第20回会合(2007/9/27)

最近ペースも速くなってきたので,なるべく一回分以上溜めないようにしないと持続可能性がなくなってしまう…と思いつつ。今日(10月3日)の会合も含めて,そろそろ11月の取りまとめに向けて佳境に入ってきたような感じがします。今回は厚生労働省管轄の労働分野と,国土交通省管轄の交通・観光分野ですが,個人的にはこの取り合わせはちょっと興味深かったです。というのは,労働分野の方は省庁の側がかなり頑なに中央政府の仕事という性格が強く,直接執行の重要性を主張するのに対して,交通・観光分野(特に観光分野)の方は,別に直接執行するわけではなくて,実際に動く地方に対して国の関与を何らかのかたちで残したい,という違いが見受けられたので。まあどっちにしても,ほとんど「地方がやることは不可能」とか「関与をなくすことはできない」って回答なわけですが。
まず労働分野については,労働基準の確保,無料職業紹介,個別労働紛争の調停,職業能力開発などの事務について,厚労省が権限委譲はできない,と主張するところから始まります。その主要な論拠は,憲法ILO条約で全国画一的な事務の執行が要請されていることや,雇用保険事務と職業紹介事務は一体的に行われるべきだ,といったことなど。露木委員も言ってましたが,まあその主張自体はそんなに違和感はないのではないかと思われます。確かに国のどこでも同じように労働基準が守られる必要はあるし,職業紹介も雇用保険との関係を考えると,国が事務を直接執行するという主張には一定の合理性があるように思われます。まあただ,僕の周りで働いている人たちの様子を見ていると,厚労省が強調する国の事務としての労働基準の確保って言う役割が十分果たせているかどうかというのはかなり疑問ではありますが…。批判の多いホワエグにしても,自分でその役割を強調する厚労省が労働基準を使用者にきっちりと守らせることができるのであれば,今回ほどの大批判は起きてないように思われるのですが。
厚労省の主張に合理性を認めるのであれば,基本的には前回の経産省と同様に,実際に主張するような実績が十分に上がっているかどうかという政策評価の問題になると思います。しかし,今回の会合ではサクッとその主張の合理性を認めるというわけではなくて,地方がその事務を執行する可能性について厚労省と議論しています。その趣旨をざっくりとまとめると,問題になっている労働分野の事務が,国が主要な責任を持つ事務であるとしても,地方自治体の法定受託事務として構成することはできないか,という論点になるのではないかと思われます。で,これに対する厚労省の反論は大きく分けて二つあります。つまり,

  • 全国一律に行われるべき執行を地方自治体が行う体制にはなっていない
    • 労働分野の事務は複雑であり,個別のケースについて本省の判断が重要になるためそう簡単に委任できない
    • 業務の専門性が高く,ジョブローテーションで様々な分野を担当する地方公務員の人事体制ではその専門性を高めることができない
  • ILO条約では職業紹介が国の指揮監督の下にある全国的なシステムunder the direction of national authoirtyで執行されることが要請されており,法定受託事務では難しい

ひとつめは主に労働基準に関する話で,まあそうだろうなぁ,と思わないでもないですが,しかし技術的な問題といえば技術的な問題であるような気もします。現在の都道府県では狭すぎるし能力も足りない,ということでしょうが,この反論では例えば道州制が導入されて,全国的に労働基準が一律であることよりも道州レベルでの基準が一律であることの方が重要視されるのであればあまり意味がなくなる反論ではないかと思われます(これは露木委員も同じようなコメントを)。で,むしろ興味深いのがふたつめの話なのですが,確かに法定受託事務は一応「地方の事務」に国が「関与」するという形式をとっているので,一般的な指揮監督は含意されないのではないかと思われます。しかしながら,法定受託事務(あるいは個別法で定めた自治事務)は代執行を行うことが可能なので,それで十分といえるのではないか,という疑問はあります。もちろんこの点は委員会でも小早川委員・宮脇事務局長が突いているのですが,厚労省の応えは是正指示・代執行の権限があるとしても法定受託事務では不十分というなかなか強気なものになっています(一応持ち帰って検討するようですが…)。しかしこれは結構凄い話をしているのではないかと思います。つまり,法定受託事務「でも」国がその意思を地方に履行させることができない,ということになると,地方が関係しうるような条約などの約束を他の国と締結することができるのか??という問題を引き起こすのではないかと…。現状では法定受託事務などの是正指示や代執行という手段を担保することで,地方自治体による事務の執行が他の国との約束違反を引き起こした場合に対処することが可能であるとして他の国と約束を結んでいると思うのですが,そのように「いざというときに国の意思の履行を確保する」ことだけでは一般的な指揮監督に足りないとするのであれば,一般的な指揮監督がどのような要件で構成されるかを明らかにするべきではないかな,と思うところです。この件については外務省の見解も聞いてみたいところですが,まあ当面は事務局長から出された質問に対する厚生労働省の回答を期待,というところでしょうか。
今回触れられなかった論点としては,生活保護制度との兼ね合いというものが考えられるのではないかと思われます。最近よく聞くWelfare to Workという言葉に表されるように,公的扶助の受益者を就労に繋げるというのは多くの先進国で取り組まれている話で,日本でも考える必要があるのではないかと思われます。例えばイギリスではjobcentreが失業保険を扱うとともに職業紹介の機能を持つだけでなく,無拠出の失業手当の受益者にも職業の斡旋を行っているようです。そのためには,公的扶助を行うところと職業紹介を行うところがある程度統合されている必要があるわけで,それを考えると公的職業紹介を自治体の方に移譲できないのであれば,生活保護事務の方を逆に国に移譲するとかそういう提案も必要なのではないかと思ったりするわけですが…厚労省的に(せっかく生活保護を所管する厚生省と職業安定を所管する労働省が一緒になったのに)その辺はスルーって感じなのでしょうかね。まあ次回以降の話なのかもしれませんが。

労働分野が随分長くなったのですが,交通・観光分野も。こちらの方はかなり細かい話が多いので簡単に,ということで。細かい話の中でも共通する問題としては,地方の国への依存と国の関与がかなり共犯のような関係になっているのではないか,という感想。例えばはじめのトピックとして公共交通機関に乏しい地方で,自家用車による有償運送の問題について議論されていますが,少なくとも説明を聞く限り,地方の運営協議会にある程度権限を移しているような印象を受けます。詳しくは実際に調査をしてみないとなんともいえませんが,地方で決めようと思えば決めれても,紛争を嫌がって国による一律の緩和を求めるようなところもあるのではないか…とも。また観光についても,担当者が言うように,マーケティングなどの支援で国に依存しようとする自治体があるのも(全て鵜呑みにはできないとしても)ある程度事実でしょうし,空港の問題がこじれる原因のひとつであると考えられる「第二種B」は地方が滑走路を延ばすために補助金を増やしてもらうことを狙った結果新たなカテゴリが生み出されたという性格もないではないのだろうと。こちらの方については,労働分野とは若干違って,制度設計よりもある種の「意識」の問題というのがあるのかもしれない,というのが感想になります。ここで地方の方が国への依存を切って自立するんだ!というやや苦しい判断にコミットできるかどうか,というのが今回の委員会にとって重要なポイントになるような気がします(ってまとめてみると今更ですが)。