神奈川大学の佐橋亮先生から,『共存の模索』を頂きました。どうもありがとうございます。本書では,「信頼性と安定の均衡の追求」という観点から,アメリカが台湾との関係を修正して中国と新しい関係を築くに至る過程について,ニクソン政権からフォード,カーター政権にかけてのアメリカ外交の一次資料を詳細に検討しながら描き出すものになっています。僕自身は国際政治が専門ではないので正確なところはよくわからないのですが,米中接近については基本的にキッシンジャーがいうような三角外交―米ソ中のパワーバランス再構築―で説明されることが多いんだと思うのですが,本書はそういった大国政治というよりも,アメリカが台湾(という小国)に与える信頼性と,中国(とソ連)という大国との関係を安定させることをどのようにバランスさせるかという観点から分析が行われているということだと思います。
よく考えると台湾は,もともと主権国家として多くの国の承認を受け国連に加盟していたのに,中国の台頭によってその承認が取り消されつつも,一定の統合を保っている稀有な例ということだと思います。もちろん,承認を取り消された国は少なくないんでしょうが,そういう国の多くは内戦や分離独立によって必ずしも一貫した統治機構が続いているわけではないように思いますんで(ちゃんと調べたわけじゃないですが)。この前『政治学の第一歩』の12章を使って授業したときに,承認された国家の例として東チモールと南スーダンを,未承認の例として西サハラとソマリランドの話をしたんですが,よく考えたら台湾を例に挙げるほうが議論が深まったかも。そういう観点からすると,承認を取り消されてしまった小国たる台湾が,国際経済(アメリカ経済)への依存を重視して前線であるにもかかわらず平和愛好「国」として大陸反抗を断念していくような過程に触れてあった本書の7章はなかなか面白いものだと思いました。
- 作者: 佐橋亮
- 出版社/メーカー: 勁草書房
- 発売日: 2015/12/19
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (5件) を見る
もう一冊は『日本資本主義の大転換』です。こちらもありがとうございます。日本が大きく社会制度を変えつつあるものの,「新自由主義」にうまくフィットするわけではない,という主張だと思います。読んでみてとりわけ重要だと思ったのは,1990年代の改革に注目したことではないでしょうか。個人的にも最近住宅政策を勉強していて思うのですが,「首相政治」が前面に出てくるような2000年代とは違って,それ以前の重要な改革が「なぜ」生じたのかということを説明する必要があるんだろうなあと考えています。本書で議論されているようなグローバリゼーションの効果はおそらく最も有力な議論なわけで,それが具体的にどのように影響を与えていくのかというのを政治過程で見ていくというのは重要な仕事になるだろうなという思いを強くしました。本書はアクターの合理性よりも歴史を重視するようなスタンスだと思いますが,まあ日本の話ですし,アクターに注目しながら説明するとどうなるんだろう,というのはちょっと考えてみたいところです。
ウェストミンスター政治の比較研究―レイプハルト理論・新制度論へのオルターナティヴ
- 作者: R.A.W.ローズ,ジョン・ワンナ,パトリック・ウェラー,小堀眞裕,加藤雅俊
- 出版社/メーカー: 法律文化社
- 発売日: 2015/10/07
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (3件) を見る
- 作者: セバスチャン・ルシュヴァリエ,新川敏光
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2015/12/23
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (3件) を見る