国会議員・知事,増税への合意

いつの間にか6月が終わろうとしていて,梅雨は明けてました。5月の末から6月にかけてはいつもよりたくさん仕事をした気がします。最近なんちゃってマネジメントの仕事が多くて,多少なりともそういう仕事をしてみると,行政学の教科書は参考になることが書いてあるなあと思ったりもします。そのおかげで,最近は就職してから一番行政学に興味を持って勉強してる気がします…。

近況はともかく,この間もいろいろご著書を頂いてました。他にもあるのですがその一部を。まず大阪大学の濱本真輔先生に,『日本の国会議員』を頂きました。ありそうなタイトルなんですが,実はこのテーマを直接扱っている新書は『国会議員の仕事』くらいで,他には大山礼子先生の『日本の国会』でしょうか。いずれも刊行からちょっと時間が経っている中で,本書は豊富なデータに基づいて特に政治改革後の国会議員について説得的な議論をされていて,長く読まれるものになるように思います。何を書くか,というのは難しかったと思いますが,ちょっと前であればこのテーマで政官関係についてもっとたくさん書いてあったと思われるところ,政党との関係や政治資金に紙幅が割かれているのはやはり改革の効果の一つなのかなと感じました。

本書で論じられている現状認識や,必要とされる制度改革などはいずれも深く同意するところです。拝読していて改めて難しい問題であると感じたのは,特に自民党議員がジェネラリスト志向を強めているということでした。小選挙区制なのでやむを得ないところだろうとは思うのですが,組織内での分業という観点から言えばなかなか難しいところだと思います。ジェネラリスト同士でかつ微妙に選好が違うと一体性を保持するのも大変というのもあるかもしれませんし。このあたりは,政治家の専門性と官僚の専門性というものをやや区別しながら考えていかなくてはいけないのかもしれないな,という感想を持ちました。

ちなみに,ツイッターでも宣伝していますが,濱本先生をお招きしたウェビナーを7月5日に実施します(登録はこちら/4日正午まで)。参議院選挙の直前ということになりますが,この前の衆院選の前に,特に英語圏の研究者のみなさんが日本の選挙についていろいろウェビナーをしているのを見て,選挙を機会に学術的な知見を共有することも重要じゃないかと思っていたところで,日本でもそういう企画があっても良いんじゃないか,というのが狙いでもありました。

濱本先生からは,編者として参加された『現代日本のエリートの平等観』もいただいておりました。ご恵与頂いた他の著者のみなさまにもお礼申し上げます。こちらは,1980年に行われた「エリートの平等観」調査から40年近くを経て,その衣鉢を継いで行われた調査に基づく研究成果です*1。エリートというと定義が難しそうですが,政治家・官僚だけでなく,経済団体・労働団体・市民団体・マスコミなど,全国組織・地方組織のリーダーに対して郵送調査を行ったものです。これまでにさまざまな団体調査をされている方々ならではの成果だと思いますが,調査は本当に大変だったのではないかと…。内容について見ると,やはり経済的(不)平等と,国籍・ジェンダーの(不)平等をどのように考えるかが問題になっているということだと思います。第5章(大倉紗江先生)の,エリートが女性の労働力化を支持しつつ,男女の実質的不平等を十分に認知していない,という点が印象に残りました。

奈良県立大学の米岡秀眞先生からは,『知事と政策変化』を頂きました。ありがとうございます。米岡先生はもともと県庁で働かれていて,大学院では財政学・経済学の研究をされてこられたのですが,本書では財政学・経済学だけではなく,政治学行政学の先行研究にも丹念に当たられながら,知事(の違い)が生み出す変化について検証されていきます。政治学だと知事の党派性に注目しがちなわけですが,本書の場合は党派性だけでなく,知事の出身という個人的な属性に注目しながら議論が進んでいきます。第6・7章とか,市町村データ集めるのほんとに大変そうですが,都道府県の中での市町村という枠組みでマルチレベル分析が行われているのも特徴です。

第1部の分析では,官僚出身の知事が比較的財政状況の悪い地域で選出されており,中央省庁からの出向者の助けを受けつつ財政規律を高め,有権者からも評価されるというストーリーを描いています。第2部では,都道府県・市町村の職員給与の抑制に注目し,官僚出身の知事や自民党系の市町村長など,中央政府からの影響を受けやすい長が職員給与の抑制を行っていることが示されます。第2部の議論では,従来行政学で注目されていた政策の水平的な波及だけでなく,国・都道府県から市町村への垂直的な影響力についても注目されるべきことが指摘されています。これはその通りだと思いますし,財政学・行政学の研究を幅広くご覧になっているからこそのご指摘だなあと思うところです。

東京大学の田中雅子先生から,『増税の合意形成』を頂きました。ありがとうございます。田中さんは,政策秘書として政治の世界を経験されてから大学院に入学され,僕も駒場でご一緒した時期があったのですが,ご苦労されながら博士論文を書かれて出版されたのは本当に素晴らしいことだと思います。

清水真人さんのものをはじめ,消費税に焦点を当てたルポや研究は多いですが,それらは事実の記述と解釈を中心にしているのに対して,本書はは最近の先行研究をきちんと踏まえたうえで理論的な貢献を図る意欲的なものだと思いました。増税を考えるときに,一元的な増やす-減らすだけの話だとデッドロックに乗り上げてしまうわけで,関係ないように見える者も含めて多次元的交渉を行うことで(国際関係論でも用いられるサイドペイメントを意識したものだとありました),不利益政策が選択できるのだ,というのは説得的な議論かと思います。不利益政策については,行政学で柳さんが研究されていた他,最近だと鎮目真人先生がより言説のほうに引き付けるかたちで研究されていましたが(あちらは社会保障),それに対して田中さんのは利益に引き付けて不利益政策の実現を分析したものだという理解もできるように思います。

*1:この意味では,私も参加しております『現代官僚制の解剖』も似たところがあります。