領域を超えない民主主義

宣伝ですが,新著,『領域を超えない民主主義-地方政治における競争と民意』を東京大学出版会から刊行させていただきました。東京大学出版会書籍紹介のページには詳細な目次が,そしてnoteでは冒頭の1章1節が掲載されています。

本書では,「なぜ日本では大規模に合併をやったりしてるのに,自治体間の連携はなかなか進まないんだろう」というような問いを考えていて,その理由を政治制度に求めようとしています。その話は基本的に1章で先行研究と日本の政治制度を中心に検討するかたちになっていて,ざっくりというと,いわゆる二元代表制,SNTV中心の選挙制度,集権分散的な財政システム…という辺りが地方自治体間の連携を困難にしているのではないか,そしてそのような政治制度が「民意」・正統性をめぐる競争を強く引き起こしてしまい,都市の活力を削いだり決定の安定性を損なったりしてしまうのではないか,といったことが論じられています。この辺は,日本語タイトルよりも英語タイトルFragmented Democracies: Competition and Legitimacy in Japanese Local Politics の方が感じが出ているようにも思います。

各章は,これまでにいろいろなところに書いてきたオリジナルな研究をまとめて整理し直したものです。必ずしも理論的に導いた仮説を各章で実証する,というわけではなく,設定したストーリーを,多面的に,なるべく立体的に検証しようと考えるものです。そういうスタイルで書いた研究書はこれで3冊目ということになり,地方政府の機関間関係,政党を通じた中央地方関係に続いて,今回は市をはじめとした地方政府間の関係についてまとめることになりました。それぞれの本では,元の論文をまとめる過程で,本を貫くコンセプトというものを意識していて,1冊目は「現状維持からの変化」,2冊目は「政党ラベル」が重要でしたが,今回は「分裂した意思決定」がそれになっています。考えてみると,1冊目はGeorge TsebelisのVeto Players,2冊目はJonathan RoddenのHamilton’s Paradoxに強い影響を受けたわけですが,今回はRichard FeiockのSelf-Organizaing Federalismや一連の論文,集合行為の裏側としての「分裂した意思決定」という感じですかね。自分でも一つくらいはそういうコンセプトを考えてみたいものです。

本書でとりあえずこれまでやってきた研究は一区切りかなあという感じがしています。不十分なところもたくさんありますが,『分裂と統合の日本政治』を書き終わったときのように次に何を書こうというアイディアや材料もない状態ですし。書くとしたらもう1冊,これまでの研究を基礎に中央地方関係を含めた福祉国家の話を考えたいと思うところですが,なかなか手掛かりもありません。最近は今更ながら行政学,公共サービスの分野についての関心が強くなっていて,ようやく2年にわたる管理業務も終わりが見えてきたので,しばらくはこの分野について勉強しながら少しずつ論文を書きたいなあ,と(福祉国家ともつながるかもしれないし)。まさに理論的には同じようなアプローチで,同志社大学の野田遊先生がPublic Administration Reviewから日本の自治体間連携(ごみ処理)をテーマに論文を出版されるという素晴らしいお仕事をされていて,それを見習いたいなあと思うところです。