自民党−「一強」の実像
一橋大学の中北浩爾先生(と中公新書編集部)から『自民党』を送っていただきました。どうもありがとうございます。ストレートなタイトルからも非常に意欲が伝わってきますが,選挙制度改革以降の自民党について,最近の研究成果を踏まえて書かれている,新たなスタンダードになりうる本だと思います。個人的にもいろいろと新しい知識が広がったと思いますが,特に政策過程を扱った第3章と地方組織を扱った第6章が勉強になりました。
自民党というと,中北先生の前著である『自民党政治の変容』も含めて,中選挙区時代の組織構造について説明されることが多かったと思います。しかし本書では,以前の派閥,後援会,族議員・政調会を中心とするような自民党の組織構造が,執行部への集権を軸にどのように変化したかを描き出しています。重要なのは,変化の過程にあることを論じているのではなくて,ある程度固まったかたちとして現在の(「一強」の)自民党の組織構造を議論しているところだと思います。とりわけ興味深いと思ったのは,第3章で,自民党の政策がボトムアップ+コンセンサスを重視して決定されていた手続きを換骨奪胎して,トップダウンで決められた政策に党議拘束をかけるようなところが見られるという指摘でした。また地方組織についてまとめられた第6章では,国会議員よりも地方議員の方が有権者との強い関係を築きやすくなっていること,そして地域によっては県連単位での統合が強まり,執行部と対立しうることが議論されています。これは私が重ねてきた研究でも同じような知見を得ることができていて,近く単著を出版する予定ですが,意を強くすることができました。
その他に議論されているのは,以前は利益配分にも積極的に関与してきた派閥が国会議員の人的ネットワークの場になっていること(1章),総理を中心とした人事権者の人事権が実質化していること(2章),自民党が公明党とどのように選挙協力を行っているか(4章),自民党国会議員が強い地盤を持つものと「風任せ」の二つに分かれていること(4章),経団連など友好団体との選挙や資金面での関係(5章)です。いずれも,最近の実証研究に依拠しながらも,これまでの自民党研究とはやや異なるパッケージでまとめて提示されていると思います。2000年代から2010年代にかけて,これが「安定」していた時期というべきなのかわかりませんが,自民党としてこの時期に進めた制度化を理解するために必読の著作になるのではないでしょうか。
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まず,慶応SFCの松浦淳介先生から,『分裂議会の政治学』を頂きました。ありがとうございます。松浦さんが長く取り組んでこられた「ねじれ」についてまとめられた博士論文を基にしたものですね。自民党「一強」という中で「ねじれ」の問題はやや後景に退いている感じはありますが,また同じように起こりうる制度配置ですから,きちんと考えておくべき問題だと思います。
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