いただきもの:共同研究の成果

6月はとても嬉しいことやとても悲しいことが続いたり、いきなり怪我したりと、何か個人的にはジェットコースターに乗ってるような感じで落ち着かないのですが、もう2023年の上半期も終わりと思うとしんどいですね。何に追い立てられているのかわからないままに時間ばっかり過ぎていくというか。読もうと思う本もなかなか読めず、しかしなぜか書評は生産されていくと(いやまあそれ自体は勉強になるしいいんですが)。

昨年度からいくつか共同研究の成果を頂いています。ちゃんと読んで紹介しようと思いつつどうしてものびのびになってしまうわけですが。まず、同僚の興津先生と津田塾大学の網谷先生から『平成司法改革の研究』を頂きました。ありがとうございます。政治学者が司法改革というと、まずは違憲審査の話とか、最高裁判事の任命、あるいは裁判員裁判の導入とかそういうことに興味を持ちがちなわけで、実際網谷先生は違憲審査や判事任命の話を書かれています。他方、本書で力点が置かれているのは、訴訟制度(興津先生が扱う行政訴訟とか)であったり、さらには法曹一元化したことによる弁護士の変化だったりするわけです。いずれにしても、全体として「こうなるはずだと予想して、実施された改革が、現実には成果を上げないか、または予想に反した結果に帰着することが少なくなかった」(52頁)という評価に端的に示されているように、成果については否定的なものが多くなっています。というか、今から見ても何に焦点が置かれているのかがやや曖昧なところがまさに、本書の副題である「理論なき改革はいかに挫折したか」というものに示されている感じで、結局誰が何をやりたいのかよくわからないままに進んだ、という否定的な評価につながっているという感じでしょうか。

日本大学の岩崎正洋先生から、『命か経済か』を頂きました。ありがとうございます。前半では、政府によるコロナ対応の国際比較(ドイツ・イギリス・ブラジル・トルコ)や国境を超える問題(往来や貿易)についての議論があって、後半では政府によるパンデミック対応に対する日本社会の反応について、サーベイなども用いながら分析するものになっています。日本大学のプロジェクトとして行われた共同研究の成果で、複数国を対象にしているだけではなく、政治学以外の専門家を含めることで、多角的な分析をしようとする試みは興味深いものです。実は私自身もコロナ関係で日英・複数分野の専門家での共同研究をしているところがありますから、ぜひ参考にさせていただきたいところです。

著者のみなさまから『自民党政権の内政と外交』を頂きました。ありがとうございます。こちらは北岡伸一先生の指導を受けた方々が、古稀記念ということで集まって作った論文集ということです。北岡先生の広い関心とも対応して、吉田・鳩山・岸・池田といったあたりの時期において、首相の政治指導、地域開発、日米同盟、国連、といったテーマで実証的な歴史分析が行われています。個々の論文が独立していて非常に勉強になるものですが,それに加えて最後に五百籏頭先生が書かれているように、この時代のさまざまな政治的な営みを、それまでの日本政治で続いてきた対立の悪循環を制御して、共通の広場を拡げようとする模索と捉えて読んでみる、というのは面白いだろうな、と思うところです。

著者のみなさまから、『ポピュリズムナショナリズムと現代政治』を頂きました。どうもありがとうございます。こちらは龍谷大学社会科学研究所の共同研究の成果ということです。ヨーロッパの国々に加えて、日本・韓国が分析の対象になっていて、前半では各国・地域でのナショナリズムの特徴や右翼ポピュリズムについて分析され、後半ではナショナリズムと結びつく排外主義に対抗する、どちらかと言えば左派側の分析になっています。どこでも右派が同じようにナショナリズムと結びついて支持の拡大を図る一方で、左派の方はやり方はそれぞれ、しかしどこでもなかなか難しいというような状況になっている感じはします。共通する左右軸、というのを構想しにくくなっているということでもあるかもしれませんが。

こちらも著者のみなさまから『「2030年日本」のストーリー』を頂きました。ありがとうございます。こちらは、サントリー文化財団の調査研究事業である「2020年代の日本と世界」研究会の成果ということです。実は私もこちらの研究会にお招きいただいてお話したことがあるのですが、分野横断的に研究者を集めて談論風発するという刺激的な感じの研究会でありました。本書では、3部構成で、それぞれ対になるようなかたちで構想が論じられています。お互いに関するコメントや感想が加えられるなど、編集・校正にも工夫がされていているのも特徴でしょう。普段、研究者としてはあまり未来について論じるという機会はなかなかないわけですが、それを著者の皆さんがどういう風に書いているか、というのもひとつの読みどころかと。