経済教室への補足
7月2日付けの日本経済新聞・経済教室に『参院選で何を問うのか(下)将来を巡る対立軸 意識せよ』というコラムを寄稿しました。選挙前の記事という「ナマモノ」で,本来そういうのを書く能力に乏しいのですが,せっかくのお話なのでチャレンジしてみました。普段の地方政治や住宅などに関するコラムの場合には論文・本で言ってることをベースに書いてると思うのですが,今回は『二つの政権交代』以来細々と続けている研究がベースで,たまたま同じ日経新聞の2年前の経済教室や最近の記事*1でのアイディアを発展させて書いているような感じです。
まあ前半の参議院の選挙制度がもたらす個人投票の話や各政党のマニフェストの話はいいのですが,後半の生活保障-社会的投資の軸については,2年前の経済教室でも取り上げたHausermannさんらの研究をもとにしています。最近のヨーロッパの福祉国家研究の成果ということで,現在大学院のゼミでも勉強しているThe Politics of Advanced Capitalismの議論――潜在的な支持層というのは,基本的にこの本のアイディアですね――と寄稿しているような人々,特にJane Gingrichさんの研究に依拠する感じで整理してみたつもりです。論文を一本紹介するなら,
ですかね。前にもツイッターで触れたことがありますが。また,社会的投資については,最近同じ経済教室での田中拓道先生のコラムが出ていたほか,現在日本で精力的に研究されている濵田江里子先生のコラムがちょうど昨日発表されていました。後者についてはヨーロッパで論じられている社会的投資を超えて,「社会への投資」を,という意欲的なものだと思いました。
The Politics of Advanced Capitalism
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コラムの中ではあんまり細かく触れることができなかったのですが,従来の左派-右派という軸が,日本で護憲-改憲という軸と重なってくるのと同じように,新しい生活保障-社会的投資という軸は,これもヨーロッパで論じられているGAL(green-Alternative-Libertarian)vs TAN(Traditional-Authoritarian-Nationalist)軸とも重なってくるように思います。GAL-TANの方はきちんと研究を進めているというわけでもないのであくまでも印象論ですが。これはいわゆる左右でのポピュリズムみたいなものとも絡めて議論されることがあるようですので,ここから日本におけるポピュリズムの位置づけ,みたいなものを考えることもできるのかもしれません。
最後のところ,財源はともかく一度社会的投資の分政府を大きくしてみるという論が立たないか,ということを書いています。これは財政赤字が深刻な中で非常に書きにくい話ではありますが,投資によって将来のリターンを得るという考え方とセットであれば議論の余地が広がるのではないか,ということです。もちろんこの手の賢い支出Wise spendingについてはずっと主張されつつも政治過程でのゆがみが入るために難しいということはしばしば指摘されています。しかし政党の主張として,政治過程における個々の政党の思惑を統制して賢い支出をするんだ,という議論自体はできるんじゃないかなと。
蛇足ですが,経済政策については専門外で,もう20年くらいこのよくわからん議論の観客をしているだけでしたが,それでも最後に触れてみたのは,最近のリチャード・クーさんの『「追われる国」の経済学』を読んでいると改めて示唆されるところが多かったからというように思います。本質的には彼が言ってることは20年前と変わってるわけではなくて,長年の一観客としてはRichard Koo is baaack! という感じを受けたのですが*2,そこで示されている理論的展開は政治学者としても非常に興味深いものでした。追う国と追われる国という「質的な違い」が経済政策の違いをもたらす,というような議論は,今の経済学ではなかなか受容されないような気がしますが,特に質的な変数に興味がある政治学者としては裨益するところが少なくないと思います。直接論文に利用することができるのかはよくわかりませんが…。