地方選挙

いわゆるプレ地方選挙の目玉は,保守分裂したうえに民主党もうまく自前の候補を立てられない,という「無党派」候補にとっては千載一遇ともいえる状況で,注目されることで投票率の底上げがおき,無党派層を大量に動員することができて勝利する,という無党派候補の教科書的な勝ち方だったのではないでしょうか。まあ「そのまんま」という修辞が入った候補に「変化を期待する」というのは非常に皮肉といえば皮肉ですが。
僕は宮崎県に所縁はないし,東候補の演説とか政策も見てませんが(ホームーページは見ましたが),まあ圧勝ともいえるような結果を見る限りでは,宮崎の人に訴えかけるものがあったのは間違いないのではないでしょうか。知事として不適格だ,とかいう議論もあると思いますが,宮崎の人だってもちろん昔の経歴の話だって知ってるわけですから,既成政党だけじゃなく,僕ら研究者も,県民が彼の経歴を踏まえてなお東候補が「比較的」望ましいと考えて選択した,というように理解しないとどうしようもないんじゃないかなぁ,と。
ただまあやっぱり議会対策でしょうねぇ。無党派知事はしばしば超越的なポジションを取るわけですが,青島氏・田中氏は議会に対して強硬姿勢で臨んだと理解されて,gridlockに陥って上手くいかなかったのに対して,山田氏は議会に対して柔軟姿勢で弱腰だ,と非難を受けるわけで。できれば石原氏のように,強硬姿勢で,なおかつ議会を従わせるという演出ができれば支持を増すことができるのではないかと思いますが。まあ予算関係は難しいだろうから,一般競争入札の制度化とかで闘うしかないのかなぁ。ただ制度設計についてはブレーンがいない限りどうしても内部官僚機構を利用するしかないわけですが,知事が無党派でかつ強硬姿勢をとってくると,議会だって官僚機構に手を突っ込んでくるわけで,「案が出ない」という状態に陥ってしまうことだって十分にありうる*1。今の宮崎には都市博や新幹線の新駅みたいにあっさり潰せる目玉がないことを考えると,おそらく一発目に競争入札の制度設計というかなり専門性の高い仕事をこなさないといけないわけで,それに見合うブレーン(内部官僚機構から引き抜くにせよ)をどの程度用意できるかがはじめの山場になるんでしょう。
もうひとつ,テレビで演説を見てちょっと興味深かったのは,やっぱり「福祉」を強調するんだなぁ,ということ。知事である以上高速道路建設みたいなインフラ整備を主張するのはある意味で当たり前だと思うのですが,地方政府レベルで「福祉」を強調するのは,教科書的な理解としてはちょっと微妙なわけです。そのために税金を上げる(あるいは下げない)ことは,中産階級や上流層の流出をもたらす可能性があるから,なわけですが。それでも「福祉」が強調されるのは,やっぱり「福祉は天から降ってくる」的な皮相な理解になってしまうのか,限界的な負担を負っても福祉を充実させるほうが支持の動員に繋がるのか(例えば福祉施策を必要とする高齢の両親を持った中産階級が多い,とか)。それとも単に(限界的な負担を増やさずに)支出の配分を変えることが望ましいと考えられているのか…と想像すると,なかなか結論は出ませんが。まあただいくつかの可能性については,地方政府間の比較分析をすることで実証的に検討することができるのかもしれません。

*1:なんていうか,一方がタカ戦略を取ってしまうので,ハト−ハトだった均衡が崩れて不安定になってしまう,ということなのかな。ここは少し理論的に考えてみれるところか。