一月経過

分権委員会がはじまってから四回会合が行われ,自己紹介と趣旨説明の第一回から,これまでの分権改革の歩みについてのヒアリング(第三回),各委員の分権改革に対する所見の披露(第二回,第四回)が行われてきました。四回目の会合が4月26日にあって,それから次の5月15日までちょっと間がありますが,この間に,委員長・事務局のほうで各委員の所見等を取りまとめて,5月末に発表する分権委員会の「基本的な考え方」(の基礎部分)を準備することになっています。まあそんな期間なんで(ってGWですが),とりあえずメモがてらここまでの部分を整理。
まず重要なのは,話を聞いている限り,はじめに取り上げそうなテーマについて,委員の間にそんなに大きな意見の対立があるわけではない,ということです。それはおそらく,委員の中に中央政府(というか各省)を代表する人が居ないから,ということになるのではないかと思いますが。はじめに取り上げそうなテーマというのは,国・地方の二重(多重)行政の問題と,いわゆる東京問題です。多重行政については,本来ならば,国・地方の役割分担というまあ旧くて新しいテーマを片付けないと進まないところですが,今回の委員会だと,地方支分部局の整理とか,中核市特例市の創設で過剰になった保健所の整理みたいなところに向かう感じがします。そういう意味では,わりと「叩きやすい」技術的な問題に最終的に落としてしまって「成果」を見せるというのはひとつの戦略なのかもしれません。もうひとつ,はじめに話題なりそうな話の東京問題については,もう少し意見に幅があるようです。「東京DC」の猪瀬委員(はじめは殊勝にFact Findingと言ってましたが,税調でもしゃべっているらしく,意外と色気がありそう…)をはじめ,委員の間では何らかのかたちで東京の法人税収を取り上げて,それを地方に分配する仕組みを作るというところにはある程度の合意が形成できそうな感じがします。ただし,二重行政と違って,こっちの方は技術的にも落としどころを見つけるのはちょっと難しいのかもしれない,と。それは,「東京から法人税を召し上げる」ことと「地方へ配分する税源を捜す」ことをふたつやらなくてはいけないから。委員の合意ができても,実際に進むのは難しいところでしょう。まあここまでの二つは,猪瀬委員が台風の目になりそうです(またか)。彼が主張していることが,他の委員についても合意が取りやすいことと重なっているからですが,これが技術的にはどのへんで落ちるかはちょっと不透明ですが。
ただし,この二つの議論については,やりようによってはもっと大きな議論に繋がってしまい収拾がつかなくなる可能性があります。それは道州制参議院改革です。まず地方支分部局の整理等の議論では,場合によってはまあ「道州」の範囲に相当するくらいの範囲で統合された地方支分部局が作られることになるかもしれないわけです。まあこの点については切り離して考えることができるとは思うわけですが,道州制の議論が意図的に持ち出されることによって,展開が遅れる可能性もあるわけで。それに対してよりややこしそうなのが地方消費税の話でしょうか。東京問題のところで書いた「地方へ配分する税源を捜す」というなかで,最も可能性の高い候補として挙げられるのが地方消費税です。言うまでもなく,地方間で偏在が少ない税源だから,ということですが。ここでは地方としての税率設定が大きな問題になります。つまり,「誰が地方消費税増税するのか」。現状だと国(中央政府)が消費税を増税すれば,地方は自らが税に対する反対を受けることなく自動的に増税による恩恵だけを受けることになります。ここをマジメに考えると,おそらく地方政府の国政参加という議論に戻る必要があります。地方六団体の意見具申とかでお茶が濁される可能性もありますが,ひとつの方法として(というか常々思うのですが)参議院を地方代表によって構成される第二院にしてしまって,そこで地方が責任を持つというのがあるとは思うのですが,まあ参議院改革の議論とくっつけると地方分権のほうが進まなくなることは間違いないでしょう。そうなると,現行の東京問題の解決策として,地方消費税の税源移譲を考えるとき,いかに税率設定権の議論を棚上げするか,ということが分権委員会の重要な分かれ道になるように思われます。
それに対して,委員間できっと意見が合わないだろうなぁ,というのが5月2日のエントリに書いた,小早川委員と井伊委員の議論の軸です。理想的にはここの部分を先に議論して,どちらかに決めてしまった上で後を進めたほうが何というか一貫性のある組織構成ができるとは思うのですが,まあそんなことは無理でしょう。それこそこれまで50年以上無理だったわけだし。この問題はむしろ棚上げして,なるべく地方の自律性を向上させるという議論に向かわざるを得ないのではないかと。自分の意見に近いから,というわけではないですが,基本線としては小早川委員の議論を軸に,特に地方の財政責任という部分で井伊委員の議論を取り入れる,ということになるしかないんじゃないかなぁ,と思ったりするのですが。というのは,完全に中央−地方の役割分担を定義することになると,どうしても立憲ルールつまり憲法に手を出さざるを得なくなって,それはもう分権委員会でコントロールできる範囲じゃなくなってしまうと思うからなんですが。それに,役割分担論で行くと,地方の事務とされたものについてはそもそも原則的には国の立法が行われなくなってしまうので,現行の地方自治法を前提にしながらそれをやるとまあホントにえらいことになってしまうのではないかと思うわけです。*1厳格に役割分担をするよりは,現状では義務付け・枠付けの縮小や規律密度の緩和とかいう方向で,単一国家という形式を保ったままで地方の自由度を上げる,という落としどころのほうが現実的だとは思うのですが。ただこれについては,じゃあ中央政府というか国が,どの程度地方政府の仕事のアウトプット/アウトカムに責任を持つか,という結構大きな問題が残ってしまって,マスコミ的な反対にあうかもしれません。(国は)責任は持つんだけども評価はしない,みたいな死にそうな落としどころはやめて欲しいですが…。*2
話を大きくせず,それでいて意味のある改革をするのは難しいところですが,見ていて今回は何とかなるんじゃないかなぁ,と思ったりします。その前提は,上にあるように,とりあえず直近の問題についてある程度合意が取れそうであること,神学論争は棚上げしそうな雰囲気がありそうなことがあります。小早川委員は原理的にはツッコまないようだし,井伊委員はそもそも専門じゃないし(まあだから逆に原理的になる可能性もありますが…),事務局長もそこは棚上げにして進めることを好みそうだし。何より,委員長のリーダーシップがしっかりしてる感じがするんですよね。もちろんあの動画見てるだけですが,凄く判断早いし,ポイントを絞り,積み上げて話をしようとしてる感じがする。まあ企業経営者としては当然なのかもしれませんが,分権会議のダラダラの議事録読んだ感想と比べると,という話で(以下自主規制)。ただ,今日来た日経をペラペラめくってると,分権委員会が地方公務員の人件費削減について人口とか面積なんかを基にした(新型交付税か!)数値目標を作るっていう話が載っていたので,とりあえずはウケのよさそうな人員削減で行くんですかねぇ。ここにきてインプットのコントロールからスタートするっていうのは,規律密度を下げるという話とはやや逆行してるように思うんですが…。まあアウトプット/アウトカムがコントロールできないのであるなら,ある程度対象を絞ってインプットをコントロールすることもやむをえないのかもしれませんが。

Hamilton's Paradox: The Promise and Peril of Fiscal Federalism (Cambridge Studies in Comparative Politics)

Hamilton's Paradox: The Promise and Peril of Fiscal Federalism (Cambridge Studies in Comparative Politics)

Fiscal Decentralization and the Challenge of Hard Budget Constraints (MIT Press)

Fiscal Decentralization and the Challenge of Hard Budget Constraints (MIT Press)

*1:厚生労働省がいらなくなって年金福祉機構だけになったりして…(苦笑)

*2:Roddenの議論みたいに,多くの議論は地方が制度的に与えられたインセンティブから財政的に放縦な行動を取ってしまうという意味での「モラル・ハザード」を恐れているわけですが,この場合,権限だけ与えられた地方政府が何するかわからないという意味で,ホントに「モラル」の方が問題になったりして。