分極化するアメリカとその起源

津田塾大学の西川賢先生から頂きました。ありがとうございます。『ニューディール期民主党の変容』に続く二冊目の研究書で，民主党を扱った前著のちょっとあとの時期にあたる共和党を扱われた本です。二冊目のハードカバーの研究書を上梓されるというのは本当にすごいことですね。博論を出版するというのは最近では非常に増えている話ではあると思いますが，博論と同じようなテンションで二冊目を書くというのは大変で，それができた方というのは本当に数えるほどではないかと。僕自身，新書や一般書ではなく研究書を，と考えていますし，ボチボチ進めてはいるのですが，数年前に一回ある研究会で「博論のコロキアムと同じような感じで報告します」と言ったら本当にいろんなコメントを頂いて，もちろんありがたかったのですがこれはツライｗと思った記憶があります。
方法論についても造詣の深い西川先生らしく，質的研究として歴史を政治学的に分析するということを強く意識されているように思います。クリアな理論と丁寧な実証，そして何より読ませる記述で，専門外の人間にとって知らない名前ばかり出てくるにも関わらず，かなり読みやすく感じました。内容は，大統領と政党の関係を扱ったものであり，具体的には「与党の大統領化」とその影響について議論されたものです。「与党の大統領化」というのは，要するに大統領が与党の選挙や立法行動に介入するとともに，政党の側も大統領のイニシアティブに依存せざるを得なくなるというものです。本書では，長く政権を離れた政党ほど，大統領として人気が出る人を連れてこようとして，その大統領が「与党の大統領化」を進めるものの，それが失敗すると政党の分極化が進む，という理論を提示したうえで，アイゼンハワーとその後の共和党を対象に実証的な分析を行ったものです。
とりわけ興味深かったのは，2章で説明されていたアイゼンハワーによる与党化のプロセス，共和党全国委員会の南進政策を中心とする党組織の改革のところと，ゴールドウォーターという個人の政治理念や周囲との関係性のところです。前者については，僕自身が政党組織研究に関心を持っていることがあり，政党を組織化するときに注目すべきポイントや，その記述の仕方も含めて非常に参考になりました。また後者については，（やや危なっかしい言い方かもしれませんが）個人的にはゴールドウォーターの思想に惹きつけられる人が少なくないのは分かる気がします。もちろんそれだけで良いとは思わないのですが，出発点としてそういうところにこだわる政治家が受けることはあるだろうな，と感じました。
展開されている議論の中で，少し気になったのは，「与党の大統領化」の条件です。理論のところでは「ある政党が長期間政権を離れた危機感から」とありますが，長期間離れるという条件は必要なのだろうか，と思うところがありました。確かに長期間離れた政党であれば，政党から自律性の高い大統領を連れてきそうなものですが，仮に政党の中から出てくるとしても特に再選を狙う大統領であれば「与党の大統領化」を進めるようとするインセンティブはあるんじゃないかなあと。また，それが失敗するというのも，任期制限ありの大統領制の場合はわりと必然的なところがあるのではないかと思います。浅羽先生が韓国についての新書で議論されていましたが，任期が決まっていると，候補者が現職との違いを意識せざるをえないわけでそもそも分裂の可能性が高く，反動として分極化していくことは納得できます。むしろ，反対に「与党の大統領化」が複数の大統領を超えて成立するとしたらなぜなんだろうか，と思うところがありました。
非常に面白く読んだので，いろいろと考えさせられるところがあったのですが，もし上記のような理解が正しいとすれば，本書で議論されている「起源」とは別に，現状の激しい分極化の原因のひとつとして，中途半端に（？）長い政権と頻繁な政権交代，ということがあるのかも，と思いました。全くの素人考えですが，フォード以降，レーガン・父ブッシュを除いて2人の大統領が同じ政党から連続して出てくることはないわけで，毎回大統領が「与党の大統領化」をしようとして挙句分極化，ということが繰り返されていることが，分極化を強化しているのかも…などと思ったり。2000年の大統領選挙でゴアが勝ってたり，次回の大統領選挙で民主党の候補が勝ったりすると…と想像が膨らむところではあります。たぶん，本書の仮説が非常にクリアだからこそ，いろいろな想像を可能にするということなんだろうと思います。もちろんそれは著者に取ってはしんどいのだと思いますが（→すみません），個人的にはきっとそういう研究が良い研究なんではないかな，と思うところです。