国際政治・比較政治

神奈川大学の佐橋亮先生から,『共存の模索』を頂きました。どうもありがとうございます。本書では,「信頼性と安定の均衡の追求」という観点から,アメリカが台湾との関係を修正して中国と新しい関係を築くに至る過程について,ニクソン政権からフォード,カーター政権にかけてのアメリカ外交の一次資料を詳細に検討しながら描き出すものになっています。僕自身は国際政治が専門ではないので正確なところはよくわからないのですが,米中接近については基本的にキッシンジャーがいうような三角外交―米ソ中のパワーバランス再構築―で説明されることが多いんだと思うのですが,本書はそういった大国政治というよりも,アメリカが台湾(という小国)に与える信頼性と,中国(とソ連)という大国との関係を安定させることをどのようにバランスさせるかという観点から分析が行われているということだと思います。
よく考えると台湾は,もともと主権国家として多くの国の承認を受け国連に加盟していたのに,中国の台頭によってその承認が取り消されつつも,一定の統合を保っている稀有な例ということだと思います。もちろん,承認を取り消された国は少なくないんでしょうが,そういう国の多くは内戦や分離独立によって必ずしも一貫した統治機構が続いているわけではないように思いますんで(ちゃんと調べたわけじゃないですが)。この前『政治学の第一歩』の12章を使って授業したときに,承認された国家の例として東チモール南スーダンを,未承認の例として西サハラソマリランドの話をしたんですが,よく考えたら台湾を例に挙げるほうが議論が深まったかも。そういう観点からすると,承認を取り消されてしまった小国たる台湾が,国際経済(アメリカ経済)への依存を重視して前線であるにもかかわらず平和愛好「国」として大陸反抗を断念していくような過程に触れてあった本書の7章はなかなか面白いものだと思いました。

共存の模索: アメリカと「二つの中国」の冷戦史

共存の模索: アメリカと「二つの中国」の冷戦史

横浜国立大学の加藤雅俊先生から,二冊翻訳を頂いておりました。ありがとうございます。一冊は『ウェストミンスター政治の比較研究』で,イギリスの政体として有名な「ウェストミンスター・モデル」について,イギリス以外の旧英連邦諸国を比較しながらその作動について探るというものだと思います。だいたいこれらの国は多数制の選挙制度で権力集中に特徴づけられる,いわゆる多数決型民主主義としてまとめてカテゴライズされるわけですが,それらの違いを見ることによって制度のロジックを内在的に理解しようということになると思います。少し前に頂いたのですが,この本が出版されたころ,オーストラリアで与党から不信任案が出る形で首相の交代があってどうもleadership spillという制度(?)のようですが,同じウェストミンスターでもイギリスなどとは制度の思想が違うところがあるということ,さらに首相に対する不信任や解散権などがコンセンサス・デモクラシーとは全く違う考え方で運用されていて,しかもウェストミンスターの中でも多様なのだ,ということを感じていたところでした。
もう一冊は『日本資本主義の大転換』です。こちらもありがとうございます。日本が大きく社会制度を変えつつあるものの,「新自由主義」にうまくフィットするわけではない,という主張だと思います。読んでみてとりわけ重要だと思ったのは,1990年代の改革に注目したことではないでしょうか。個人的にも最近住宅政策を勉強していて思うのですが,「首相政治」が前面に出てくるような2000年代とは違って,それ以前の重要な改革が「なぜ」生じたのかということを説明する必要があるんだろうなあと考えています。本書で議論されているようなグローバリゼーションの効果はおそらく最も有力な議論なわけで,それが具体的にどのように影響を与えていくのかというのを政治過程で見ていくというのは重要な仕事になるだろうなという思いを強くしました。本書はアクターの合理性よりも歴史を重視するようなスタンスだと思いますが,まあ日本の話ですし,アクターに注目しながら説明するとどうなるんだろう,というのはちょっと考えてみたいところです。
ウェストミンスター政治の比較研究―レイプハルト理論・新制度論へのオルターナティヴ

ウェストミンスター政治の比較研究―レイプハルト理論・新制度論へのオルターナティヴ

日本資本主義の大転換

日本資本主義の大転換