自民党政治の源流と現在

しばらく書いていないうちにいろいろといただいておりました。とりあえず関係ありそうなものをまとめてご紹介ということで。
ちょっと前になりますが,青山学院大学の小宮京先生に『自民党政治の源流−事前審査制の史的検証』を頂いておりました。どうもありがとうございました。政治史の研究者のみなさんが集まって書かれた本ですが,本人代理人論の機能主義的な先行研究をきちんと承けたうえで,「政治史研究のみならず,現代日本政治研究にも一石を投じる」というところが非常に意欲的な本だと思います。事前審査制という制度が,政党を軽視する内閣の姿勢や政府与党の分裂回避の思惑,政党政治の在り方をめぐる規範意識など,時代に特有の要因が引き金となって作られたものであり,機能主義的な要因―議会で多数派主導の運営をするために必要というもの―は,制度が維持存続する要因であったのではないか,ということです。これは,合理的選択制度論では制度の発生や変化を説明しにくい,という議論の流れを背景として,それを具体的・歴史的に示したといえるのかもしれません。
それぞれの章では,事前審査の中心である政調会によるもの(5章)だけでなく,戦前の事前審査や総務会,常任委員会,そして今までの研究ではあまり議論されてこなかったと思われる外交について触れられていて,それぞれの機関と事前審査の関係が詳細に議論されています。制度がどう形成されていくのか,という観点から非常に面白いものというだけでなく,例えば第7章では,外交政策決定のアプローチを概観したうえで,事前審査という制度を踏まえて政党がどのように関与するかを議論するようなことも行われています。
他方,まあ機能主義と言われがちな立場から読んでいて,ちょっと気になったのは肝心の「機能」としてはどうだったんだろう,ということでした。つまり,事前審査をするということは,本書で議論されているように,様々な利害関係者を事前に調整するというだけではなく,おそらく多数党である自民党の議員がきちんと政党のいうとおり事前審査を通過したものを賛成する−要するに政党規律が作られていく−ということがくっついてくるような気がするのですが,そのあたりの分析はあまり出てこなかったかなと。事前審査をしても造反する議員が出つつ政党規律を作り出していった,みたいな話だと,まさに政党規律の「制度化」ということになるのかなと思いますが,もともと政党規律がしっかりしているところで事前審査を問うということは,その調整機能をより重視するということなのかな,と思ったり。そういう意味では党議拘束の起源というのも知りたいところ。

自民党政治の源流―事前審査制の史的検証

自民党政治の源流―事前審査制の史的検証

日本経済新聞社の清水真人さんから『財務省と政治』を頂いておりました。ありがとうございます。いわゆる55年体制においては,自民党内の事前審査とともに行政官僚の側で調整を進める財務省が中核となる「共犯関係」が築かれてきたわけですが,1990年代の統治機構改革以降にその「共犯関係」が変容しつつ,出現してきた「改革派」が財務省を最強官庁として見立てて政治過程を進める中で,従来とは違うかたちでありながらも財務省が政治と関わるようになっていく様相を描いています。清水さんの本は,『官邸主導』以来の熱心な読者で,書評を書かせてもらったりもしていますが*1,これまでの著作と同様に,関係者への広範な取材はもちろん,それを整理する分析の視点は本当に勉強になります。
本書で知ったことはたくさんありますが,特に印象的だったのは,「財務省案」を出す変身(134ページ)というところでしょうか。日程調整/ロジをベースとした落としどころを探るような調整から,アジェンダ設定を行うような調整への変化があるという指摘は非常に重要だと思います。財務省霞ヶ関の「人材派遣業」になっているという見立ては最近よく聞きますが,その背景 にはこのような変化があるのかもしれないな,と思いました。また,その延長のようなところを考えると,経産省官僚・内閣府との関係はどうなるのかな,という感想を持ちます。経産省官僚というのは伝統的に,「アジェンダ設定」を個人としてやっていたところがある一方で,それはともすれば個人の「思いつき」を出ないように見えるところもあり,それが組織で動く財務省との違いなのかなあと感じますが、その人たちが内閣府内閣官房に入りながら対抗的に「アジェンダ設定」を進めることがあるとすると,政治過程がやや複雑になっていくように予想できます。省庁間の政策的な違いみたいなものがはっきりしたりするとそれはそれで興味深いですが,他方で官邸への集権,ということもあるわけで,まさに政治指導の再制度化が行われている局面だというような感じがします。東京大学の内山融先生からは『「戦後保守」は終わったのか 自民党政治の危機』を頂きました。ありがとうございます。タイトルは「戦後保守」ですが,書籍としては「中道保守」が議論されていて,大平首相を中心とした宏池会系統(の重要性)を強調したような分析になっていると思いました*2。通底する議論として,いわゆる政界再編の過程で,自民党の「中道保守」が民主党のほうに移動する傾向にあり,現在のところでは民主党のほうが「中道保守」になるような再編の可能性があるのではないか,という感じがありましたが,ひとつの政党のみで「中道」に求心力を持たせるのはなかなか難しいことという感じもします。あくまでも複数の政党が連立や政権交代をしていく中で「中道」が見えてくるものではないかなあ,と。また,中道というのが政策内容の問題なのか,手法の問題なのかということでも引き続き検討の余地があるところだと思いますが,最近の政治を巡る議論でも「イデオロギー」が復権しているような感じもあって,そういう状況で「中道」も議論されているのかもしれません。
「戦後保守」は終わったのか 自民党政治の危機 (角川新書)

「戦後保守」は終わったのか 自民党政治の危機 (角川新書)

関係する書籍として,もうひとつ,取材を受けた関係で朝日新聞大阪社会部の『ルポ橋下徹』を頂きました。ありがとうございます。こういう感じの書籍では,新聞記事をまとめたというものが少なくないですが,本書では記事でなかなか見ることのない,追加的な取材がたくさん含まれていて,非常に内容の濃いものであっようにかと思います。特に,第4章(公明党)・第5章(市労連と地域振興会)では,知らなかったことも少なからず含まれていて勉強になりました。 公明党の地方組織や自治体労働組合と選挙との関係についての研究は,政治学者も十分に行っているものではなく,貴重な文献になろうかと思います。今回紹介した書籍とも関係しますが,特に興味深いと思ったのは,このような地方の組織の変化も,自民党長期政権の変化と歩みをあわせているように考えられるところです。小選挙区制の導入によって,中央のほうは集権化が図られているのに対して,反対に地方のほうでは集権的=「一枚岩」であり続けるのが難しくなっているような(なんとなく理論的にも考えられそう)。また,第6章で紹介されていたの藤本交通局長の話も,報道で受けていた印象とは少し違う感じで興味深いところでした。ただ,なんで記事とこういうかたちの書籍で違いが出るのかな,というのはやや不思議なところではありますが。
ルポ・橋下徹 (朝日新書)

ルポ・橋下徹 (朝日新書)

しかしもう年末…本当に早いなあ。

*1:なお,書評を書かせていただいた『消費税』は増補で文庫版が出たそうです。

消費税 政と官との「十年戦争」 (新潮文庫)

消費税 政と官との「十年戦争」 (新潮文庫)

*2:その点,「中道保守」が女性などをきちんと取り込めていないことを指摘している杉之原先生の章は非常に重要だと思います。