参議院が「地方の府」となるには
参議院で憲法審査会の議論がはじまり,憲法改正議論が行われるのかなあという状況のようだが,そこでまず議論されないといけないことのひとつとして挙げられるのは参議院の位置づけだろう。今年の参議院議員選挙で,徳島・高知と島根・鳥取の合区が行われることになって,特に人口の少ない(=将来的に合区の可能性がある)県などから,合区はよろしくないので参議院を「地方の府」として位置付けつつ,各都道府県から代表を出すべきだという話が出ている。そんなに圧倒的というわけでもないけど,「選挙区は都道府県単位がよい」とする人が多いという世論調査もあるようで。
選挙制度を考えると,参議院の現在の一番の問題は小選挙区制と中選挙区制(それに比例代表制)が混在していて,何がどう代表になっているのかわからない,というところだと思われるので,各都道府県を小選挙区制にするというような話ならまあ望ましいのではないかと思う。他方,小さい県で1議席を必ず確保しつつ,東京とかで6議席とか7議席とかを中選挙区制で実施するというのは絶対に反対で,そんなことするくらいなら合区のほうが全くもって望ましいと思われる。どうせ合区するなら二県でとかちまちましたことを言わずに複数県を合区して複数代表の選挙区を作り,(これだけだと中選挙区制で当選の閾が低くなるので)連記制を導入することもありうるのではないか*1。
合区→連記制,というような方向ではなく,あくまでも都道府県代表ということにするならば*2,やはり参議院の機能についての見直しをセットにするべきだろう。今「一票の格差」で違憲判決が出るのは,衆議院と同様の権限を持つ国民代表的な議院として扱われていることによるところが大きいのだから,都道府県代表にして「一票の格差」が出るのを容認するとすれば,衆議院には権限で劣る議院として位置付けるほかない。都道府県代表というからには,基本的には地方自治に関することを集中的に議論する議院として扱うことにして,権限もそのあたりのみにとどめるべきではないかということになる。
このあたりまでは議論として出ているところで,そんなに異論があるわけではないのだけど,しかし憲法を改正してこのような参議院を再構築するということになるとしたら,それでよいのだろうかという感じもある。現状では都道府県が代表を議会に出すという立て付けが必ずしも自明でないわけで,それを憲法的に設定するのであれば,やはり都道府県がそれなりの機関であるという根拠が必要になるのではないか。個人的には,そこで重視すべきは都道府県の役割の(再)定義ではないかと思うところ。とりわけ重要なのは,都道府県という単位である程度完結した自治が成立する−受益と負担のバランスが取れる−ということが大事なのではないだろうか。つまり,ある程度「自治体」として自立してるからこそ参議院という「地方の府」にその代表を出すという設定が成り立つわけで,国からの補助金に過度に依存して仕事をする状態ではなかなか自治とは言えないし,変な話国(というか省庁)から補助を通じて参議院での地方代表に影響力が行使されるという不思議な状態も成り立つように思われる。
何も,今やっている地方の事務をすべて地方税で賄うべきだ,とかいうことを言いたいわけではなく,国と地方の役割分担を見直したうえで,しかるべき事務は国の責任ということに戻し,地方でやるべきとされたことはその自治体の財源で賄うという話であり,国の仕事をするとしたらそれはきちんとした「委任」として補助の制度を再設計するということに他ならない。しかし,地方の仕事をその自治体の財源でやるということは,必要に応じて地方税を上げるということが求められるし,また上からの補助というのではなくて一次的に割り当てられた地方税で豊かな自治体と貧しい自治体の差が大きくなったとしたら地方自治体間での財政調整を議論しないといけないのではないかということになる。そういった国に頼らない自治というのを規定してこその「地方の府」ではないだろうか。そのようにすれば,「地方の府」たる参議院で議論すべき議題というのも自ずとハッキリしてくるわけだし。
しかしそうすると「地方の府」にする道のりは本当に大変そうだ…。単一国家という特徴をきちんと強調していくなら,別に「地方の府」的な第二院が必要とも思えないわけで,個人を選びたいなら上述の連記制にするか,あるいはぐっと権限を落として非公選の有識者を含めた諮問機関(カナダがそんな感じ)みたいなものだって考えられるだろう。しかしそのあたりの話は今のところあんまり出ているようには思えないし,方向性としては「地方の府」というノリがあるように見える。繰り返すように,それに反対というわけでもないだけれども,ノリで「地方の府」にしちゃえばいいじゃない,とかいうのには抵抗を覚えるところ。
*1:公明党は,少なくとも以前はブロック単位の選挙区に編成することを主張していた。それ自体は悪くないと思うが,そこで単記非移譲式にするのは好ましくない。名前を書きたければそれでいいと思うけど,有権者の側に変な戦略投票をさせず,また当選の閾を上げるために連記制にするべきだと思う。
*2:もちろん比例制という選択肢もありうると思うけれども,衆議院のほうを多数制的な選挙制度で選ぶのを変えないのであれば,あんまりいい選択肢だとは思えない。とはいえ二院とも比例制というのもよくわからない。このあたりは『民主主義の条件』で触れた。