昨年,一部でちょっと好評を頂いた(ような気がする)ので,今年もやってみようかと思います。去年に続いて今年も,出版不況と言われつつも博士論文をもとにした著書というのは出版が続いています。主にそういった単著を,そしてあるいは初の単著というようなものを取り上げていきたいと思います
昨年分では,年の後半にかけて,なぜか計量的な手法を使った分析が増えているという話だったと思いますが,今年の頭もその傾向がなんとなく続いています。2月に出た村上祐介先生の『教育行政の政治学』(木鐸社),3月に出た李津娥先生の『政治広告の研究』(新曜社),それから拙著になりますが,4月の砂原庸介『地方政府の民主主義』(有斐閣)。いずれも計量的な手法で分析した研究となっています。ただ,実はこのあとその手の研究というのはあんまり多くなかったような気がします。例外を挙げるとすれば,経済学者の書かれたものになりますが,西川雅史先生の『財政調整制度下の地方財政』(勁草書房,9月)になるのかな,と。もうひとつ,博士論文をもとにしたものでも初の単著ということでもなく,キャリアを積まれた先生の著書ですが(なんと単著の研究書を3冊目!),原田久先生の『広範囲応答型の官僚制』(信山社)。これも出版は2月ということになりますが。
テーマとしては,村上先生が主に地方自治体における教育行政で,教育長や教育委員会といった制度,あるいはその選択に関わる分析,李先生のものは選挙キャンペーンにおいて「広告」として用いられる情報がどのようなもので,有権者にどのように受容されているかを分析するもの,拙著と西川先生のご著書はリンク先の通り。原田先生のご著書は,パブリックコメント手続きの分析で,様々な府省に渡る膨大なパブリックコメントのデータを使った実証分析をされています。
教育行政の政治学―教育委員会制度の改革と実態に関する実証的研究 (日本女子大学叢書)
- 作者: 村上祐介
- 出版社/メーカー: 木鐸社
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- 作者: 李津娥
- 出版社/メーカー: 新曜社
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地方政府の民主主義 -- 財政資源の制約と地方政府の政策選択
- 作者: 砂原庸介
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- 作者: 西川雅史
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広範囲応答型の官僚制 ―パブリックコメント手続の研究 (学術選書64)
- 作者: 原田久
- 出版社/メーカー: 信山社
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続く4月には,柴田晃芳先生の『冷戦後日本の防衛政策』(北海道大学出版会)が出ます。これは,歴史的制度論で特に1990年代以降の日本の安全保障政策を分析するというもので,いわゆる「日米同盟深化」がなぜ進められたのかを議論するものになっています。その説明として「政党政治仮説」「官僚政治仮説」「経路依存仮説」「漸進的累積的変化仮説」が検討され,官僚政治仮説の妥当性を評価しつつも,経路依存仮説とそれを補完する漸進的累積的変化仮説が高く評価され,政策決定に対する民主主義的統制を期待される政党政治が十分な影響力を発揮できていなかったことが論じられています。
- 作者: 鈴木多聞
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福祉国家の制度発展と地方政府 --国民健康保険の政治学 (関西学院大学研究叢書)
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- 作者: 柴田晃芳
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個人的に非常に興味深い,という点では,田中角栄が関わった土地・住宅問題,農業政策,日本列島改造論について論じられた下村先生のご著書も非常に興味深かったところ。「公益」と「私権」の調整の中で,田中角栄の政治が「政府の適切な誘導によって,民間の利益追求があたかも公益達成に直結するかのような幻想を振りま」くもので,それによって「高度成長に伴う諸問題を解決するためのプランを持った政治家としての評価獲得と,業界団体からの支持調達を両立させてきた」ものの,「市場の力を公共の目的に誘導するには,公共投資や補助金だけではなく,業界にとって不利益となるような規制・課税などを政府が行うことも必要となる」にもかかわらず,それがきちんと実行されなかった過程として描かれているのは,その後の遺産も含めて考えさせられるところだと思います(引用はいずれも204-5頁)。ディレッタント的ですが,上述の柴田先生とともに北大で学位を取られているところはちょっと注目かな,と。
制度改革の政治経済学―なぜ情報通信セクターと金融セクターは異なる道をたどったか?
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制度発展と政策アイディア: 満州国・戦時期日本・戦後日本にみる開発型国家システムの展開
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来年も既にいくつか博士論文をもとにした本の出版企画が進んでいると聞きます。来年も同じペースで若手の研究業績が発表されていくことを期待したいと思うところです(でもあんまり多いと読むのが大変なのですが…)
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日銀の政策形成 ―「議事録」等にみる、政策判断の動機と整合性
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