『徹底検証 日本の右傾化』

塚田穂高先生に『徹底検証 日本の右傾化』を頂きました。どうもありがとうございます。もう3刷りなんですね!主に社会学者・政治学者が書かれたところと,塚田先生がご執筆のところを中心に拝読いたしました。ジャーナリストや運動家の方々のところも興味深いのですが,読んでる印象としては,少し結論を急ぎ過ぎていて,ちょっとついていけないところを感じたのも事実です。14章で右派の「陰謀論」について書かれているところがありますが,「自説に対する反論があること」と「自説が広く受け入れられないこと」が陰謀論の特徴であるとすれば,それがそのまま当てはまるような章もないわけではないように思ったり…。しかしそういった方々も含め,多様な角度から議論できる執筆者を広く求めて一冊の本にされた塚田先生のご尽力はとても優れたものだと思います。
個人的には,竹中先生の議論(第6章)に近い印象を持っています。つまり,政治家の方は先走って「右傾化」しているところはあるけれども,有権者がついてきているわけではないという現状があるのではないかと。政治家がそういう志向を持つ理由としては,中北先生が本書(第5章)でも『自民党』の中でも,民主党への対抗ということを中心に論じておられます。私の感覚から言うと,選挙制度そのものというよりは,自民党内の総裁選出プロセスの変化や,地方の選挙制度と地方組織の影響力拡大といったところも重要な理由になるように思いますが。もちろん,仮に有権者の選好の大きな変動を伴わない政治家の活動だとしても,軽く見てよいというわけではなく,政治家が中道を狙う(狙わざるを得ない)制度設計こそが重要だと思います。
竹中先生の分析したイデオロギーの調査では「右傾化」の傾向が観察できていないとしても,気になるところは宗教的な伝統回帰みたいな動きだろう,ということで,本書では宗教についての分析が厚くなされています。読んでいて思ったのは,宗教と重なるかたちで重要になってくるのはやはりナショナリズムで,グローバル化が進んでいる中でナショナリズムを重視するようになるというのはまあ割と自然だと思いますが*1,日本の場合は本質主義/伝統主義的なナショナリズム天皇制や神道と結びつきやすいので,宗教の問題として一部捉えられることになるのではないかという印象を受けました。塚田先生のご論考は,以前のご著書と同じように類型化を図りつつ分析的に議論を進めるものです。他のご著書でもそうですが,宗教を分析的に議論するのは簡単なことではないと思いますが,非常に興味深い議論だと思います。気になったことを言うとすれば,類型化を行うときに,基本的に日本社会を前提とされているような感じがあるので,例えばアメリカの宗教右派とかはどういう風に関係づけられるかなどはちょっと見えにくいということです。
もうひとつ,問題をナショナリズムの方から考えると,やはり不思議なのはなんで「左派ナショナリズム」みたいなものはない(見えない?)のだろうか,ということがちょっと気になりました。一国社会主義論を持ち出すまでもなく,国民に対して平等な福祉を提供するという発想は,ナショナリズムと結びつきやすい(排外主義的になりやすい)ように思いますが,そういう(再)分配志向が直接出てくることはあんまりないような気がします。あるいは,すでに左派ナショナリズム国家社会主義的に「右派」の方にからめとられているという理解なのかもしれませんが。もしそうだとすると,対抗軸としては「自由」の強調になるように思いますが,これも新自由主義への嫌悪感で難しい,というと,やや辛いところです。…とまとまらないことを書いてしまいましたが,色々な思考を刺激される本であるのは間違いないと思います。

徹底検証 日本の右傾化 (筑摩選書)

徹底検証 日本の右傾化 (筑摩選書)

*1:いわゆる再国民化,というやつですね。関連研究としては,高橋進・石田徹[2016]『「再国民化」に揺らぐヨーロッパ-新たなナショナリズムの隆盛と移民排斥のゆくえ』法律文化社など。