『平成デモクラシー史』ほか
ちょっと東京に戻ったときに,日本経済新聞社の清水真人さんから『平成デモクラシー史』を頂いておりました。ありがとうございます。あとがきに書かれている問題意識にもありましたが,特に民主党政権までのあたりについては,大きな枠組みをもとにこれまでのお仕事を再構成されていたようなところもあると思います。その中でも,個人的には民主党政権がどういう意思決定プロセスを取るべきだったかという議論が面白かったです。本書の中では「ドイツ式」というような方法の可能性が議論されていましたが,議員(と国会)の自律性を極端に高めるわけでもなく,さりとてイギリスのように政党規律で押し通すのではないようなやり方を考える必要があるのだと思います。このあたりは,清水唯一朗さんが博論をもとにした本で論じられていた戦前の話とも連続するところなのだと思いますが,制度化を考えるとなかなか簡単な話ではないんだろうなあという感想を持ったところです。
最後の安倍政権のところも,知らない事実が多く非常に興味深かったです。安倍内閣ではやはり内閣の凝集性が高くなっていると思われますが,これは政党規律の向上を背景に総理大臣から大臣への委任(と大臣から官僚への委任)がうまくコントロールされているのか,あるいは大臣への委任よりも総理が直接官僚をコントロールする形が強まっているのか(内閣組織の拡大?)というようなことを考えるところです。制度改革によって政党規律が高まっていることだけではなく,内閣/総理のキャパシティ・ビルディングが進んでいるということもあるんだと思います。両者がそもそも峻別できるのかはよくわからないところもありますが。
久しぶりに民主党政権期の話を読み,そこから安倍政権の話を読むと,政党陣笠議員のフォロワーシップが重要というのはもちろんですが,そもそもリーダーをどう選ぶか,リーダーをどうコントロールするかというのが極めて重要な問題なのだなあと思いました。日本だと何となく衆目の一致するリーダーみたいなのが作られていくような気がしますが,民主党トロイカに典型的なように,そういう人たちの変に自律的な行動が組織を毀損するということはしばしば起こっているような気がします。それもある意味(党内の)選挙制度の話なのかもしれませんが,小泉氏はともかく,今回の安倍氏は政権が続く中で自民党議員たちが自分たちで(やむを得ずでも)選んでるリーダーであるということを再確認しているような印象があって,それが民主党系の野党とは大きく違うような気がしました。
この間溜まっておりましたが,大学にいくつか書籍を送っていただいておりました。まず東京大学の鹿毛利枝子先生からWho Judges?を頂いておりました。日本の陪審員制度の導入を中心に司法制度の比較分析をされている本です。鹿毛先生は一冊目に続きケンブリッジ大学出版から ご著書を出版されるということで,これは本当にすごい!司法政治は個人的にもいつかやってみたいと思うテーマなので,日本に戻ったらぜひ勉強させていただきたいと思います。
Who Judges?: Designing Jury Systems in Japan, East Asia, and Europe
- 作者: Rieko Kage
- 出版社/メーカー: Cambridge University Press
- 発売日: 2017/09/26
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首都大学の松井望先生からは,『自治体政策法務の理論と課題別実践』を頂いておりました。行政法学の鈴木庸夫先生の古稀記念論文集ということで,行政法系の方が執筆されているようです。取り上げられているテーマはかなり多岐にわたっていますが,松井先生は受動喫煙防止規制というホットなテーマで書かれているようです。
中央大学の横山彰先生からは,『日本の財政を考える』を頂いておりました。ありがとうございます。財政再建・社会保障・税制・地方財政の4部構成になっているテキストです。行政学の授業ではやりたいもののなかなか扱いにくい財政の各論について書かれているようで,たとえば行政学の副読本みたいな感じでもいいのかもしれません。
名古屋大学の川島佑介先生からは,『都市再開発から世界都市建設へ』を頂きました。ありがとうございます。博士論文を書籍にされたもので,ロンドン・ドックランズの再開発を論じられています。川島さんは都市政治や防災の分野でも興味深い仕事をされていてそちらはよく読んでいたのですが,博士論文の方は未読でしたので楽しみに読ませて頂こうと思います。
同志社大学の山谷清秀先生からは『公共部門のガバナンスとオンブズマン』を頂きました。ありがとうございます。オンブズマンを通じた救済制度についてまとまった研究ってなかなか思いつかないので,重要な貢献だと思います。これは以前に頂いた橋本圭多さんのご著書と同じシリーズということでしょうか。だとすると大学の支援もあるのかなあと思いますが,博論を出して,それを書籍化するというのをシステマティックにやられるとしたら結構すごいことですね。
公共部門のガバナンスとオンブズマン―行政とマネジメント― (ガバナンスと評価2)
- 作者: 山谷清秀
- 出版社/メーカー: 晃洋書房
- 発売日: 2017/12/14
- メディア: 単行本
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山田真裕先生と前田幸男先生からは,『「日本人」は変化しているのか』を頂きました。ありがとうございます。3つの大規模な国際比較調査データを用いて,日本人の価値観などを中心に分析が行われているようです。「価値観」というのはしばしば思い込みや固定観念で議論されてしまいやすいところですが,データに基づいた信頼できる研究が発表されるのは素晴らしいことだと思います。
「日本人」は変化しているのか: 価値観・ソーシャルネットワーク・民主主義
- 作者: 池田謙一
- 出版社/メーカー: 勁草書房
- 発売日: 2018/01/23
- メディア: 単行本
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