教科書/入門書

同僚の興津先生と東京大学の宍戸先生から『法学入門』を頂きました。ありがとうございます。ずっと入門しようと思いつつ20年くらい入門してないのですが,この本は基本的なところから新しい展開まで幅広く扱われていてとても興味深く読みました。自分が学生の時にこういう本から読んでたらもう少し違ったかもしれない,と思うところも…*1。特に好みのところは,法学の説明するときに裁判/手続法から始めて,民法,刑法,憲法と続いていくところです。たぶん高校なんかでは憲法から始めるようなノリが強いと思うんですが,こっちの方がわかりやすいんじゃないかと。実は数年前にある高校の教科書を書く企画に参加して,結果的にボツになったんですが,同じように民法・商法的な話から始めて,公法,憲法は最後,というような展開で書いておりました。法律というと立法の法が大事,という感覚が強い気がするんですが,私的自治を中心にする方が受け入れられやすいと思うんですよね。素人考えですが。

明治大学の牛山先生に『自治・分権と地域行政』をいただきました。自治体の連携や再編,広報・広聴やコミュニティなどについて従来の教科書よりもかなり厚めに書かれているように感じました。前に紹介した野田遊先生の教科書もそうですが,地方自治関係の教科書の内容が刷新されつつある時期なのかもしれません。自分自身も最近そのあたりに関心を持ち研究をしているところがあるのでいろいろ比べながら読むと勉強になるように思います。 

 大阪国際大学の湯浅孝康先生と青森中央学院大学の山谷清秀先生から『地域を支えるエッセンシャル・ワーク』を頂きました。ありがとうございます。新型コロナウイルス感染症の拡大の中で改めて注目されたエッセンシャル・ワーカー,地方自治体の現場では現業職員ということになりますが,この職員の皆さんに注目した書籍です。具体的には看護師,保健師男女共同参画センター相談員,清掃職員,給食調理員,保育士といった仕事についての現状の検討と分析が行われています。やはり地方自治に関わる多くの読者を想定した教科書に近いような本だと思いますが,従来十分に扱われてこなかったものの非常に重要なテーマであり,新しい研究へのヒントが多く含まれているように思います。

 著者が重なるところがありますが,山谷清志先生から『これからの公共政策学2 政策と行政』を頂いておりました。ありがとうございます。こちらは行政責任・統制・評価といったところに焦点を置いて書かれている教科書です。日本の行政の現場を意識しながら「行政の責任」を考えようとしているところに特徴があるのではないかと思います。個人的には(指導している大学院生のテーマでもあって)汚職についてまとめられた章があったのが良かったです(湯浅先生)。汚職って非常に重要なテーマなのに,どちらかといえばジャーナリスティックな扱いを受けていて,日本の行政学ではあまりシステマティックに触れられていないと思うんですよね。日本での行政責任との関係で汚職について扱われる新しい取り組みだと思いました。

 東京都立大学の大杉覚先生から『コミュニティ自治の未来図』を頂きました。ありがとうございます。コミュニティを軸に担い手不足や情報など新しい問題を扱った地方自治論で,しかもおそらく従来避けがちだったコミュニティの財政責任について言及されているのを興味深く読ませていただきました。本書で触れられているマルチスケール/リスケーリングというテーマは個人的にも関心をもって研究を進めているところなので勉強になります。このように並べてみると,最近出ている地方自治関係の教科書は,制度よりも住民との接点に力点を置いたものが多いように感じられるところです。地方自治に対する見方も変わっているということかもしれません。

 

*1:でも今ちょっと調べたら自分が20年前に無理とほおり投げてしまった『法学入門』が非常に情熱的で優れた入門書であるという評価があるみたいなので,単におっさん年食った人間の評価なのかもしれません。すみません。