第23回会合(2007/10/10)

今回の会合は,冒頭に石原都知事ヒアリング(というか意見陳述?)があって,その後は国交省農水省ヒアリング。両省については,国交省の都市計画と農水省の農業振興地域という土地利用の問題と,国交省公営住宅関係について議論されています。石原知事については既に報道されているように,消費税を地方の基幹的な税として扱うとともに,知事会レベルで消費税の議論をしていくことが重要だということ,さらにヒト・モノ・カネが集積する東京に特殊な行政需要が存在することからいわゆる「東京ひとり勝ち論」は的外れだという話をしています。あとはあまり報道では取り上げられていませんが,微妙に行政区画の再編について肯定的な見方がなされているのが個人的には興味深いところです。曰く,現在の都道府県は最大の東京都から最小の鳥取県まであまりにも幅が広すぎるので,その区域をアプリオリに考えるのは問題だろうと。いやまあよくある話ではあるのですが,都知事が税財源の問題を除いて他の道府県に関連する制度問題について発言するのは結構珍しいなぁ,と思ったりして。また,その税財源の話についても,知事は単に税財源が充実していわば「自立」できる東京の話をスタンダードにしようとするのではなく,地方の「自立」を強調する丹羽委員長に対してある程度の税財源の移転(垂直か水平かはわかりませんが)が必要であるという認識をされているところはもう少し注目されてもいいのではないかと。具体的には以下のようなやり取りですが。

(丹羽委員長)
お話のような明治以来の中央集権主義を変えないという官僚の慣性の法則がずっと続いててね,一切変えたくないということがある,そこを何とかこの分権委員会でやはり地方自治というものを中心にして,本当の地方自治というのはやはり交付金に頼らないでやっていける自治体制を組まないといけないということなんですね。一気には行かないでしょうけど,やはり最終的に目指すところはそういうところじゃないかと思ってるんですが。知事には省庁の縦割りを排除して,地方がもう少し地方政府を確立できるくらいの議論を進めていただきたいと思っています
石原都知事
国にぜんぜん依存せずに地方が立っていくというのは難しいと思いますね。だけど,地方の特性を活かしきれない縛りというのは,税財政のうえで課せられているもんですから,地方はやっぱりお上である中央をうかがいながらモノをせざるを得ない。これはやっぱり司馬(遼太郎)さんが言ったとおり,本質的な変化というものをこの国にもたらさないと。地方は立っていかないでますます疲弊するし,東京にとってもちっともありがたくないけど…これ以上集中・集積があったって賄いきれないですよ。東京を歩いてみても本当に家がどんどん建ってるし,マンションがどんどん建ってるしで私はありがたいとは思わないですよ。これ以上無理だなと思いますけどね。

知事の退席後は国交省の都市計画・公営住宅関係のヒアリング。まず都市計画についての国交省の主張は,都市計画における国交大臣との協議同意や都道府県の関与は,基本的には無茶な開発の抑制とともに,(市町村間の関連が強くて)特に広域的な調整が必要とされる場合に重要になるというもの。例えば最近よく言われる郊外のスーパーの問題で,市町村ごとの都市計画を実施に移すことになると,雇用が欲しい/農業がうまくいかない町村で,車さえあればいけるということでスーパーをどんどん誘致をされると,中心性のある商店街の方が滅びてしまうことが懸念されるために上位機関の関与が必要であることや,特に三大都市圏では住宅需要が強いところがあるのにどの市町村も住宅供給が難しいように都市計画を立てていると困るので都道府県の調整が必要,という話がなされる。しかしよく考えると,例えば後者の場合,身近な自治体が容積率を上げたくないといっているのに,より遠くの政府によって勝手に容積率があげられて,周りが高層マンションだらけになったら,もともと低層住宅に住んでいた住民の観点から見てどうなのか?という問題はあるような気がするのですが…。
この点について,丹羽委員長は広域的な問題がある場合には市町村間の広域的な協議で問題を解決するようにできないのか,と問いますが,国交省はそれには雇用や税金の複雑な問題があってうまく調整がつかないから国が関与する必要があるということ。昨日のエントリの最後でも佐藤俊一先生の本を引用して書いている話ではありますが,確かに日本の市町村はこれまで広域連携を上手くやってこなかった実績があるとされているものの,中央からの関与無しに連携をやった経験自体がないために,結構なんとも言えないところがあったりするわけで。露木委員も指摘するように,市町村に任せることでストレートに開発になってしまうのはやはり問題で,国や県が間に入ってそれをある程度抑えるのはそれなりに重要,というところも事実だとは思いますが。
公営住宅については,国交省の言い分としてはそもそもファミリー向けの(賃貸?)住宅供給が少ないので,特に低所得者向けにそれをカバーしているのだということ。諸外国を見ると住宅政策というのは社会的セーフティネットとして行われることが多いわけで,井伊委員も公営住宅のそういう役割について質問するものの,国交省の回答はどうもそこの部分は担当ではないというようなもの。確かにファミリー向けの住宅供給って言うのは少ないと思うのですが,それはこれまで社宅とか官舎で囲い込まれていたことに起因するところがあるわけで,そういうフリンジベネフィットが少なくなりつつある中で,政府の公営住宅政策の対象や目的は変わらずに国交省が担当するままでいいのか,という気はします。まあそういう住宅に入ることになる身からすると,じゃあとにかくたくさん住宅供給をしてもらって家賃を安くして欲しいと思ったりもしますが…(苦笑)。
農水省は主に転用規制の話。農水省としては地方自治体に任せると激しい開発が進む可能性があるので,優良農地の確保のために転用規制は必要,という姿勢であってそれはそれで理解できる部分も大きいのですが,ちょっとあまりにも説明がグダグダではないかと…(時間のある方は聞いてみて下さい)。例えば公共施設への転用がいままで国の許可が不要ということでなされていて,公共施設が優良農地のど真ん中にできることで農地の虫食いが進むということを問題視した結果,公共施設への転用についても許可制にする,という話が出てきます。丹羽委員長は官庁の裁量をなくすという観点から,「それでは優良農地の公共転用自体全面的に禁止にしたらいいのではないか」と聞くのですが,それはそれで全く煮え切らない返事をするなど,結局のところどのあたりに重点を置きたいのか個人的にはちょっと見えないなぁ,という印象を受けてしまいます。
国交省ヒアリングのときには特に露木委員から,都市計画だけをやるのではなくて農業振興との関係も含めて総合的な土地利用についての計画を作るべきだ,という話が出されて,国交省の側も「土地利用について総合的にやるべきという指摘はその通りだと考えている」「法制的には国土利用計画法というしくみはあるが,ミクロまでは降りていない」というようなわりと問題意識を共有しているような回答が帰ってきています(とはいえ,やるとなると問題が多いという回答でしたが)。農水省に対しては井伊委員から,総合的な土地利用を考えたときに農業委員会が圧倒的多数の農業関係者で構成されるのは問題ではないかという質問が出たものの,農水省の回答はやや分裂気味だったのがちょっと気になります。転用許可を持っているのは知事で農業委員会は現場の実態について意見書を提出するだけということで,そもそも大きな権限を持っていないという含意を持つような回答をする一方で,私的な法律関係に介入するという重要な業務について農業の共同体の代表を選挙で選んでその合議で決定するために,農業委員は農家であることが重要であると強調されています。問題は,神門先生の本で指摘されるように,ある地方自治体の中で,農家の利益のみを追求する農業委員会によって恣意的な決定が行われるのが好ましくない,というところにあると思うのですが。権限移譲をすることで開発主義が進む可能性がある以上,権限委譲の前提として総合的な土地利用を意識した上で農地に関する透明な意思決定を行うための条件整備という観点から農業委員会の問題を捉える必要もあるのではないかと。まあそれでも権限移譲の結果として,優良農地を集約させて生産性を向上させることができる地域が出現する一方で,無秩序な転用を許して農業を荒廃させてしまう地域が出現する可能性がある,ということは意識すべきだと思いますが。

日本の食と農 危機の本質 (シリーズ 日本の〈現代〉)

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