比較政治

昨秋のオンライン講義の用意のために大幅に予定が遅れてご迷惑をおかけしてしまった仕事がようやく落ち着き,気持ち的には平穏が戻ってきた今日この頃。しかしなんとなくやってしまった学会事務局×2と学部の教務責任者の仕事はなんか断続的に入ってくるわけで,これがあと1年半以上続くかと思うとなんかもうギブアップ状態。ていうかたぶん十分な貢献ができてなくて本当にすみません。

この間比較政治関係の文献もいろいろ頂いていたのでまとめてご紹介します。まずは北九州市立大学の中井遼先生から『欧米の排外主義とナショナリズム』を頂いてました。ありがとうございます。まず本書ではしばしば「近代化の敗者」仮説と呼ばれる,経済的に苦境に陥った人たちが移民に対して敵対意識を抱いて極右政党を支持するんだ,という仮説が実際のところ説明力が低いことを様々な形で示されています。そうではなくて,伝統を重視するとか自国文化が破壊されることへの恐れなどが極右政党につながっていると。中井さんの本は,以前のものもそうですが,非常に説明がクリアでかつ読み手に配慮したかたちで図表などのプレゼンテーションもされていて見習うところが非常に多いです。

基本的には,ヨーロッパでの社会調査(European Social Survery)を利用しながら分析しているのですが,その中でデータから「新興ポピュリスト勢力に排外ナショナリズムが一本化される」「既存ナショナリスト勢力が機会主義的に排外主義を利用する」「穏健右派勢力が競争構造内で極端化する」というパターンを見出し,それぞれを代表する国で追加的な調査をして移民に対する検証をしてるのはホントにすごいなと。個人的には,この最後のパターン(本で取り上げられているのはポーランド,あとはUKとか)に非常に興味があって,日本もそれに近いところがあるんじゃないかなという感じで研究をしているところもあります。しかし,こうやって比較で並べて見せてもらうと,やはりその違いというのは際立つなあ,と感じます。 

成蹊大学の西山隆行先生からは『<犯罪大国アメリカ>のいま』を頂きました。ありがとうございます。大学での業務もお忙しい中,この数年でアメリカの移民や政治に関するご著書などを立て続けに刊行されていて本当にすごいです。この本は,アメリカの犯罪について扱っているものですが,銃規制・麻薬・不法移民など犯罪そのものに目を向けている一方で,警察行政・治安維持行政の本としても読めるというところが非常に興味深いと思います。日本の行政学では実のところこの分野についての研究書ってほとんど出ていないと思いますが*1,多くの国において治安維持に関する行政は非常に重要な関心事項になっているわけで,日本の治安維持行政――パンデミック対応も入ってくるように思います――を考えるときにもひとつのとっかかりになるご研究ではないかと思います。

藤武先生,野田省吾先生,近藤康史先生から『ヨーロッパ・デモクラシーの論点』を頂きました。ありがとうございます。近年の研究成果を踏まえたヨーロッパ政治についての最新の教科書・解説書です。ヨーロッパの比較政治というと,さまざまな特徴がある国ごとの分析・解説するものが多いと思いますが,本書ではアクター(極右勢力・新しい左翼・保守主義勢力・社民勢力とそのクリーヴィッジ)とテーマ(官僚制・司法・ユーロ・地域主義・社会的投資・移民・国境管理)で章が分けられていて,アクターやテーマごとにそれぞれの国の特徴について触れられていて,「比較」をより意識したような作りになっていると感じました。

 著者の先生方から,『政府間関係の多国間比較』を頂きました。ありがとうございます。ご執筆のメンバーを見ても『地方分権の国際比較』の続編というような位置づけになるのかと思います。この共同研究では,中間団体――広域自治体という言われ方もすると思いますが――である州(連邦国家)や県(単一国家)への権限移譲に注目したものになっています。日本でもコロナウイルス感染症への対応で知事が前面に出ているように,どこでもこの中間団体の役割が大きくなっている傾向がある中で,従来の連邦国家/単一国家という認識の枠組みの相対化が示唆されているということだと思います。 

 『文部科学省』が好評の青木栄一先生から,監訳に当たられた『アメリカ教育例外主義の終焉』を頂きました。ありがとうございます。特にアメリカで他の政策領域から独立していると考えられていた教育政策が,大統領や知事,議会,そして裁判所などの政治アクターとの関係の中で一般的な政治の中に再統合されていくという制度の変化について論じられているものです。このような実証研究はなかなか翻訳がされなくなっているわけですが,青木先生をはじめ教育の政治学に関心を持つ人たちによって重要な書籍が訳されることで,この分野に関心を持つ大学院生や学部生にとっても非常に重要な学ぶきっかけになるのではないかと思います。 

*1:しばしば引用されるのは第一線職員の一分野として警察が取り上げられる畠山弘文,1989,『官僚制支配の日常構造』三一書房でしょうか。これももう30年前の本なわけですが。