最近のいただきもの

大阪大学でお世話になった竹中浩先生に,『模索するロシア帝国』を頂きました。どうもありがとうございます。本書では,19世紀末のロシア政治思想,具体的に言えば自由主義について検討されています。自由主義に基づいた「個人に自由な活動領域を保障することによって社会の活力を引き出すことのできる制度の構築」は,近代化の過程であらゆる社会として取り組むべき課題になる中で,それが単に「西欧化=西欧で導入されていた制度の採用」では十分ではなく,それぞれの国が実現可能な道を模索していくと考えられます。その中で帝政といういわば自由主義と両立しがたいような政治体制を敷いていたロシアの経験はどのようなものであったかについて,代表・宗教・国際関係といった問題に焦点を当てながら論じていくのが本書の取り組みになっています。

検討の中心は,ポーツマス条約で小村寿太郎と交渉したヴィッテですが,彼が自由主義に理解を示しつつも西欧化を追求したわけではなく,統治の制度がその国の条件に適したものであるべきという信念のもとで,西欧諸国とは異なる経路で大国としての地位を築こうとしたことが議論されます。それが望ましいことなのかどうかということを判断するのは難しいですが,このようなかたちで非西欧国家としてのロシアの経験を相対化することは,同じような非西欧国家として近代化を果たそうとする日本にとっても重要な視点なのではないかと思います。

非常に幅広い分野を検討されていて,僕みたいに日本の研究しかしてない人間にはなかなか咀嚼できないところですが,このように英語はもちろんロシア語で,しかも100年前の資料を駆使した研究が発表されるというのは素晴らしいことだと思います。英語がドミナントになる中でこのようなかたちの研究がこれから先も維持できるのかというと心許ないような気もしますが…。しかも竹中先生は長く法学研究科長を務められた後に,昨年大阪大学を退職されたのですが,管理職でお忙しい時期が続いた後でもこのような重い研究を発表されているわけで,様々な意味で刺激のある著作だと思います。 

模索するロシア帝国

模索するロシア帝国

 

 獨協大学の大谷基道先生からは,『東京事務所の政治学』を頂きました。どうもありがとうございます。資料が非常に限られた,いわば「マニアック」なテーマですが,ご経験に基づく聞き取りやアンケート調査などを駆使してまとめられた興味深い研究で,このテーマから中央地方関係についての含意を導き出そうとするものとなっています。

議論としては,情報とそれから人事の結節点として東京事務所が位置づけられています。行政学の教科書ではコントロールの手段として,権限・財源・人事・情報と出てくるわけですが,他と比べると情報については統計以外の話がなかなかしにくくて,個人的にも学生から質問が出て困ったこともあります…。しかし本書で議論されているように東京事務所が法律や補助金に関するものなど中央・地方における情報の結節点として,情報を整理・流通させる機能を持っているとすれば,一つの興味深いイメージになるかなと思います。もちろん,そこで東京事務所が自律性を持つのか,あるいは知事に従属するのか,など,その機能を統制しているのは実質的に誰なのか,という問題が次に出てきそうではありますが。

さらに東京事務所に関する話として,中央省庁における県人会の話も紹介されています。県人会というのがあるというのはよく聞くわけですが,これもやはり情報のコントロールという文脈で議論されるとなるほどな,と思うところはあります。都道府県の場合は地元出身や出向経験のある官僚が知事に立候補することは少なくないわけですから,そこで情報と知事という最も主要な人事を結び付けるかたちで機能させている可能性もあるかのもしれません。 

東京事務所の政治学: 都道府県からみた中央地方関係

東京事務所の政治学: 都道府県からみた中央地方関係