韓国型福祉レジームの形成過程分析

明治学院大学のベ・ジュンソブ先生から、『韓国型福祉レジームの形成過程分析』をいただきました。どうもありがとうございます。ベさんは、もともと神戸大学法学研究科の大学院生で、その後しばらく助手を務めていただいておりました。本書は、博士課程の学位論文として提出されたもので、それを大幅に修正して出版したものになっています。私自身も審査の末席に参加したものであり、今回無事に出版されたことを非常にうれしく感じています。

本書は、「後発福祉国家」である韓国の社会政策についての歴史的な分析を行うものです。後発福祉国家というのは、まあそのままですが、ヨーロッパなどから遅れて、戦後しばらくたってから発展を始めた福祉国家ですが、このような国では、制度が導入されて受益者が増える拡大傾向にあるうちに、高齢化などの制度の見直しを求める圧力が強まって福祉国家再編が生じる、という特徴を持ちます。ヨーロッパや日本などは、人口ボーナス期に福祉国家の諸制度を拡大することができたのに対して、後発福祉国家ではそのボーナスを活かすことができる期間が短く、十分に拡大しないうちに福祉国家の先発組が抱える問題に直面する、ということになります。

そんな特徴を持つ韓国の福祉政治がどのように展開し、どのような特徴を持っているかを明らかにしようとするのが本書です。「古い社会的リスク」である年金・医療と、「新しい社会的リスク」に対応しようとする介護・子育て支援という4つの分野について歴史をさかのぼって検討し、前者は権威主義時代の制度遺産の影響を大きく受け、後者は民主化後の政治過程によって左右されやすいことを論じていきます。年金・医療がいわゆる低負担・高福祉から始まってそれをいかに縮減するかという似たような政治過程をたどっていくのに対して、介護・子育て支援のほうは状況に合わせて全く違う展開を取っていくのは非常に興味深い議論です。

「後発福祉国家」ではあるわけですが、抱えている課題は基本的に同じで、対応は他の国より先駆的、場合によっては極端ということもあります。特に、「新しい社会的リスク」に関する子育て支援について、政治過程のなりゆきで専業主婦も含めて0-2歳児に無償の保育を提供することになるというのは非常に興味深いものです。日本より少子化が進んでいて、だからこそできる部分もあると思いますが、保育所の定員に満たない、というようなところも増えていて、韓国とおなじようにサービス対象を大きくする可能性もあります。また、介護サービスについても市場化の行き過ぎという感じの政策が導入されていたこともあるようです。日本では、関係者の反対を乗り越えるのが難しくて、ドラスティックな改革の実現はなかなか起きませんが、本書を読む限り韓国では上記の子育て支援や介護などについて割と思い切った決定をしていて、日本にとっても学びを得るべき先行事例になるように思います。