第11回会合(2007/7/5)

今回の会合は,財務省総務省の担当者を呼んでヒアリング。しかしまあよく考えたら,もちろん密室でやってるギリギリの折衝とは違うにせよ,財務省総務省の第一線の担当者が最近の施策も含めた地方財政についての説明をすることを聞く機会なんてなかなかないわけですから,地方財政の研究者にとってはなかなかよいお勉強の機会だなぁ,と思うわけで。資料もかなり詳細かつ最新の資料がアップロードされてるわけですし。地方財政のゼミとか持ってたら学生さんに見せてあげたいところですが,そうは言ってもファイルのDLの仕方がわからないので(ストリーミングのみ),結構環境的な要件が厳しくなるわけですが。意見交換も,基本的に各委員がひとりづつ,各担当者と議論するかたちを取っていたので無秩序なブレストと比べて大分聞きやすかったです。ブレストのときは途中で止めたくなるのに,今回はまあほとんど集中力を切らさずに聞くことができたので。

まあそれはそれとして,総務省財務省の言い分を簡潔にまとめると次のような感じでしょうか。

  • 地方の債務残高について,国際比較の観点から総務省がその「量」の多さ(GDP比)を,財務省が「税収と比較した量」の少なさ(税収比)を主張
  • 偏在については双方がその問題点を主張,しかし総務省は財源不足団体の苦境を強調しているのに対して財務省は財源超過団体の過剰なサービス(とは言わないが)を主張。
  • 社会保障関係については総務省は「社会保障関係費」がこれから国・地方ともに伸びることを強調,財務省は平成19年度予算の「社会保障給付費」で国庫負担が地方負担よりもだいぶん大きいことを主張する。これは財務省の資料が給付だけを見ているのに対して,総務省が人件費を込みにして考えていることに起因するらしい。
  • 総務省は特に近年の地方団体の行政努力によって歳出抑制が進み,プライマリーバランス(PB)が大きく改善している点を主張,財務省は1975年からの時系列を見て,1990年代に地方の歳出が増えていたために最近の歳出抑制が進んでいることを示唆。
  • 双方とも一般行政経費が増大する一方で投資的経費が大きく縮減し,公共事業関係費を削る余地が少なくなっていることを主張。
  • 財務省は1990年代の単独事業の急増は,最終的には地方団体のほうで意思決定ができるようになっており,計画と決算の乖離も出ているということを主張するのに対して,総務省は国の当時の説明では国が応分の負担をするといっていたことを指摘。
  • 個別の主張を見ると,総務省のほうは地方に対する国の規律付けが厳しいという主張と,補助事業といっても補助事業を実際に動かすために単独事業によって継ぎ足さないとどうしようもないという話を。含意としては,(国が決める)補助事業のときに,地方は補助ウラだけじゃなくて単独事業で継ぎ足す必要があってその部分は地方の負担になっている,ということか。
  • 財務省の方の新しめの主張としては,税源移譲に回す原資としては補助金交付税なわけで,税源移譲を進めると(例えば1:1にすると)補助金交付税が減るために,税源移譲で偏在が進む一方でそれを緩和する機能が弱くなり,より格差が広がるというもの。対応するためには地方団体間の水平的財政調整が必要,という話。これは僕も前にここでちょっと書いたような話に近い。

まあこんな感じで,同じような話をしているんですが,実は微妙に違うデータを持ってきて自らの主張を述べているのに対して,相手の主張の当否については議論しないので,聞いているほうとしてはややかみ合っているように聞こえない。「何を,どういう切り口でみるべきか」という方法論のところでコンセンサスを取ったり,説得をしたりするところがないと,本質的には進まないんじゃないかという気がする。…と思っていたらやっぱり委員で同じように考えていた人がいました。露木委員ですが,かなり厳しいコメントをしています。この点については完全に流れてしまったのが残念ですが。引用は若干気が引けるところもありますが,公開の場の発言で,これくらい言うことも珍しいと思うので。確定版はぜひ一月後の議事録の方を。

説明はよくわかります。大変あの…そういう専門家で,緻密なことをやられているんですからよくわかるんですが,これが何をやられているかというと,地方の方がたくさん借金があるんだとか,国のほうがたくさんあるんだということを,データを上手に組み合わせて…まあみなさん日本の事務系では最高の頭脳を持っていらっしゃる方々がそんなことに一生懸命どっちがこっちだなんてやってて,果たして国地方合わせて借金の残高を減らすことが果たしてできるのかな,と思ってですね,大変残念に私は思いました。それが,明快な根拠があるならともかくとして,「どちらかというと国のほうがたくさんあるんだ」「どちらかというと地方のほうがたくさんあるんだ」要するに国全体のことを考えているようなことをことをさかんに主張しておられながらですね,総務省は地方のことを,財務省は国家全体のこと,ということをより強調したいがためにこのような資料を出されたんじゃないかなぁという風に邪推を私なんかしてしまうわけですよ。それは,みなさんのようなスーパーエリートがやることじゃないでしょ,というのがまあ一点あります。

具体的な内容については,大きく分けると行革と税財源のお話。まず行革については,主に猪瀬委員からの問題提起で,多くのマスコミさんの既報通り,国の出先機関の職員の削減案を中央各省に自ら出すように要請するという話。委員会は地方六団体に対して国と地方で行政が重複している部分についての整理を要請していて,確か市長会がある程度まとまった紙を既に出しているので,おそらくこれと突き合わせて中央各省が改革に対する意欲,痛みを出すつもりが足りない,とやるのではないかと。まあ実際各省というか実質的に狙われてる国土交通省農水省が委員会の満足するような削減案を出してくるとは思えないのですがどうなるでしょうか。思い返せば三位一体のときも六団体に補助金廃止のリストを出させるとともに各省にもそれを要請し,厚生労働省とかはゼロ回答を出してきたわけで,前回が郵政選挙の後だったのにゼロ回答だったということを思うと,今度の選挙の結果次第では「次の総選挙まで粘れば何とかなる」という行動が出てきてもおかしくないわけで,政治的な状況としてはより厳しいことが予想されます。各省の「改革意欲のなさ」を槍玉に挙げる戦略,ということになるのかもしれませんが,今度は生首の話も出てくることになるので,ちょっと難航が予想されます。可能であれば委員会が独自に積み上げることができればいいとは思いますが,どのくらい時間がかかるかわからないことを考えると,結局この方法を取るしかないのかもしれません。
で,ヒアリングが総務省財務省ということで,今回のメインはどちらかというと税財源の話であったかと思われます。はじめにでてきたのは,猪瀬委員から特別交付税が不透明だ,という話。沢井先生や小西先生の話を引用しながら(出てくると期待していた湯之上さんの論文は出てこず),それが恣意的だという批判。どのくらい実質的な効果があるかどうかは別として,公開の場で担当者に特別交付税の公開化・透明化を明言させるというのを見ると,細かいところでネチネチというのは戦術としてはやっぱり有効なのかも,と思ったり。
まあ特別交付税はそんな感じの議論だったのですが,興味深い議論はやはり税源移譲と偏在の話。これが今回のポイントだったのでしょう。小早川委員の法人課税の見直しについての質問に対する,財務省の担当者(主計局次長?)の答えが考え方の整理になるのではないかと。それをまとめると,(1)総務省が言うように,税体系を変えて,偏在度が相対的に低い地方消費税のウェイトを増やして偏在度が高い法人課税を国に持っていくというのがひとつのアイデア。(2)それに対して財務省の提案は,現在の地方財源の偏在の原因となっているのは法人二税なので,この法人二税の分け方を変えることで偏在に対応できるのではないかということ。つまり,今の税体系の中で偏在をなくすような努力ができるのではないかというのが問題意識。そこで,法人二税について,「極端に言えば」それを人口と面積で分けるというのはあるだろうが,具体的には議論してみないとはっきりはいえない,という発言があります。これはその後で増田委員長代理がそれはいわば法人税の譲与税化に近い議論であって,納税者の受益と負担という関係は切られてしまうために地方税の世界の話ではなくなってしまう,という指摘をします。
まあ譲与税化というのは,徴税機構を集権化するという話につながるわけで,それ自体はおそらく「分権の流れ」の中で難しいかとは思われますが,財務省が地方団体間の水平的調整によって偏在を是正すべき,と主張するときには,偏在の激しい法人二税を中心に地方団体間で水平的調整をすることがひとつの方法であるとして提案されています。財務省が,「国の介入しない」水平調整制度についてホントのところどう思っているかはよくわからないのですが,財政制度等審議会の資料などでも出ている様子であるところを見ると,税体系を変えるよりは水平調整制度を導入する方が望ましいと考えているように見受けられました。それに対して総務省は,小早川委員の「地方団体間の水平調整制度を導入するとすれば,その導入で「汗をかく」のは国か地方か?」という質問に対して,「実態として地方団体の間で水平的調整の話がつくとは思えない」という割りと冷淡なコメントを残しています。しかしながら,この委員会には,その水平調整制度の導入に当たって最大の障害というかメインプレイヤーである,東京都の副知事となった猪瀬委員が参加しているわけで,(今回はこの辺についてコメントがなかったのですが)ひとつのトピックになるのかもしれません。まあ第8回の会合で,地方団体間の水平調整制度を地方の側で運営することについて,知事会会長が明確に否定的な発言をしているわけで,地方にとっては「自分たちで調整すること」を抱え込むのはいやだということなわけですが,これだけ自己責任とかいう話が出ている中では最終的にそうも言ってられない可能性もあるのではないかと思われます。ただし,政治的に水平的調整に向かったとしても,日本って単一国家の国なわけで,地方が主体的に運営する地方団体間の水平調整制度みたいなものとの相性はあまりよいとは思えないわけで,それをどうやって法令で規定するか,というのは技術的にもかなり難しいように思われます。見ている限りでは,小早川委員は水平的調整について関心がおありのようなので,法令関係の整理のときに出てくるのかもしれない,と思わないでもありません。
で,(1)の税体系全体を見直すときに問題になってくるのがやはり地方消費税。今回地方消費税について発言したのは井伊委員のみで,現行の国の消費税が付加価値を課税ベースにしているのに対して地方消費税が国の消費税額を課税ベースにしていることを指摘します。つまり,地方消費税は国の消費税に何らかのかたちで連動してしか決まらないわけで,地方が自律的に消費税額を決めることはできないと。そして,地方消費税も付加価値を課税ベースとして,地方が「独自に」消費税を決めることができるように,という話をします。ただここ,ちょっとわからないんですよね。話を聞いた限りでは,「説明責任は総務省が負う」というちょっとどんな説明責任なのかわからないコメントがあったことを考えると,「全国一律の地方消費税率」を何らかのかたちで決定するようなしくみを想定しているように思えたのですが,総務省財務省のリプライは「各地方団体が独自の消費税率」を決定することは流通の問題があるので技術的に難しい(が勉強している),というものでした。まあある程度経済圏の閉じた地域(例えば道州?)ならありうるでしょうが,現在の都道府県単位では各都道府県で独自の消費税率を設定することが難しいのはまあそらそうで,井伊委員が質問したのはやはり全国一律の話かな,と思うのですが,そのときにはどうしても代表制の問題が出てくるのではないかと思います。この日にちょっと書いたのですが,代表制の問題を考えると,この議論はいまのところ地方団体の国政参加(地方行財政会議!?)の議論との兼ね合いになるのではないか,と思ったりするわけですが。
まあ今回はこんな感じではないかと。で,「まちづくり」を委員長代理+猪瀬委員,「くらしづくり(社会保障)」を井伊委員,「税財源」を委員長+委員長代理で「たたき台」を夏の間に作るそうです。最後に「たたき台」作りの話でなんだか記者とよくわからないやり取りがありましたが,そんなの出てきたもの見ればいいだけなのに,と思ったり。記者さんにとっては「たたき台」を作るところで全てが決まる世界を見慣れたりしてるもんなのでしょうか。よくわからん。で,次回は厚生労働省ヒアリングだそうです。二人の首長は後期高齢者の話で怒り出しそうですが…。