何の因果かほんのちょっとだけ政治参加について文章を書かなくてはいけなかったのですが,たまたま最近頂いていた本がすごく勉強になりました。東京大学の境家史郎先生から頂いておりました『政治参加論』は,現在熊本県知事をされている蒲島先生が1980年代に書かれた名著『政治参加』の改訂版ということですが,近年の研究とデータを踏まえた全く新しいものになっています。前半では政治参加の理論についてのレビューが行われ,後半では最近までのデータを使って日本を対象とした実証分析が行われています。
境家先生は,『憲法と世論』でもそうですが,長期にわたって蓄積されてきたデータを使って非常に説得的な解釈を提示していかれているように思います。第二次世界大戦後,いわゆる55年体制のもとでは「政治参加の社会的平等」が強い,つまり他の国では政治参加から疎外されがちな低所得・低学歴層が大量に動員されながら投票参加をするという特徴があった日本の政治参加が*1,ポスト55年体制の時代には他の国と同じように高所得・高学歴層が参加する傾向が強く,その選好が政治システムに入力されがちとなっていることが示されます。それによって社会的不平等が広がり,さらに低所得・低学歴層が阻害されていく…という悪循環は極めて重要な課題です。
自分の関心があったのが投票外参加で,本書では「抗議活動」とされているようなところだったのですが,欧米の先行研究を踏まえながらこちらについてもきちんと議論がなされています。重要なのは,欧米では政治参加を行う傾向がある高所得・高学歴層がデモなど投票外参加についても積極的に参加している傾向がある一方で,日本の場合は投票外参加の水準が非常に低いという新しいタイプの違いが示されているところでしょう。じゃあもし(高所得・高学歴層中心に)そこでの参加が増えていったらどのようになるのか,というのはなかなか難しいところでしょうが。
森本哲郎先生・辻陽先生・堤英敬先生・白崎護先生からは『現代日本政治の展開』を頂いておりました。ありがとうございます。以前出版された『現代日本の政治-持続と変化』をヴァージョンアップさせたものということです。この間5年ではありますが,この5年で何か非常に大きく政治の風景が変わり,コロナウイルス感染症の感染拡大でそれがさらに推し進められているような気がします。
白崎先生の書かれた投票外参加と社会運動論の境界面に当たるような政治運動の論考が勉強になりました(投票行動の理論も)。政治参加と社会運動論ってすごく近いけども研究的にはやや距離があるような印象もありましたが,この章では両方に目配りしながら丁寧に研究状況をまとめられていたと思います。ソーシャルメディアがどのような役割を果たすのか,といった新しい分野についてもまとめられていて,これまでの研究を総攬するのによいのではないでしょうか。個人的にはDemocratic Innovationと呼ばれるような,ミニパブリクスや住民投票など,特に地方で新しく導入される制度に関心があるので,そのような制度につながる流れが理解できるというのはありがたいところでした。
もう一冊,Amazonでは出ていないのですが,今井一先生から『住民投票の総て 第2版』を頂いておりました。ありがとうございます。第1版は2020年に発売されてましたが早々に印刷分が売れ,2020年の大阪都構想住民投票を踏まえた内容のアップデートがあったということです。本書では国内外の住民投票事例の豊富な紹介のみならず,巻末には非常に充実した国内での住民投票に関するデータが付けられています。このような本が出版されるのは,研究上の貢献も非常に大きく,私自身も年末くらいに予定している書籍の執筆で,一部本書のデータを利用させて頂いています。住民投票研究には必須の一冊,かと。