の意識に注目して」という章を寄稿しました。本書は,村松岐夫先生が実施されてきた官僚意識調査の衣鉢を継ぎ,大阪大学の北村亘先生を中心に20年ぶりに実施した官僚意識調査のデータを利用した研究を出版したものです。予算制約などもあり,対象になっているのは課長級以上が中心で,サンプルサイズも制約されているので,公務員の全体像を明らかにしたとまではなかなか言えませんが,現状で可能な範囲で直接(幹部)公務員の方々の意識に迫ろうとした研究であると思います。もちろん当初はもう少し広い範囲に実施することを考えていたのですがまあいろいろありまして…(という経緯は「はじめに」と10章にちょっと書いてます)。

私自身は最近細々と研究しているデジタル化について,組織文化との関係について考えてみたというものです。「デジタル化は大事だよね,だけど政府はできてないよね」とみんな言うわけです。でも情報通信技術の導入という観点から言えば,電話や電報,FAX,インターネット,ウェブ会議システムなんかも政府はそれなりに導入してきたわけです。でもできてない,と言われるときに「業務を機械で代替する」ということについての組織文化的な抵抗があるのではないか,ということを考えてみました。サーベイの分析結果から言えば,効率より大事なものがある,とか,外部の理解が大事だ,と考えていたりすることと,機械による代替には積極的じゃない感じが相関しているんじゃないか,というような感じになりました。こういう組織文化は測定するのが難しいし,なかなかはっきりしたことは言えませんが,ひとつの議論としてご笑覧いただけると嬉しいです。

政治理論

政治理論は専門外なんですが,外野からでも意欲的とわかる政治理論の研究を3冊頂きました。ありがとうございます。まず,西南学院大学の鵜飼健史先生から『政治責任』を頂きました。ありがとうございます。私自身も,自分が関わった『政治学の第一歩』がアカウンタビリティを軸にした教科書であることがあって,政治責任について関心があり,非常に興味深く読みました。「責任を取る」ということ自体の難しさを改めて考えるとともに,この問題を考えるときに時間の概念が鍵になるというのもそのとおりだと感じます。いまと往時は違うのでしょうが,以前大阪について研究していた時に,市長はそのような時間軸と自らが責任を取るという姿勢を使って人々にアピールするのが上手な政治家であったなあ,と感じていたことを思い出しました。

私たちはみなが政治責任を取らざるを得ない,という本書の結論も,私たちが民主主義を作り出すことを考えればその通りなのだと思います。他方で,私などは(別に大衆社会論者ではありませんが)やはり政治責任を取る,誰かのために負担をする,ということが一般には容易ではないだろうとも思うところです。そういう中で,自分としては,とりあえず誰かに限定的にでも責任を取らせたことにするアカウンタビリティを発揮する制度が重要だろうと思いながら研究をしているなあ,と感じます。実際,為されたことの原因と結果の関係だってわかりにくいですし,わかったところでそれを追求できるかは怪しいのでしょうが,しかしできる限り制度的責任の側から追い込んでいって,本書でいう政治責任に委ねられる範囲を狭めることが大事なのではないかな,と感じるところがありますが。

鵜飼先生には,『歪められたデモクラシー』もいただいておりました。翻訳を進めながら同時期に著作を用意されるというのは本当に大変のように思いますが素晴らしい生産力です。こちらの方もぜひ勉強させていただきたいと思います。

宮崎大学の松尾隆佑先生からは,『3・11の政治理論』を頂きました。ありがとうございます。東日本大震災という未曽有の災害(そういう「未曾有」が感染症,戦争と続いていたたまれない気持ちになりますが)に対して政治理論に何ができるかという問題意識で議論を重ねられることは非常に重要な試みだと感じました。EBPMのような話がもてはやされ,自分自身も仕事柄絡んだりすることもあるわけですが,すでに行われたエビデンス・ベースドの提案だけではなく,理論に裏打ちされた「正しい」政策を提案するということは,それが常に望ましいかどうかということとは別に社会的に求められることのように思います。その点で本書での試みは,近年の政策議論に一石を投じるものであるように感じます。

また,本書は政治理論の研究書ではあるのですが,同時に震災復興という最近の現実に関わる問題を扱うものでもあって,さまざまなかたちで実証研究が紹介されていくのも興味深いと感じました。理論研究は理論研究,実証研究は実証研究と分けられがちではあるのですが,その中で両者を架橋するような試みが行われるのは重要なことでしょう。本書では,復興に関する政策/過程について規範的な評価が行われているわけですが,それを踏まえて実証研究の観点からもその規範の実現可能性などについて議論していくこともできるのかもしれません。

最後に,筑波大学の木山幸輔先生から,『人権の哲学』をいただきました。ありがとうございます。主権国家体制の中で人権というものをどのように考えるかについて詳細に検討されたうえで,人権について自由のみならず平等に依拠して考えるべきであるというご主張は,学生の頃に読んだセンの『不平等の再検討』を思い出させるものがありました。そのうえでの社会経済的権利やデモクラシーへの権利を人権として擁護する議論は,私自身,「どのような権利を人権として捉えるべきか」というようなサーベイに関わったことがあり,興味深く読ませていただきました。また,外国における人権侵害をどのように考えるかという議論は,2月にロシアがウクライナに侵攻してから,悲惨な映像や画像が流れてくるのに胸を痛めるばかりという中で,我々が何を考えれば良いのかを示唆するものでもあるように思いました。

10章の開発の倫理学のところは,『3・11の政治理論』とも通底するところがあるように感じましたが,まさに今全盛になっている実験的手法・EBPMという発想を私たちの社会でどのように位置づけるかを考える者にもなっているように思います。この章では,ポスト開発→ビッグプッシュ→社会実験/リバタリアンパターナリズムという発想が吟味されていくのですが,実はこれは自分自身が学部生から院生,現在にかけて興味を持ってきた(最後は進行中でしょうが)発想でもあって,なんというか共感と微妙な反省がない交ぜになる感じもありました(苦笑)。

 

新訂 公共政策(+放送大学教科書)

宣伝ですが,大阪市立大学(4月から大阪公立大学)の手塚洋輔先生と共著で,『新訂 公共政策』を放送大学教育振興会から出版しました。二人とも大学では行政学を担当していて,いわゆる「公共政策論」については必ずしも専門というわけではありません。そのために,一般的な公共政策論の教科書よりもかなり政治学行政学っぽい感じになっているのではないかという気がします。基本的なコンセプトとしては,公共政策を社会と政府の資源交換のプロセスとして理解して,政府が社会から情報・金銭・人間・権限(社会から見れば自由)を調達した限りで使う,というところにあります*1。さらにそういうコンセプトともかかわりますが,結局政府が何かしたいと言っても,社会/人々が言うこと聞いて動いてくれないとなにもできない,ということで,公共政策の共同生産的な側面を強調している感じになってます。そのあたり,多少目新しいものになっているとよいのですが。

そういうわけで展開としても,普通は公共政策のインプットからアウトプット・アウトカムへと流れていくところが多いと思うのですが,まず社会との接点として情報・金銭・人間・権限の調達の話をして,そこから政府による公共政策の実現の話が続き,最後の公共政策の形成・意思決定の話がやってくる,という感じになっています。実現・形成のところについても,一般的にはカネとヒト,次に権限の話が多いわけですが,この教科書では他であまり触れられていない情報,そして専門知といったところがなるべく前に出てくるように構成しているつもりです。うまくいってるかは読んでいただいた方の評価にお任せいたしますが…。

私たちの「公共政策」は大学院向けのラジオ講義ですが,講義としては学部の方が多いのではないかと思います。その学部向けの『政治学入門』を待鳥聡史先生から頂きました。ありがとうございます。待鳥先生が全体の2/3くらいを書いていて,そこは比較政治学の観点から代表民主主義を扱い,現代日本政治を説明する,という感じでしょうか。残り1/3については山岡龍一先生が理論と思想,白鳥潤一郎先生が歴史のところを担当しています。待鳥先生が中心となって一貫した説明を行うとともに,思想や歴史のところは専門家が参加して補うバランスの良い教科書になっていると思います。

放送大学といえばテレビ講義なわけですが,テレビで行われる『現代の国際政治』を白鳥潤一郎先生から頂きました。ありがとうございます。ロシアがウクライナに侵攻して,日本にとっても脅威を感じるような中で,私たちにとっても国際政治が他人事とも言えなくなっているところがあります。しかしどうしても国際政治を理論だけで議論するのは難しいですし,他方で歴史を追っかけるということをしようと思っても作業が膨大過ぎてキツイ,というようなことも出てきます。本書は,前書きにも書いてありますが,その辺ちょうどよいバランスを実現しているような感じで,歴史的な経緯を学びつつ,現代のホットトピックについても学んでいくことができる教科書になっていると思いました。

*1:ていうか個人的には『政治学の第一歩』でぜんぜん「社会」が出てこない教科書を書いていたので,今度は社会ばっかり出てくる教科書かよ,という自己ツッコミがあったのですが(苦笑)。

現代政治←→歴史

インターネットが広く普及して(という枕詞を書くといかにもおっさんですが)研究手法は大きく変わりましたが,最近だとオンラインでのインタビューやネットに公表されていた資料の収集整理なども系統的に考えていかないといけないように思います。そういう意味では,現代政治の研究が歴史研究に近づいているようなところもあるような。

著者のみなさまからいただいた『検証 安倍政権』は,歴史を分析するような手法を意識しながら直近の現代政治について検証したものと言えるように思います。50人以上に上る政権関係者のインタビュー*1を利用しながら,直近の政権である安倍政権について分析が行われています。媒体は新書ですが,各章はそれぞれ普通の研究の研究論文として書かれているような重厚な内容だと思います。各章非常に興味深いのですが,個人的には特に中北先生が書いた官邸チームの話と,寺田先生の5章を中心に全編でちょいちょい出てくる農政関係の話が特に勉強になりました。今後,新たにいろいろな文書などが公開されて安倍政権の研究は広がっていくんでしょうけど,まず読まなければいけない本ということになるでしょうね。やっぱ名前出しでインタビューに応じている人のストーリーは強めに出てるような印象もあるので,インタビューの記録も何年かしたらどっかに寄託して読めるようにして欲しいものです。

執筆者の小宮京・出雲明子・笹部真理子・岡野裕元の各先生から『官邸主導と自民党政治を頂きました。ありがとうございます。こちらは小泉政権期の自民党政調会の資料や勤務されていた人へのインタビューやメモを利用しながら歴史的な分析を行っているものです。当時大学院生をやっていた私のような世代の人間には,ああ小泉政権も本格的に歴史学の対象となるか…という感慨を覚えるところです。全体として,しばしば諮問会議中心に語られる小泉政権の「双頭の鷲」(by清水真人さん)のもうひとつの頭の方を明らかにする重要な試みかと思います。読ませていただくと,改めてこの時期の政権を考える上では,与謝野馨という人がポイントであったような気がします。その与謝野に近い清水さんが「平成デモクラシー」語り部になっているのは必然というべきかなんというべきか,という気がしますが。

その清水真人さんからは『憲法政治』をいただいておりました。ありがとうございます。安倍政権下での憲法改正への挑戦についての記録,というところがありつつ,「平成デモクラシー」と接続する形で憲法の議論を論じるものになっています。憲法は,法律を中心とするさまざまな決定を生み出すルールであり,憲法改正はそのルール自体を変えるメタ決定なわけですが,それが通常の決定と並行して行われることに難しさがあるわけで,本書ではそれに対する挑戦を鮮やかに描いていると思います。ところどころで統治機構としての天皇の話が出てくるのがとても良いところだと思います。書かれているとおり,天皇は重要な統治機構なわけですが,関係の議論をされている人は必ずしもそういう意識があるわけではないように思います。おそらく現上皇が非常にリベラルな方であることも含めて「平成デモクラシー」に通奏低音のように影響があったように思うのですが。

日本で統治機構改革というと選挙制度改革が注目されがちで,特に一票の較差の問題が強調されます。岩崎美紀子先生からは,『一票の較差と選挙制度』を頂きました。本書では,国際比較を踏まえたうえで衆議院の一票の較差の問題を中心に日本の選挙制度の特徴について議論していきます。特に,岩崎先生もかかわられた2016年のアダムズ式の導入について書かれた5章の政治過程が興味深いのではないかと。その他にも,参議院や地方議会選挙の選挙制度が抱える問題とその改革,自書式の廃止や政党の活性化などについても議論されています。

『官邸主導と自民党政治』の執筆者でもあった岡野裕元先生からは,『都道府県議会選挙の研究』をいただいておりました。本書は1959年以降の都道府県議会選挙の結果を丹念に分析した大変な労作かと思います。膨大なデータを収集・整理されたこと自体大きな貢献だと思いますし,1970年代までの人口移動の激しさを反映した選挙区定数の変化など,改めて気づかされたことも多く勉強になりました。本書では,選挙区定数ごとの違いなどを中心に,選挙結果に絞って禁欲的に分析されていたと思いますが,今後,こちらのデータで長い期間の経時的な変化を追われているのを利用して変化の原因などについて議論されていくと,さらに興味深い知見も得られるのではないかと思います。

早稲田大学の渡邉有希乃先生からは,『競争入札は合理的か』を頂きました。予定価格制度や指名競争など,複雑でしばしば腐敗の温床とされる日本の入札制度について,近年ではよりオープンな競争入札の必要性が強調されるものの,現存の制度は限られたリソースの中で一定の手続き的な合理性を満たしているものではないか,という議論が展開されています。多くの制度研究は,制度の生成や変化に焦点を当てることが多いですが,なぜそれが存続しているのかについて丁寧に論じることもまた重要だと思います。本書の場合は,政府・公務員の側から見た入札制度について議論されていて,特に自治体担当者への意識調査を行った4章は重要な貢献かと思います。オープンな競争入札の導入は重要な論点ではありますが,本書の分析は,政府が限られたリソースで入札制度を運営しているという視点を踏まえたものでないと新たな問題が生じる可能性が高い,ということを示しているように思います(実際起きつつあるようにも思いますが…)。

*1:オンラインとは書いてないんですが,こんな短期間でやるには相当程度オンラインじゃないと無理でしょうね…。

政治学と因果推論

大阪大学の松林哲也先生から,『政治学と因果推論』を頂きました。どうもありがとうございます。因果推論の方法は経済学を中心に,社会科学で共有できる方法として広がっています。そんな中で「政治学と因果推論」と言うと,政治学でも因果推論の方法を使わないとダメなんだといったような極端な議論に傾いてしまうこともありますが,政治学の中で早くから因果推論の研究に取り組んでこられた松林さんが書かれた著作だけあって,その意義や方法を解説ところが素晴らしいのはもちろんですが,その限界や社会における役割についても触れられているのもよかったと思います。最後のところで僕の本もご紹介頂いて非常にうれしく感じました。

本書を頂いて,あまり何も考えずに頭から読み始めて,因果効果の定義と測定,自己選択の話とそれへの対応と流れていくわけですが,4章で無作為化実験の話が来て,5章で降雨量と投票率の話が続きます。5章は「自然実験」という言葉が入る章ですが,降雨量と投票率の話はよく操作変数のときに使われるので,あれ?操作変数?と思ったら強い外生性を持つ偶然の割り当ての話,という位置づけで,この降雨量の話はきちんと7章(こちらにちゃんと「操作変数法」とあります)で回収される形になっていました。まあこれは僕が単にちゃんと目次を読んでいなかったところもありますが,章間の連関についてもよく練られた著作であると思いました。この操作変数法の説明は非常に充実していて,色々読むことはあるわけですが,個人的には最もわかりやすい操作変数の説明であったかと思います。まあ一応政治学者なので,政治学ベースの事例で説明してもらう方がわかりやすいということはあるわけですが,操作変数の仮定とその意味についての説明がすごくわかりやすいと感じたところです。

政治学でも因果推論の方法が重要になる中で,こういう教科書が出ると授業を組みやすくなっていくと思いました。まず『Rによる計量政治学』で基本的な分析方法,統計的推定やその妥当性を検証する方法を学ぶということを行ったうえで,次のクラスでは『政治学と因果推論』などを中心に因果推論の方法を学ぶ,という感じでしょうか。もし可能であれば,量的テキスト分析とか地理データやネットワーク分析何かを学ぶクラスもあるとより充実したものになるように感じます。勤務校ではこのうち2つがありますが,最後のような授業に使える教科書もそのうち出てくると嬉しいなあ,と(ただの希望)。

仕事納め

いつの間にか2021年も終わり。忘年会とか年末を感じさせる(外での)行事が減ったためにあんま年末感しなかった。もちろん去年も似たような状況だったわけですが,今年のほうが(オミクロン株への懸念があるとはいえ)昨年より自由がある感じでかつそういう季節感がある行事がない,っていうのでより年末感が少ない気がする。

今年はなんだかんだずっと仕事をしていたような気が…。学会事務局は二つあると年中何かやってる感じはあるし,4月からの学部教務委員長は割と反射神経を使う仕事のようなので,集中して他のことをするのがちょっと難しくなるように思った。事務局はあと1年弱で教務は1年強と思うと辛い…。ゆっくり考える仕事が難しくなった割に,12月以外は年中何か書いてた気もする。年明けは『テキストブック地方自治』の担当部分を書き,それから第一生命財団の助成研究の調査と報告書,そのあとは4か月くらい放送大学の『公共政策』(〆切からずいぶん遅れてすみません…)をひたすら書いてた。6月はIPSAでの発表のペーパーを書き,7~8月は1年前に〆切となっていたはずの二次元の政党間競争を考える論文(いつ出るのかわかりませんが),それが終わったら北村先生の中央省庁公務員サーベイを使った論文(こちらは来年2月出版予定)という感じ。11月は研究報告の準備,12月は管理業務で終わってしまったので,結局自分の本の原稿はあまり進んでいない…。今から1月中旬までで時間を使いたいとは思っているのですが。

というわけで,一応出た文章は,昨年中に書いていた『総合検証 東日本大震災からの復興』で仮設住宅について書いたものと,『テキストブック地方自治』で自治体間連携について書いたところ,後はインタビューなど散発的な雑誌記事くらいでしょうか。なお,『公共政策』のほうは一応12月に見本が出て,それほど多くはないのですが献本もさせて頂いてますが,発売は3月だそうです。

今年印象に残った本,と思ったんですが,仕事関係以外ほとんど読む時間なかったんですよね…。ただ『監視資本主義』は面白かったです。あとはまた別で紹介したいと思いますが,最近頂いて読んだ松林哲也先生の『政治学と因果推論』はとても面白くて勉強になりました。いろいろ読んだ中で,個人的には操作変数についての説明はこの本のものが一番しっくりきました。また,松林さんらしく,因果推論を重視しすぎることの問題性や,日本政治研究への意味などが書かれていたのもとても良かったと思います。

分散化時代の政策調整

広島大学小林悠太先生に『分散化時代の政策調整』を頂きました。ありがとうございます。本書は博士論文をもとにしたものですが,小林さんは修士課程の時に大阪大学で副査として指導をした大学院生で,実は副査などをしていた大学院生が書いた初めての著作ということもあって個人的にも感慨深いです。内容としても,修士論文やその後の論文から非常に大きく展開した議論をされていて感銘を受けました。

本書で扱っているのは,内閣府を中心とした「政策調整」と呼ばれるものです。「呼ばれるもの」ってよくわかりにくいですが,これは制度っていうものでもないし,現象っていうのとも違うだろうし,取り扱いがしにくいものです。しかし従来から行政学のコア概念のひとつであることが意識されているもので,政策決定において様々な組織・機構が複雑に絡み合う現代行政においてその特質を解明することには大きな意義があります。

本書では,この重要な問題についての最近の先行研究の整理を丁寧に行ったうえで,まず近年の日本の行政において「局」「課」ではなく「室」という単位が重要になりつつあること,つまり官僚組織における基礎単位が縮小していることを論じています。「分散化」という話ですが,これはきちんと言われていないと思いますが,うまく示すことができていると思いました。内閣府について論じた章では,これも多くの人がきちんと議論していない共生社会担当政策統括官の機能について論じていますが,実は「総合調整」を任務のひとつとして設置されたこの組織が「共生社会政策」と呼ばれる政策領域を開拓する可能性があったこと,しかし実際はそうならなかったことが観察されています。さらに,共著で書いたテーマとも近いですが,内閣官房にかかる政策会議の機能が分析され,官房長官周りが重要になっていることが指摘されていました。

読者としての感想ですが,本書で最も重要な主張を端的に書いているのは131頁の「内閣官房内閣府が拡大した理由が,「首相の権力」の拡充ではなく省庁官僚制や政策自体の悪構造に由来するのなら,政官関係の変化や政治過程の集権化がもたらすゆがみを解消したところで,それだけでは問題の解決策にならない」というところではないかと思いました。要すれば,専門性が重要になる中でジェネラリスト中心の官僚人事システムということが決定的に難しくなっていて,その中でやっていくためにたこ足のように調整システムを広げていかないといけない,ということではないか,と思います。本書のパースペクティブから言えば,仮に首相の権力が十分に強くて統合できるなら,共生社会の政策統括官は社会政策担当として進化を遂げる可能性もあったのかもしれません。しかし,ここから構造化された何かが取り出されることはなく,もう一回「調整」のためのハコとして利用されることになっていったわけですが。

まあ正直言ってマニアックなテーマで,取り上げられている調整の「質」について考えるのはなかなか骨が折れるところです。しかし,中央省庁改革から20年たって,日本の省庁制における調整という極めて重要ではあるけれどもわかりにくいテーマについて,改めて考えることの意義をよく示したものだと思いました。