新しい教科書

ちょっと遅くなりましたが,昨年末に新しく出た教科書を二冊頂いていました。一冊は,『政治学の第一歩』と同じ有斐閣ストゥディアシリーズの『政治行動論』。飯田健・松林哲也・大村華子の各先生から頂きました。この三人で書かれていて,以前から非常に待望されていたと思うのですが,内容が手堅いことはもちろん,それ以上にとても読みやすいものになっていて素晴らしいと思いました。多様な選好をもつ人々が,知識や情報の不足という問題を抱えながらも,少しでも応答性の高い政府を選ぼうとするということで,とりわけ業績投票の重要性が強調されているのが印象的でした。
政治学の第一歩』のほうは,集合行為問題の解決をどう行うかという関心のもとで,基本的に制度/権力という観点から政治を説明するかたちになっているわけですが,本書は徹底的に有権者個人がいかに選ぶかという観点から政治を見ているということになると思います。その点で多少私たちの理解と違うところも散見され,そこが面白いと感じました(ぜひ読み比べて頂ければ!)。一貫した視点から分析をするということが体系的な理解の出発点だと思いますが,やはり政治学でもこういう教科書が増えるんだろうということを強く感じたところです。そういう意味では,従来の何となく対象で分かれていた講座名も,視点によるものへと変わっていくのかもしれません。

政治行動論 -- 有権者は政治を変えられるのか (有斐閣ストゥディア)

政治行動論 -- 有権者は政治を変えられるのか (有斐閣ストゥディア)

もうひとつ,著者の先生方から『福祉+α 福祉レジーム』を頂きました。福祉レジーム論という視点から,かなり多くの国々について最新の動向まで網羅的に整理されていて,教科書としてだけでなく,辞書的にも非常に有用なのではないかと思います。特にラテンアメリカや東欧(旧共産圏)については,政党政治選挙制度の文献での興味深い研究対象となっていて,結構福祉政策の話が出てくるものの,その内容がよくわからないということもあるのですが,本書ではその辺りの国々もカバーされているので便利だと思います。
通して全部読んだわけではないのですが,個人的に興味深いと思ったのは,加藤雅俊先生が担当されているオーストラリアです。もともと日本と同様の雇用保障中心の社会的保護の提供が行われていたのが,現在では低所得層だけでなく中間層も対象とした社会政策を通じた社会的保護の提供へと移行しつつある,ということで,日本にとっても参考になる事例なのかな,と感じるところです。
福祉レジーム (福祉+α)

福祉レジーム (福祉+α)