期日前投票

投票日に予定がどうなるか微妙なので期日前投票に行ってきたのですが,そこで新しい発見がひとつ。総選挙の場合,なんと投票日の一週間前(つまり今回の場合は23日(日))よりも前に期日前投票に行くと,その時点では最高裁判所裁判官の国民審査ができないとのこと。普通に小選挙区比例区とやってあとは国民審査か,と思ってたら終わってしまったのでややびっくり。当然職員の方に聞いたのですが,どうやら応援の方らしくていまいち要領を得ず,最終的に担当の人まで出てきて説明してくれたところによれば,国民審査の告示が23日(一週間前)であり,まだ告示されていないから投票もできないとのこと。ただこの説明はちょっと違うらしく(単に僕がわかってなかっただけかもしれない),今調べたところによると,最高裁判所裁判官国民審査法5条によれば,告示自体は「審査の期日前十二日まで」となっていて衆議院議員選挙と同じ。ただもうちょっと読み進めると、第26条で「審査の期日前七日から審査の期日の前日までの間」に審査が行われなくてはいけない旨が書かれている。ちなみに,担当職員の方によると,22日以前に投票した人は,23日以降また期日前投票に行くか,予定が変わったりして投票日にいけるようならそれでもいいということ。「整理券は?」と思ったのですが,これはあくまでも整理券ということなので,なくても大丈夫とのこと。これはIT化が進んだ賜物なのかもしれないですが。
しかし驚いたのは,どうやら国民審査について聞いている人がほとんどいないようだったこと。てかお手伝いの人もそれが何かいまいちピンと来てなかったし…。変なクレーマーだと思われてた節もあり…。まあ確かに公報でも見て具体的な判決を教えてもらわないと裁判官を識別できないから何とも言えないところではありますが(僕自身調べて行くの忘れてたし)。ただ期日前投票を大幅に緩和して,実際かなり増えていることを考えると,国民審査法で規定されている日程も変えた方がいいのではないかと思ったり。てかよく考えたら地方選挙ではよくこれがあるんだった。
公職選挙法で定められている選挙,つまりいわゆる国政選挙と地方選挙では,期日前投票について以下のように定めている。

第48条の2 選挙の当日に次の各号に掲げる事由のいずれかに該当すると見込まれる選挙人の投票については、第44条第1項の規定にかかわらず、当該選挙の期日の公示又は告示があつた日の翌日から選挙の期日の前日までの間、期日前投票所において、行わせることができる。

しかしそれぞれの公示日と告示日は必ずしも一致していない(以下条項数は公職選挙法)。

衆議院総選挙)
第31条 4 総選挙の期日は、少なくとも12日前に公示しなければならない。
参議院通常選挙
32条 3 通常選挙の期日は、少なくとも17日前に公示しなければならない。
(一般選挙、長の任期満了に因る選挙及び設置選挙)
第33条 5 第1項から第3項までの選挙の期日は、次の各号の区分により、告示しなければならない。
1.都道府県知事の選挙にあつては、少なくとも17日前に
2.指定都市の長の選挙にあつては、少なくとも14日前に
3.都道府県の議会の議員及び指定都市の議会の議員の選挙にあつては、少なくとも9日前に
4.指定都市以外の市の議会の議員及び長の選挙にあつては、少なくとも7日前に
5.町村の議会の議員及び長の選挙にあつては少なくとも5日前に

というわけで,例えば衆参同日選挙だとはじめの3日間は参議院通常選挙しか投票できないし,都道府県知事選挙と衆議院総選挙が重なると5日くらいずれる。僕は統一地方選挙が行われる区域に住んだことがないので,よく考えたら複数の選挙を一緒にやるという経験をしたことがないのですが,そういう地域に住んでいる人にとってはそういうのは当たり前なのかもしれない。たぶん統一地方選挙でも都道府県・市町村では別々に整理券を送ってくるんだろうけど,知事選挙と議会選挙が同日の場合って同じ選挙管理委員会から別々に整理券を送ってくるのだろうか。
公職選挙法は最近しばしば取り上げられているように非常に複雑な法律で*1,公示・告示によって世界が変わってしまい,できること/できないことがぜんぜん違ってくる。今回でいうと,中田前市長が早く辞任した横浜市でもそういうのが起きているらしく,「空白の二日間」があるという興味深い記事もあった。何でこういうことが起きるのかなぁ,と思って調べ始めたらえらい時間がかかったわけですが,どうやらこれは公職選挙法第201条の9(都道府県知事又は市長の選挙における政治活動の規制)に関する話らしい。公職選挙法ではこの条項も含む第14章の3で,政党その他の政治団体等の選挙における政治活動の規制をしているのですが,そこに引っかかると。この場合要するに,横浜市長選挙の告示が行われて,その地域における候補者の「選挙運動(≠政治活動)」が行われることになっていて,そのために政党その他の政治団体による,その選挙とは関係ない「政治活動(≠選挙運動)」が規制されることになるということ。ここのミソは「公示・告示によって世界が変わる」つまり,「選挙運動」というものが始まることによって,一般的な「政治活動」に規制がかかることにあるようです*2。つまり,選挙が始まってしまった地域(この場合横浜市)ではそのための「選挙運動」のみが発動し,そうでないところでは「政治活動」が一般に行われるものの,選挙が始まってしまった横浜市では「選挙運動」以外ができなくなるということ。もちろん総選挙が始まると日本全国が「選挙運動」になるので,この規制がある意味overrideされるわけですが。ちなみにたぶんこの効果が一番きつく出るのは都道府県知事選挙なわけで,知事選告示(17日前)から衆院選公示(12日前)まで5日間「政治活動」ができなくなる。今回は2005年に続き茨城県で総選挙と知事選が重なっているわけですが,茨城県知事選挙は5選を目指す現職(前回相乗り→今回は地元の市町村長の多くと連合茨城などが支持)と元国土交通省事務次官自民党県連支持)の対立を軸に(民主党県連は一応自主投票),僕と同い年の五輪銀メダリストも加わってまたよくわからない状況になっていることを考えると,この空白は衆院選にとって意外と重要な意味を持つような気もする。
うむむ。アメリカのホームルールのような話の文脈では,公選法のようなものこそ地域で決めるべきではないかと思っていたところもあるのですが,こういう公示・告示の手続きだけはある程度統一しておいた方がいいのかもしれない。しかし最近この複雑な公選法を変えるべき,という議論(特にインターネット関連)が多いわけですが,「選挙運動」と「政治活動」の峻別とか,俄かには決めがたい議論もあるのかもしれません。てか,この峻別がややこしいからやめるべきというのはわかるけど,その後どういう世界にするのかっていうのがいまいち見えないのがつらいところなのではないかと思ったり。

逐条解説 公職選挙法

逐条解説 公職選挙法

公職選挙法の廃止――さあはじめよう市民の選挙運動 (Civics叢書)

公職選挙法の廃止――さあはじめよう市民の選挙運動 (Civics叢書)

追記

IT Mediaのこの記事によると,政党によるウェブサイトの更新が「政治活動」なのか「選挙運動」なのかについて,今回の選挙では新しい動きがみられるらしい。「文書図画の頒布」とされるウェブサイトの更新(なんでやねん)が「選挙運動」だとダメで「政治活動」ならOKということなんでしょう。もちろん特定の候補者への投票を促したらダメとかあるみたいですが。しかし前回ダメで今回は突然OKと「総務省が判断」ってどうなんでしょうかね。あまりによくわからない裁量に依り過ぎている気が…。

*1:例えば上述の33条,4項がよくわからない文章でたぶん前段は合併の話なんだろう,と理解するまでにえらく時間がかかった…。

*2:あまりにややこしいのでもうほとんど断念しましたが,公示・告示によって「政治活動」ができなくなるのは地方選挙では都道府県知事・市長,都道府県議会・指定都市議会,ということらしく,指定都市以外の市議会や町村長・議会選挙ではこういう規制はないらしい。まあこれらの場合は告示期間が短いことも関係しているのかもしれませんが。