第84回会合(2009/5/20)
今回は税財政に関して土居丈朗慶応義塾大学教授のヒアリングと行政委員会についての総務省ヒアリング。税財政が三次勧告の重要な部分と考えられてきたことは言うまでもないですが,行政委員会についても地制調との関係上分権委として勧告しやすい,ということかしりませんが,三次勧告の重要な要素を構成することになるようです。
まず土居先生については,冒頭「地方に冷たいとしばしば言われる」と自己紹介されていましたが,その説明は地方税・地方交付税・国庫支出金・地方債のそれぞれについて一貫したもので,冷たい/暖かいというわけでもないのではないかと思います。お話を聞いていると特にいま非常に金利が安い地方債が,平時の5%程度の金利になったときにどうするべきか,というのが発想の中心なのかな,という感想を受けました。趣旨としては,自治体の最終的な財源調達は従来のように補助金や交付税という国からの財源移転の増額に頼るのではなく,自ら住民にその使途を説明する地方税や地方債で行うべきだ,ということで。もちろん地方債の元利償還,という考え方は否定されます。ただ注意しないといけないのは,しばしば土居先生の議論は「地方に冷たい」と言われているわけですが,別に厳しいとされる現状ですぐに地方税・地方債が最後の財源選択だといっているわけではなくて,国が関与しているようなところは交付税や補助金といったような財源保障・財政調整の手段によって手当がなされた上で,残りの自治体独自の事業が地方税・地方債で行われるべき,としているところでしょう。国が手厚く財源保障・財政調整をすることで,地方に暖かい(?)かたちで地方税・地方債が最後の財源選択になる可能性もあるわけで,そこは「国がどの程度地方の事業に関与し,どの程度財源を手当てするか」という価値をどこに置くかという問題かと思われます。
この点については,特に土居先生が説明されていた「一人当たり一般財源」のところで委員との間に齟齬があったんじゃないかなぁ,と思います。土居先生の主張では,現行では地域間の税収格差はあるものの,交付税による調整後に一人当たりの一般財源で地方が非常に優遇されているという問題意識から,交付税の配られ方が,税収格差を均しているのか財源保障をしているのかが明確ではないとされます。言い換えると,金額で見るとどの部分が財政調整で格差を均すために使われ,どの部分が財源保障として国からの関与に対する財源として確保されているのかが不明瞭である,と。この点を踏まえて,提言としては財源保障をきちんと行った上で(この財源保障をどのように「きちんと」するか自体が非常に大きな問題なわけですが),簡素な形で財政調整を行うべきである,というもの。簡素なかたちというと,しばしば「人口と面積」を指標とするもので,それで格差を均そうとしても捉えきれない格差があるからだめだ,と批判されるわけですが,この点の説明ではたとえば65歳以上人口(比率)などのような,財政力の弱いとされる地域にとって「有利」な指標を入れればよいではないか,という提案もされていました。それに対してまず横尾委員からは,「特に過疎地は新型交付税では不安になる」「一人当たり一般財源という指標がいいのか」というコメントがあります。答えとしては過疎地にとって有利な指標を入れればいいのではないか,ということだと思うわけですが,ここはどうも噛み合わず。よくわからないですが,地方の側としては「一人当たり一般財源」というと,またいつか「過疎地が多い」って批判されるのがいやなのかもしれませんが,簡素な算定式を作って過疎地の方が有利なかたちで「一人当たり一般財源」が出てくるとしたらそれは単純に決定がそうなっていただけの話であって,あとは政治的な交渉の問題じゃないのかなぁ,と。まあそれがいやなのかもしれませんが。後この点については全くよくわからなかったのが委員長で,「格差をゼロにするというのはひとりあたりで同金額にするということか」という質問から始まって,「金額だけで格差が図れない」というどうしようもないそもそも論に…。何か単に「経済学がすべてではない」と言いたかっただけのような気がしますが,まあそらそうでしょう。
論点の中でひとつよくわからなかったのは,格差問題については不交付団体を増やして,交付税を交付団体に重点配分すればいい,というところ。じゃあどうやって不交付団体増やすの?というのが疑問で,この点はしっかり井伊委員が質問されていました。土居先生の答えは,現行の方式をそのままにするという前提の下では,要するに都市部の基準財政需要額を抑えて地方の基準財政需要を増やすという話だったわけですが,ただそれって余計に恣意的になるような,と。もうひとつ井伊委員の質問として,財源保障の範囲をどう決めるのかというのが出てきたわけですが,ここでは現状で義務付け・枠付けがあっても部分的にしか補助していない,いわば広く薄いことを問題にして,義務付けの数・範囲を減らして(=広くというのを狭くして),残された義務付け枠付けのところについては必要な部分にきちんと国費をあてる(=薄くというのを厚くする)ようにするべきではないかと。これは地方分権改革推進会議的には「補助金の見直しではなく補助事業の見直し」ということなわけですが*1,利害関係者が増えるうえに抵抗も激しくなるのでなかなか難しいところ。「金か事業か」とは違うフレームワークが必要かもしれません。
総務省ヒアリングは自治行政局長の説明。行政委員会について,国の行政委員会はしばしば改廃されているのに地方は昭和20〜30年代に出来たままほとんど変わっていない,ということ。最近ようやく第28次地制調の議論,教委・農業委員会・監査委員について検討され,改正提案がなされたものの,監査委員については改正されたものの教委と農業委員会については抵抗が強くそのままだそうです。これって要するに関係する利益団体の強さじゃないかという気もしますが。内容については露木委員の質問ですが,地方公共団体で選択性,ということにすると人事権や財源の問題が出てくるだろうという話。つまり人事権や財源持っているところは必置のままで,そうでないところは選択に,という可能性があるんじゃないかということですが,地制調ではそういう分け方は考えていなかったとのこと。で,横割りの行政委員会制度ということで総務省が一省で押しても省庁間協議ではどうにもなりません,というお話に。まあこの先もやや微妙ではないかと…この行政委員会は三次勧告に入るということもあるので西尾代理が「集中協議をしますか?」と問いかけたりしてるのですが,委員長は「いま一気にやったのでいい」という???なお応え。なおも露木委員が段取りについて問うと,とりあえず対応について事務局で検討,ということだそうですが,どうなるもんでしょうかね。
*1:この点について当事者の興味深い議論は森田先生の『会議の政治学』です。ちなみに僕も前にこの辺で論文書いたことがあります…。