大都市制度と地方分権

総務省の地財審(地方財政審議会)の報告書案が出るそうで、それに関してちょっと備忘のためのメモ。報道によれば*1消費増税にあわせて、市町村間の格差を縮めるために、法人住民税の一部を国がいったん集め、地方交付税として税収の少ない自治体に配りなおすしくみをつくるということ。すでに2008年に導入されている地方法人特別税が、都道府県の法人事業税の半分を国税にして、人口基準で譲与税的に再分配するのに対して、今回は法人住民税だから市町村も対象になる。
これは実はかなり大変なことで、再分配の対象となる法人住民税がたくさんあって国にもってかれることになるのは、要するに法人が集中している大都市なということになる。もちろん大都市だけじゃなくて、豊田市みたいに巨大企業が本社を置いて多額の法人住民税を納めているところもあるけども、やはり問題は大都市なのである。基本的には東京に集中する財源を再分配するんだという発想なんだろうけども、多分他の大都市も現在より大きく財源が減らされることになるわけで(そうじゃない自治体はそもそも大都市と呼ぶべきでもないだろう)、交付団体である大阪市などは交付税への依存が強くなると考えられる。東京だってさすがに法人事業税の半分と法人住民税の一部を持って行かれたら、それなりにダメージは大きいだろう。まあ東京の場合、オリンピックが控えているから国からカネが入ってそれでもいいよ、っていうところもあるかもしれないけど。
交付税を通じて、大都市とそうでない地域の財政収入を平準化するということは、この数年盛り上がっていた大都市制度の議論にかなり水を差すことになる。ていうか、地方の法人関係税を再分配するというアイディア自体は、東京問題の解決として地方分権改革推進委員会以来ずっとあったわけだが(典型的には東京DC特区wか)、大都市を強調する議論の中でそれが表面化しなかったに過ぎない、というべきなのかもしれない。堺市長選挙での大阪維新の会の敗北によって、少なくとも当面は大阪市が周辺市を統合して「大都市」となっていくようなことは考えにくくなったことで、表面化しなかった法人関係税収をもとにした再分配というのが改めて浮上した、というのがまあ一つの見方だろう。
これはどう転ぶかな。タイミングは明らかに「今でしょ」って感じでやってるし、大阪市長はふざけるなっていうと思うけど(しかしもし大阪市で「交付税でもらう」額の方が大きかったらどうすんだろ)、かなり長期でみたら、意外にこういうかたちで再集権(?)を進めたほうが、中途半端に現状で地方分権を主張するよりもラディカルな大都市制度ができるかも、とか思ったり。今のままだと、東京と他の大都市の利害がわりと厳しく激突することになって、どちらかというと東京以外の大都市が割を食うことになりやすい、つまり、大都市への税財源・権限の移譲は進まず、微妙にお茶を濁した現状維持のままになるんじゃないか。それに対して、一度きちんと税財源を集権的に集めてみると、東京も含めた複数の大都市と国が直接相対するようなかたちになって、そっちのほうがより「大都市」への配慮がなされるのかも。
イギリスでも、サッチャー時代にロンドンはじめ大都市政府を解体して小規模なバラにしたわけだが、その後15年くらいしてから中央集権への批判が強くなって、ロンドン大都市政府をはじめ、マンチェスターなんかでも新しい大都市制度ができている。日本でも、一度きちんと集権し、その過程で大阪市をいまより少数の特別区に再編し、東京23区をやはり再編してそれぞれが「自治体」として身の回りのことをします、というようにやってみたら、10年くらいしたら中央政府への批判をベースにして地方分権がよりまともなかたちで進んだりして、とか。まあ備忘録というより妄想かもしれませんが。

*1:ちなみにどうでもいいんだけど、毎日新聞この記事では、見出しが「財政審報告書案:地方法人税の一部国税化 地方格差解消で」となっててマジでビビった。財務省財政制度等審議会がそんなことを言うのかと…まああれは「財審」だから、と言われるかもしれないけど、財政審ということもあるわけだからちょっと見出しは注意して欲しい。