第12回会合(2007/7/12)

なんだか今回は途中から地方分権改革推進委員会というよりも医師不足対策委員会みたいな感じになっちゃいました。重大な問題であることには間違いないのですが,社会保障全般を所管する厚生労働省を呼んでる訳だからもっと集中的にやる議論があってもよいのではないかと…今回は福祉の話はほとんど出なかったのですが,またいつかそういう機会がある,ということなんですかね。
しかしにわか医師不足対策委員会はなかなか…。最近のいわゆるネット医師のブログなんかでは絶対叩かれるだろうなぁ,という話が頻発しておりました。やっぱり今の偉い人たちはすぐに「(今の医師は昔と比べて)志がない」とか「強制的にでも配置できる仕組みを」って言っちゃうんですよね。「こころざし」については,僕が聞いている限りでは既に志がないひとはやってられないということのようですが…で,さすがに人攫いならぬ医師攫いはできないとしても強いネガティブ・インセンティブを与えて,医師に「仕方なく」地方に赴任させる仕組みを作るのはちょっとどうかと。そんな状態で(すぐ帰りそうな)医師に来てもらっても困ることも多いでしょうし…何よりこれから反動で医師の大量養成がある程度行われた後でも厚生労働省が一度作ったキツイ制度を意味なく守りそうな悪寒。分権委員会として,本当に厳しい状況にある僻地に医師を配置するのが国の責任だ,と気勢を上げるのはいいのかもしれませんが,全国均一のサービス供給という観点からそもそもその「僻地」というものをどのように捉えていくか,という議論と向き合うことが中長期的には重要になるように思えました。
さて,中身については冒頭厚生労働省の担当者から社会保険制度と生活保護についてのブリーフィング。最近導入されて詳しくは知らなかった新しい制度(一応後期高齢者はこの前調べたのですが,それ以外に後述する「保険財政共同安定化事業」とか「高額医療費共同事業」など)の説明があったので,結構ふむふむと聞けます。なんか最近のヒアリング部門ではむしろ新しい制度の説明として聞くことが多いように思いますが…。それが1時間くらいあったあとに意見交換ですが,上に書いたように途中から医師不足話になったので,社会保険関係で実質的な議論をしたのはほとんど露木委員だけでしょう。生活保護については冒頭で猪瀬委員が北九州の事件に触れたくらいで,残念ながらその後はほとんど議論されず。別に機会が設けられることになるのかなぁ,と…。
以下,今日は(も?)話が長いので。
露木委員の論点は主に二つ。その議論は国保が中心です。

  • 社会保障に関しては,基本的なサービスは財源も含めて国が保障すべきであって,それを上回るものについて地方の自主性というのが強調されるべき
  • 今回の後期高齢者医療制度のように,多額のシステム投資など自治体に大きな負担をかけるような施策が,突然決められて情報提供もほとんどないのに早速導入されるのはおかしい

特に前者の論点について,厚生労働省の説明としては,医療については国保政管健保を長期的に都道府県単位を軸に再編・統合する方向をめざします,というようなことを説明していて,資料の中でも次のようなことが書いてあります。

Ⅳ.超高齢社会を展望した新たな医療保険制度体系の実現
市町村が運営する国民健康保険は財政基盤が脆弱であり、また、健康保険組合の中には、小規模で財政が窮迫している保険者もある。他方、政府管掌健康保険は、全国一本の保険者であり、地域の実情が保険運営に十分反映されていないという課題がある。このため、都道府県単位を軸とする保険者の再編・統合を進め、保険財政の基盤の安定を図り、医療保険制度の一元化を目指す。
平成17年12月1日 医療制度改革大綱(政府・与党医療改革協議会)

保険者の再編・統合っていうのがいまいち…というところがあったのですが,説明資料の別の部分によると,

2.保険者の再編・統合
(1)国民健康保険
国民健康保険については、都道府県単位での保険運営を推進するため、保険財政の安定化と保険料平準化を促進する観点から都道府県内の市町村の拠出により医療費を賄う共同事業の拡充を図る。あわせて、保険者支援制度等の国保財政基盤強化策について、公費負担の在り方を含め総合的に見直す。
(出所は前の引用と同じ)

という話になっていて,さしあたり都道府県単位で保険財政を安定化させ,保険料を平準化させたい,というような感じなのかな,という理解をしています。特に,保険財政共同安定化事業(30万〜)・高額医療費共同事業(80万〜)など一定金額移譲の高額な医療費については,各保険者の拠出によってプールされた財源から交付する制度ができていて,市町村単位では負担が大きい部分の医療費を都道府県レベルで再保険のように扱うかたちで保険料を平準化させようという仕組みを進めているらしい,と。平成17年に導入された国民健康保険都道府県調整交付金も市町村間の保険料の平準化に使える,という議論が出ていました。

厚生労働省が実のところ何をどうしようとしているのかはよくわかりませんが,説明を聞いている限りでは政府が関係する健康保険(国保政管健保)の保険者機能を長期的に都道府県レベルで考えていきたいのかな,ということはわかります。しかし同時に,国レベルでの一元化については被用者保険と国保の所得捕捉率が違うことや,事業者負担の存在を理由に消極的な回答に留まります(って政管健保はいいのか,と問い質したいところですが…)。なんというか国が一律にするべき仕事についての考え方がきっと違うんだろうなぁ,と思った典型的なコメントが次のものです。

医療費の適正化や平準化について都道府県の主体的な取り組みが期待されているということではないかと思っております。先ほど,国民健康保険はまだ小さいんじゃないか,もう少し財政単位を大きくすべきじゃないかというお話がありますけど,そのとき一番問題になりますのは,一緒になりますと保険料水準をそろえなければいけませんので,保険料が上がるところと下がるところが出てくると。これを解決するためにはまず不合理な医療費格差をできるだけそろえていかないと保険料が揃ってまいりませんので,そういうことで都道府県のほうでいろいろな保険事業とかそういうことを調整交付金を使ってやっていただいてはどうかと。
それからもうひとつは保険料を平準化するということで一緒になりますと保険料の損得が出ますので,従前よりも保険料が上がるところについては調整交付金を使ってそれを少し補填するということで,できるだけ平準化をしておきますと,できるだけ保険料が揃っておりますと,さらなる広域化がやりやすいと思っております。

つまり,一緒にすることによって保険料水準を統一する,という考え方ではなく,保険料水準が同じところを一緒にする,という発想になっているのではないかと思うのです。実務というのはそういうものなのかもしれませんが,少なくとも理念的には,同じサービスを提供するのに市町村間で保険料水準が違うという現状の方に問題があるように思えるのですがどうなんでしょうか。被用者保険みたいに,わかりやすく「一律」と切り出せるところを切り出していくことでそのツケがどんどん国保に回っていって,(国ではなく)地域内での相互扶助という国保のフィクションを維持することがどんどん困難になっていく中で,都道府県に揃えるという方針を打ち出しつつも,市町村間で保険料水準が揃っていくことを前提とするのはちょっと無理があるような気がします。
フィクションという点では,後期高齢者医療制度国保に対するよくわからない過重負担を取り除くという点が高く評価できる一方で,露木委員によると,年金の天引きで保険料を徴収できる75歳以上の層が移ることで国保の収納率がより悪化するという問題があるそうです。結局,社会保険制度の歪みを引き受けた国保というものを,地域の相互扶助というフィクションでそのままにしておくことこそが大きな問題ではないかと思うのですが…厚生労働省の担当審議官と露木委員のやり取りを以下の見る限りでは,道のりはかなり遠いように思えてしまいます。

厚労省)医療に関して言えば,露木委員のおっしゃるミニマムは国というご趣旨は,あらゆる事業の基本的なものは財源も含めて国が保障し,付加的なサービスの部分のみを基礎的な自治体がやるというご趣旨であるならば,それは例えば医療に関して言えば違うと思います。医療の供給を保障するのは国及び地方公共団体だ,ということで両方が協力してということもありますし,単に,例えば今の国保課長の応えの中でひとつ収納率のことを例にしていうならば,確かに年金から天引き徴収をするというのを国がやるならば,65歳以上の人の徴収はほぼ完璧になるだろうから,その部分は楽になるけれども,残った65歳未満の人については低所得者があれば自営業者もあって,税の捕捉率もいろいろあるから,大変な部分だけが市町村に残るんだ,というご趣旨だと思いますが,それはそれで理解する一方で,じゃあ75歳以上のことをこういう広域連合という形を取らないで,そのまま今の国保の基礎的な自治体単位で保険者機能を全うできるかというと,やはりいろんなリスクを負うからこそこういう制度を作るのであって,全体の中でいろいろ解決しないといけないことはあるけど,基本的な方向としては,だから広域連合はおかしいんだということではない,という風に理解させていただいてよろしいでしょうか。
(露木)何もおかしいなんてことは言っておりません。現実としてそういうのが残ってしまうところをどう手当てするかということであります。75歳以上の後期高齢者の保険を何らかのかたちで立ち上げないと日本の医療保険制度がうまくいかないことはよくわかります。ただそういう制度設計をするに当たって,もうちょっと基本的なところから地方の意見も入れて積み上げて,やって欲しかったな,というところが今回の後期高齢者医療制度にはあります。特にコンピュータの問題。

次回は国土交通省農林水産省で,その次は厚生労働省文部科学省だそうです。絡む省庁を入れているので,省庁間のやり取りがどのくらいされるかということも見ものですが…。