宣伝ですが,小熊英二・樋口直人『日本は「右傾化」したのか』慶應義塾大学出版会,に「地方議会における右傾化-政党間競争と政党組織の観点から」という論文を,秦正樹さん・西村翼さんとの共著で寄稿しました。ヨーロッパを中心に,右翼政党が進出するメカニズムについての先行研究を整理したうえで,日本の地方議会で同様に右翼勢力が進出のような現象がみられるか,見られるとしたらなぜなのか,について議論したものです。対象になっているのが2015年以降なので,「進出するようになった」といった時系列な変化について十分に扱えているわけではないですが,地方議会での審議から右翼的な言辞が交わされている傾向を持つ地方議会・議員がなぜ生まれるようになったかについて考えた感じです。
対象にしたのは大阪維新の会という「右翼」と見られがちな新党が参入している大阪府下の(政令市以外の)市です。仮説としては,(1)政党間競争→右翼とされる新党が入ってくると地方議員たちは右翼的な言辞を述べる傾向を強める,(2)分極的な政党組織→SNTVで選ばれる地方議員は同じ政党内で競争するために,右派的な政党(ここでは自民党)の議員は,同僚議員が多いほど右翼的な言辞を述べるようになる,というような感じで設定されています。右翼的な言辞の測定が難しいですが,地方議会において「日本人」「外国人」「生活保護」「人権」といった言葉を使う頻度で測定しました。それぞれの議員ごとにこの従属変数を測定し,所属政党,維新議員の有無,それぞれの議会での自民党議員の人数,といったような変数との関係を見るわけですが,まあ(テキストを使った研究にしては珍しく??)仮説として考えていたような結果がある程度サクッと出てきた感じです。当初編者に出した企画案をほとんど書き換えずにイントロにできたので。まあデータ整理はめちゃ面倒でしたけど。
インプリケーションとしては,有権者の「右傾化」みたいなものとは関係なく,新党参入やライバルの増加といった刺激が加わることで,有権者から離れて議員が「右傾化」していくことが考えられるんじゃないか,というものです。大阪を選んでいるのは,僕がある程度知ってるから・データがあったからということもありましたが,維新というある種のイデオロギーを持つとされる政党がシステマティックに参入したというのがあったわけで,このような参入が刺激になっているということは,それぞれの議会において過激な無所属議員もそれなりに刺激になっているであろうことも予測できるのではないかと思います。そういう話は,編者が序章でまとめている「左を欠いた分極化」という議論とも整合的なものではないかと考えています。要は右の方が互いに刺激し合って政策位置をより右の方に移すということが起きている一方で,左の方ではそういうことがあんまり観察されない,という感じなので。てか我々の理解では,左の方でも刺激し合ってるけど,元々があまりに弱いのでセイリエントに分極化にならない,っていう方が正しいとは思いますが。
編者のご希望で(僕らから見たらあんまりよくわからないのも含めて)書き直しの依頼があったりして査読っぽいようなところもありましたが,たぶんそういうこともあって他の論文も非常に興味深いものになっているのではないかと思います。個人的には,政治学者と社会学者のこのテーマに対する微妙な温度差みたいなのも垣間見えてなかなか面白かったなあ,と。
このテーマは,中井さんの研究を読んで以来,日本の地方議会の選挙制度の文脈を使てやってみたいとずっと思ってたので,5年経って念願がかなってうれしいところです。実はコロナ禍で流れてしまったIPSAで英語版を発表する予定だったのですが,そのときはもうちょいoutbiddingみを出していきたいなあ,と思ったり。