『維新支持の分析』ほか

関西学院大学の善教将大先生から『維新支持の分析』を頂きました。どうもありがとうございます。先週,山下ゆさんのブログでバズってましたが,本当にいい本だと思います。私の著書や論文もいろいろと引用していただいて感謝するところです。

内容は,まあ山下ゆさんが上手にご紹介されている通りですが,大阪維新が国政ではそんなに支持されない一方で地方(大阪)では強く支持されてきたこと,そしてそれにもかかわらず2015年の住民投票で敗れたことについて説得的な説明を与えているものだと思います。そのポイントはやはり両方を一緒に扱っていることでしょう。住民投票の直後にその結果をシルバーデモクラシーとか地域格差とかそういうもので説明しようとする話は色々ありましたが,まあ非常に僅差なのでそんなざっくりとした説明ではなかなか有効になりえないわけです。それに対して本書では維新が(国政とは違って)地方で継続的に支持を受けてきたことを前提に,その支持との差に注目しながら住民投票を説明しようとしていることで有効な説明ができているように思います。結局有権者は,維新/橋下氏であれば何でも支持する,というような行動をしているわけではなく,既存政党と比較しつつ維新の方を選択しているわけで,都構想の住民投票という機会を与えられれば再検討して反対することも十分にあるんだ,と。もちろん,こうやって複数の証拠を組み合わせて厚みのある議論ができるのは,論文ではなくブックレングスの研究のいいところ,というのもあるように思います。

本書を読んでほんとにすごいなー(小並感)と思ったことはいくつもあります。舞台裏みたいな話ですが,私は本書の出版前に読ませていただいてコメントしてるのですが,そこからすごく内容が変わって充実してるんですよね。一次的な原稿ができてから入稿するまで一年以上あったと思いますが,その時間を使って見直すにしても,細部にわたって徹底的に再検討するというのはなかなかできることではありません(だって前の自分を批判するの大変だし)。次に,その成果でもあると思うのですが,本書では表が出てこなくてすべて視覚的にわかりやすいグラフを使っています。一枚一枚の表はたぶんすごい時間かかってるんだろうなあと感じさせるものも多く,読者に取って読みやすいように細部まで検討されていることがよくわかります。そして最も重要なことは,巷に流れる耳当たりのよさそうな説・議論を誠実に,しかし徹底的に検証しているってことです。ああいうの,私自身もそれは違うやろ,と思うことは少なくないですが,だいたい検証を考えていない印象を論じているわけで,それを批判するためには(批判する側が)検証の方法をきちんと考えてあげたうえで証拠を集めて批判しないといけないので非常に大変です。しかも,そうやって批判しても,「いやその検証方法は違う」とかなんとか言われる可能性もないわけじゃない。だからめんどくさいなあと思いながら流してしまうということは往々にして生じるわけですが,それをまとまったかたちで批判して,読者の判断に委ねる材料を提供するというのは本当に大変なことです。

維新が大阪に様々に存在する個別利益の代表ではなく,大阪全体の代表者としてふるまっているからこそ支持を受けているのではないか,というのはまさに私自身も主張してきたことでもありますが,それをサーベイを使いながら実証的に示されているのは本当にすごいなあと思います。この点に限らず,やや曖昧なかたちで論じてきたことが丁寧に言語化され,検証されていくのは,個人的には非常に爽快でありかつ羨ましくも思う読書体験でもありました。ただ(褒めてばっかりでも悔しいので)一点だけ引っかかったのは,「有権者の合理性」のところですかね。本書ではさまざまなかたちでエコロジカル・ファラシーへの批判もあるわけですが,なんかときおり「大阪市民の集合的合理性」のようなものが見え隠れしてないかな,と。都構想を否決したことが合理的かどうかということを判断するのは簡単ではないし(私自身,都構想については論じるに値することでありつつも,2015年の提案について賛成か反対かと言われれば反対,としてきましたが),何より最終的に可決か否決かというのがどっちに転んだかというのは非常に微妙なところなわけです。維新の提案なら何でも賛成する熱狂的な支持者もいたでしょうし,逆に何でも反対する熱狂的な(?)反対者もまた存在し,さらにはなるべくいろんな情報を集めて判断しようとする有権者もいたでしょう。確かに2015年の住民投票では,最後のなるべくいろんな情報を集めて判断しようとする有権者の動向がカギになった,というのはまさに同意ですが,いつでもどこでも同じようになるかはよくわからない。よくわかんないんですが,大阪の場合には,熱狂的な支持/不支持,そして情報を集めて維新支持/都構想反対,という選択を取った有権者の量的なバランスが「絶妙」だったんだろうな,とは思います。で,その結果としてこういう興味深い研究が生まれた,ともいえるかもしれません。 

維新支持の分析 -- ポピュリズムか,有権者の合理性か

維新支持の分析 -- ポピュリズムか,有権者の合理性か

 

 この間いろいろいただきつつなかなか消化できていませんが,拓殖大学の浅野正彦先生と高知工科大学の矢内勇生先生からいただいた『Rによる計量政治学』をご紹介したいと思います。お二人は以前に『Stataによる計量政治学』を出版されていますが,両著とも政治学におけるリサーチデザインの考え方から説き起こし,計量ソフトの使い方を超えた非常に素晴らしい教科書だと思います。上でご紹介した善教さんもRで分析をしたり描画をしたりされているようですが,Rによる計量政治分析を学習するに当たって長く読まれる教科書になるでしょう。私自身,大学でごく初歩の政治データ分析の授業を担当していて,今年はエクセルで説明をしていったのですが,来年度はこの教科書を使いながらRでの分析・説明をしていきたいと考えています。 

Rによる計量政治学

Rによる計量政治学

 
Stataによる計量政治学

Stataによる計量政治学