最近のいただきもの
なかなかご紹介できてなかったのですが、いろいろとご著書を頂いておりました。
ちょっと前になりますが、坂井豊貴先生からは『暗号通貨 vs. 国家』を頂いておりました。個人的にも暗号通貨に興味を持っていたところがあり非常に興味深く読みました。ごく最近(中央公論10月号)も坂井先生のインタビューでそういう感じが出てましたが、暗号通貨を単に資産としてとらえるのではなくて、人と人を結びつけるツール、ある種の世界観の表現、としてとらえるのが坂井先生の分析の特徴でありかつ魅力ではないかと思います。「儲かりますよ」といわれるよりむしろこういうアプローチのほうが魅力的、という気分がして、僕もちょっと触ってみようかなあと思わせるところがありました(まだですが…)。
中北浩爾先生には『自公政権とは何か』を頂いておりました。ありがとうございます。『自民党政治の変容』(NHKブックス)『自民党』(中公新書)に続く三部作という位置づけで、この20年続く自公政権についての詳細な分析が行われています。連立政権についての理論を紹介しながら、自公政権形成と発展の歴史、政策調整のやり方、選挙協力について論じていくという感じで、新書ではありながらかなり詳細に論じられています(そして厚い!)。やはり連立政権でもあった民主党政権がなぜ失敗したのか、ということを自公政権との対比というかたちで描いていて、連合が求められている現在の野党が自公政権からどのようなことを学ぶべきか、という議論も実践的な問題関心に対する答えといえるでしょう。
個人的には、地方レベルでの選挙協力はもう少し掘り下げることができるようにも思います。もちろん、選挙制度を考えると自公が競争相手になるというのは間違いないのですが、他方で公明党は常に地方レベルで「与党」であろうとして行動する傾向もあり、単に競争相手になっているだけではない、中選挙区的な「棲み分け」をしていることも考えられます(それが維新とはなかなか難しいわけですが)。そのような研究を展開していくにあたってのヒントも多く含まれている本であるように思います。
岡本全勝先生から『管理職のオキテ』を頂いておりました。ありがとうございます。主に公務員での管理職を念頭に置いて書かれているもので、基本的に個人営業の私などにはあんまり関係ないような気もしていたのですが、最近大学院生と共著する機会が増えてきて、実は「管理職的な」仕事もあるんだなあという気がしていたところです。いやもちろん 直接当てはまるのかわかりませんが、ちょこちょこと参考にさせていただいております…。
土倉莞爾先生からは『ポピュリズムの現代』を頂いておりました。ありがとうございます。フランスにおけるポピュリズムに注目して書かれた論文を中心に、イギリスのブレグジット、日本の大阪都構想についてもポピュリズムという関心から書かれた論文をまとめられたものになっています。政治文化に注目して、選挙や政策の帰結を解釈していくというような方法で説明が行われています。しばしばなされていますが、ポピュリズムという概念を使うことで、有権者の行動が間違っているとか愚かであるとかそういう暗黙の決めつけをしてしまっていないか、という批判があります。本書では、そんな批判を受け止めながら、それでもポピュリズムという広い意味での文化的な概念を使って分析すべきだ、という意思のようなものを感じるところもありました。もちろん、簡単ではないですし、最終的には読み手の判断、ということになるのでしょうが。
金井利之先生からは、『自治体議会の取扱説明書』を頂きました。ありがとうございます。多くは『議員ナビ』という媒体に執筆されていたものを再構成してまとめられたものということです。地方議会・議員に対してなかなか厳しい見方が展開されていますが、それは住民が自分たちの代表を「使いこなす」ために何を考えないといけないか、という観点から議論がされているということだと思います。私などはどうしても制度に注目していろいろ考えがちですが、本書の第三部での「人間としての議員」に注目して議論を展開されているのを興味深く読みました。最後に書かれているように、金井先生の観察に基づく規範論、ということだと思うのですが、この規範がどのくらい妥当するのかについて、他の規範的な立場からの議論や実証的な議論が出てきてやり取りが生まれると面白いようにも思います。
吉富有治さんからは『緊急検証 大阪市がなくなる』を頂きました。ありがとうございます。吉富さんは,大阪維新の会の結成よりずっと前,大阪市の職員厚遇問題などが発覚するころからずっと大阪の状況について取材されてきたジャーナリストです。4月に行われた統一地方選挙――大阪クロス選挙――についてのエッセイを中心に対談を交えたかたちのものを出版されています。維新に対して批判的なスタンスではありますが,何でもかんでも悪いという感じではなく,なぜ強くなっているのかをきちんと探ろう,どうやったら対抗勢力ができるんだろうか,というようなスタンスで書かれているように思います。
松宮貴之先生から『書と思想』を頂きました。ありがとうございます。この本では,同じ時期の日本と中国における「書」を並べつつ,そこから背景にある共通の思想や発想法について探っていく,という非常にユニークな方法が取られています。初めの方はもちろん中国中心で,人物としては張芝にはじまり三国志にも出てくる鍾繇とか,言わずと知れた王義之(以上が「三賢」)という感じで始まるのですが,次の章では欧陽詢,そして同時代人の聖徳太子や光明皇后の書,そして顔真卿の次に最澄・空海が並べられていく…というかたちで議論が展開していきます。中華文明が基軸となりながら,当時の共通言語である「書」を扱う,聖徳太子以降のいわばマルチリンガルの日本史上の人物を配置することで,東アジアの文化政治のようなものを描き出す試み,と言えるのかもしれません。率直に言って,私自身はそのような試みについてアカデミックに評価するようなことはできませんが,著名な歴史上の人物を通常の歴史書とは異なるかたちで配置し,日本史・中国史とはおそらく異なる東アジア文化史のようなものを示す本書は個人的にとても面白かったです。