地方政府の民主主義
このたび,初めての単著を出版させていただくことになりました。『地方政府の民主主義』という大仰なタイトルで,中身がタイトルについていっているのかは,読者の皆様のご高評にお任せしたいと思いますが,タイトルを思いついたときには,自分では20代のときに考えてきたのはそういうことだったのかな,と思ったものでした。大学院生のときに,指導教員の先生方から,「修士論文はなるべく大きめに構想したほうがよい,どうせ問題意識がそこを越えることはなかなかないから」と言われておりましたが,たしかにその通りで,自分では修士論文以来引きずった問題意識について,一応の答えを用意することになったのではないかと考えています。
内容は,付けていただいたオビのとおりで,「首長と地方議会からなる二元代表制の下で地方政府の民主主義は,どのように機能しているか」ということで,「予算配分,公共事業の見直し,新規課税の導入などの検討を通し地方政府の中で繰り広げられる首長と地方議会の政治的競争を分析する」ものになっています*1。その特徴は,地方政府の政策選択について,これまで保革の対立のような党派的な対立により力点を置いた分析が行われてきたのに対して,首長と地方議会の二元代表の部門間対立に注目したものです。首長と地方議会が,常に潜在的な対立を抱え,選挙における支持を通じた両者の関係と以前からの決定の一貫性という制約を受けながら地方政府の政策選択を行っていくために,地方議会が基本的に「現状維持点」を志向する存在になる一方で,強い権限を持つ首長が交代することで,地方政府の政策に変化が生まれていく様子を分析しています。
このような分析は,規範的に地方議会はどうあるべきだ,という議論とは異なって,実証的に地方議会が制度から予測された機能を果たしているのだということを示すものになっています。終章で特に論じていますが,そのような実証分析をふまえた上で,「現状維持点」を志向する地方議会と,多くの場合は地方議会と同じような志向を持つ首長,そして地方政府レベルの政権交代によってある種突然に政策選択に影響を与える新しい首長が配置される日本の地方政府の民主主義の特徴と,中央地方関係の変化をふまえた上での今後の変化の可能性について議論を行おうとしたものになっています*2。
ご笑覧頂ければ幸いです。なお,宣伝するのもアレですが,上梓したのを宣伝しないのもナニですので,出版から一年ほどトップに掲載させていただきます。もし書評などを頂く機会があれば,随時更新していきたいと思ってます(する機会があればいいのですが…)。
地方政府の民主主義 -- 財政資源の制約と地方政府の政策選択
- 作者: 砂原庸介
- 出版社/メーカー: 有斐閣
- 発売日: 2011/04/18
- メディア: 単行本
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評者 | タイトル | 媒体/ウェブサイト |
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別所俊一郎先生 | 『地方政府の民主主義』 | だからちがうんだってば. |
山下ゆ さん | [読書][政治] 砂原庸介『地方政府の民主主義』 | 西東京日記 in はてな |
久米郁男先生 | 書評:『地方政府の民主主義』 | 『書斎の窓』2011年9月号 |
菅原琢先生 | 「2011年私の3冊」 | 『公明』2012年1月号 |
野田遊先生 | 「書評『地方政府の民主主義』」 | 年報行政研究47号 |
追記:最近の研究
著書を出版したこともあり,改めて自己紹介がてら最近の研究をまとめておきます。
この著書のもとになった博士論文を出してからは,地方分権改革推進委員会の観察を続けていたこともあって,当初医療を中心とした社会保障分野で,中央地方関係についての政治学・行政学的な分析をしていこう,と考えていたのですが,実際はそちらの方は細々と続けている程度で,基本的には政党の中央地方関係や,国政と地方政治の関係についての分析がメインになっています。国政において緩やかに二大政党化が進む中で,地方政治では『地方政府の民主主義』で分析したような,首長と地方議会の部門間対立が存在するときに,国−地方を通じた政党システムがどのようなものになるのか,また,その政策的な帰結はどのように考えられるのか,というところに問題意識を持って研究を進めています。このような問題意識のもと,これまでに発表した主な研究は,以下のとおりです。
- 作者: 御厨貴
- 出版社/メーカー: 勁草書房
- 発売日: 2009/12/22
- メディア: 単行本
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- 「制度変化と地方政治−地方政治再編成の説明に向けて」『選挙研究』26巻1号,2010年,pp.115-127.
- 作者: 日本選挙学会
- 出版社/メーカー: 木鐸社
- 発売日: 2010/08
- メディア: 単行本
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- 「地方における政党政治と二元代表制−地方政治レベルの自民党「分裂」の分析から」『レヴァイアサン』47号,2010年,pp.89-107.
レヴァイアサン 47号(2010 秋) 特集:選挙サイクルと政権交代
- 作者: 増山幹高,大西裕
- 出版社/メーカー: 木鐸社
- 発売日: 2010/11
- メディア: 単行本
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- 「地方政党の台頭と選挙政治」(Ken Victor Leonard Hijino慶応義塾大学SDM研究科准教授と共著),日本選挙学会,関西学院大学,2011年5月16日
- 「政党システムの分析における地方と新党」『選挙研究』27巻1号,2011年,pp.43-56.
- 作者: 日本選挙学会
- 出版社/メーカー: 日本選挙学会
- 発売日: 2011/07
- メディア: 単行本
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- 「地方への道−国会議員と地方首長の選挙政治」『年報政治学2011-? 政権交代期の「選挙区政治」』,2011年,pp.98-121.
- 作者: 日本政治学会
- 出版社/メーカー: 木鐸社
- 発売日: 2012/01
- メディア: 単行本
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- 作者: 御厨貴
- 出版社/メーカー: 勁草書房
- 発売日: 2012/03/09
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また,以下については特にこれまでに研究成果として発表したものではありませんが,まず研究の問題意識を具体的な地方政府の事例に即して考える試みとして(後付けくさいですが(^^;),特に最近の大阪の地方政治を中心に,名古屋の地方政治を補助線としながら,このブログにまとめています。
理屈を考えている部分としては,
- [研究][地方政治]政党における中央地方関係(2009年3月10日)
- [研究][地方政治][本]地方政治と歴史(2009年6月18日)
- [研究][本]政党の全国化(2009年7月19日)
- [研究][地方政治]市長の政党(2010年5月7日)
といったあたりで,大阪に関連する内容は,タグ[大阪]の中にまとめています。
それから,現行の地方選挙制度についての疑問から,たまに選挙制度のあり方についてブログでコメントをしていることがあります。これまでのエントリは,以下のとおりです。