政治はなぜ失敗するのか

宣伝ですが、監訳者として翻訳に関わったベン・アンセルさんの『政治はなぜ失敗するのか』(Ben Ansell, Why Politics Fails: The Five Traps of the Modern World & How to Escape Them, Penguin Books)が刊行されました。著者は比較政治・福祉国家研究のスターともいうべき人で、最近は住宅と政治に関する研究の新たなフロンティアを開拓している研究者だと思います。私自身、彼の著作や論文を読む機会も多く、これまでその研究から多くを学んできました。今回、初の一般向け著書ということで、楽しみにしつつもなかなか読む時間が取れないなあと思っていたところ、訳に当たられた飛鳥新社の工藤博海さんからお声がけをいただき、翻訳に参加することになりました。あとがきにも書いてますが、翻訳に携わる機会はないだろうと思っていた中で、関わるとしたらこの本くらいか、という本についてお声がけくださった工藤さんに感謝しています。

本書は、政治にかかわる5つのコンセプト、民主主義・平等・連帯・安全・繁栄と、それに関する「罠」、そしてその罠からいかに抜け出すことができるかを考える、というかたちで議論が展開されていきます。全体として、集合行為問題をどう扱うかを考えることになるわけですが、特に初めの2つについては、著者自身の貢献も含めてこれまでの政治学の蓄積をベースに説明しつつ、連帯・安全・繁栄と将来の話や国際関係のところは近年の研究動向を紹介しながら、より大胆な議論が展開されていると思います。個人的には、特に第3部の連帯のところが、その結節点のような感じで面白いと感じました。

注釈もあって、どういう研究に沿っているかはわかりやすく、知らないものなどは元の研究を確認しながら進めてましたが、素人翻訳者としては、たぶんネイティブスピーカー向けに「わかりやすく」説明しようとしているところが難しかったです…。メタファーがわからん、というのが一番多いわけですが、ざっくり書いているところの文脈がそれでいいのか、という確認にもちょっと苦労しました。「監訳者」というのが通常どの程度訳に関わるのかよくわかってないのですが、結果として、昨年の後半はかなりこの訳出に時間を当てることになりました。PDFで見ながら訳出しているときは、まあきれいに表現できたかなあと思っていたものも、紙の上で読むと印象が違って、ああもっと思い切って意訳した方が良かったかも…というところも少なくありませんが…。

オビなどの紹介文で、超有名人たちと並んで紹介書いているのはご愛嬌、ということで勘弁していただきたいところですが、さまざまな人が賞賛しているように、とても示唆深い、読む価値のある本だと思います。よろしければ連休のおともに。